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第1話 - あ

2023年09月29日

#恋愛

結城　真矢

ハルミ

アイの結婚相手の方、真面目そうないい人で安心したわ

ノゾム

そうだな。それになんてったって大金持ちの御曹司だからな

ハルミ

アイも幸せそうで良かったわね。結婚式が楽しみね

ノゾム

これで子育ても終わりだな

ノゾム

ハルミ、今まで俺の連れ子のアイを、実の子みたいに育ててくれてありがとう

ハルミ

ううん、そんな…

ノゾム

というわけで、役目が終わったお前とはさよならだ

ハルミ

…え？

ノゾム

悪く思うなよ。俺は元嫁のマリアと結婚するんだ

ノゾム

アイの結婚式と同日に籍を入れる予定だよ

ハルミ

…嘘でしょそんないきなり…

ハルミ

しかもよりによってマリアさんと再婚！？

ハルミ

あの人があなたとアイを捨てて不倫して逃げたの、

ハルミ

忘れたわけじゃないでしょうね！？

ノゾム

忘れたわけじゃないさ

ノゾム

最初は、絶対に許さないと思ってた

ノゾム

だけど、こないだマリアと再会した時、考えが変わったよ

ノゾム

何もかも失ってボロボロになりながら、

ノゾム

アイと俺に申し訳ないと、アイに会いたいと、何度も謝って来たんだ

ノゾム

その様子に、心を動かされたよ

ノゾム

だから、マリアと共に両親としてアイの結婚式に出席して、

ノゾム

アイの花嫁姿を見せてやってから、再婚する予定だよ

ノゾム

きっとマリアにとってもアイにとっても、感動的な式になるはずだ

ノゾム

素晴らしいだろう！マリアは娘のウェディングドレス姿を見るのが夢だと言っていたし、

ノゾム

アイだって、本当の母親に会いたがってたしな

ハルミ

嘘でしょアイが…？

ノゾム

当然だろ。マリアは生みの親なんだから

ハルミ

素晴らしい式？どこがよ！どうして不倫して逃げた女が今更、

ハルミ

母親面して娘の結婚式に出席するのよ！

ノゾム

母親面も何も、マリアが母親だろ。あのな、誰にだって過ちはあるんだ

ノゾム

マリアはもう十分罰を受けた。それを、ずっと許すべきじゃないというのか？

ノゾム

ずっと苦しむべきだというのか？

ノゾム

それはひどいんじゃないか？マリアが可哀想だと思わないのか？

ハルミ

酷い？酷いのはそっちでしょ！私はどうなるのよ！

ノゾム

お前は式には出席しないでくれ。感動的な実の親子の再会を邪魔しないためにもな

ノゾム

所詮血の繋がりのない他人なんだ。それを母親面されたら、マリアの立場がないだろ

ハルミ

そんな仕打ちってないわよ！私は20年間もずっと、アイを実の子みたいに育ててきたのに、

ハルミ

用済みとばかりに捨てられるの！？

ノゾム

あのな、さっきはお前に礼を言ったけど、恩着せがましくしないでくれるか？

ノゾム

不妊が原因で元夫に捨てられて途方に暮れていたお前を引き取って、

ノゾム

母親としての体験をさせてやったのは誰だと思ってる

ノゾム

むしろ、お前こそ俺達に感謝すべきだし、感謝が足りないんじゃないか？

ハルミ

そんなのってないわよ…

ノゾム

悪いな。血の繋がってないお前は、所詮本当の母親には勝てないんだよ

～数時間後～

アイ

お母さん！お父さんからとんでもない連絡来たんだけど！

アイ

結婚式でお母さんの席をなくして、代わりに産みの母親を出席させるって！

アイ

しかもお母さんと離婚して産みの母親と再婚するって！こんなのって酷くない！？

ハルミ

え？アイは何も知らなかったの？

ハルミ

アイも産みの母親のマリアさんに会いたがってたって、お父さんから聞いたんだけど

アイ

会いたがってないよ全然！不倫して家族を捨てたようなあんな女！

アイ

私のお母さんは、20年間ずっと育ててくれたお母さんだけだもん！

ハルミ

アイ…ありがとう

アイ

確かに小さい頃は、産みの母親を恋しがって泣いてたけど、

アイ

まさかそのことを言ってるんじゃあ…

ハルミ

お父さんが言うにはね、マリアさんはボロボロになってすべてを失って、

ハルミ

反省していて可哀想だから復縁してあげたいんですって

アイ

あー…なんか納得したかも

アイ

お父さんって、『可哀想な女の人』に弱いからねー

アイ

その割には娘には無関心だったけど

ハルミ

なるほど…思えば私も同じだったのかもね

ハルミ

不妊が原因で元夫に離婚されて途方に暮れていた時に出会って、再婚に至ったから

ハルミ

そのことを感謝しろって言われたわ

アイ

やっぱりね…ま、そのお陰でお母さんに出会えたから、その点は良かったけど

アイ

でもこんなのって酷い！お母さんが式に出席できないなんて冗談じゃないよ！

アイ

絶対に式には出てね！

アイ

席はあの人たちからは離れたところに用意する

アイ

あの人たちに見つからないように、変装していけばいいよ！

ハルミ

ありがとう、アイ

アイ

あの人たちのことは、あえて出席させるよ

アイ

私、とびっきりの復讐思いついたから！

～結婚式の翌日～

ノゾム

■不在着信■

ノゾム

おい、これはどういうことだよ！

ノゾム

お前はいないと思ってたのに…なんでこっそり式に出席してやがるんだよ！

ノゾム

しかもなんだ、あの花嫁の手紙は！！俺に恥をかかせやがって！！

ノゾム

さてはハルミ、お前の入れ知恵だろ！

ハルミ

いいえ、アイが思いついたことよ

ノゾム

へ？

ハルミ

アイの手紙、凄かったわねぇ。今でも一語一句覚えてるわ

ハルミ

『私が幼い頃、産みのお母さんは不倫して家族を捨てて出て行き、

ハルミ

お父さんは仕事ばかりしていて、私はいつも一人ぼっちでした』

ハルミ

『お父さんは家にいる時も、まるで自分だけが辛いかのようにお酒ばかり飲んでいて、

ハルミ

私が話しかけても無関心でした』

ハルミ

『私が母親を恋しがって泣くと、うるさい！と怒鳴りつけても来ました』

ハルミ

『そんな寂しい思いをしていた私に、初めて親の愛情を教えてくれたのが、

ハルミ

お父さんの再婚相手である育てのお母さんでした』

ハルミ

『私の気持ちに寄り添ってくれて、いつでも話を聞いてくれて、

ハルミ

風邪をひいた時は夜通し看病をしてくれて、褒めたり叱ったりしてくれて、

ハルミ

まるで実の子供のように育ててくれました』

ハルミ

『それなのに、お父さんはそんなお母さんを用済みと捨てて、

ハルミ

恥知らずにも今更戻ってきた産みの母親と再婚しようとしています』

ハルミ

『お母さんに、血の繋がらない他人だから式に出るなとも言ったそうです』

ハルミ

『私のことを、ずっとお母さんに丸投げだったくせに』

ハルミ

『二人ともおめでとう。産んでくれてありがとう。でも、もう私には関わらないでください』

ハルミ

『私の親は、今そこに出席してくださってるお母さんだけで十分です』

ハルミ

『血の繋がらない私を育ててくれて、本当にありがとう』

ハルミ

って…感動的な手紙だったわねぇ。一生の宝物にするわ

ノゾム

ふざけるな！どこが感動的なんだよ！

ノゾム

そのせいで俺もマリアも、親戚中に白い目で見られて、恥かいたんだぞ！

ノゾム

結婚式後は親戚中に責められまくって次々絶縁されるし、

ノゾム

アイに文句言おうにも、LINEもブロックされてるのか既読つかないし、

ノゾム

電話も着信拒否されてるし…

ノゾム

なんでだよ…俺達はアイの血の繋がった親だぞ！

ノゾム

それなのに、なんで継母のお前が親として認められて、俺達は絶縁されるんだよ！

ノゾム

こんなの、おかしいぞ！

ハルミ

おかしいのはあんたよ。アイの手紙を聞いて、まだわからないわけ？

ハルミ

血の繋がりなんか関係ない。心の繋がりが私達にはあるのよ

ハルミ

あなたが実の娘のアイと築こうとしなかったものがね

ハルミ

でもいいじゃない。娘に絶縁されても、大好きな元嫁とこれから一緒になれるんでしょ

ノゾム

それが…あの後、マリアと大喧嘩になったんだ

ノゾム

あいつ、アイの手紙に俺のことを逆恨みしてきて、

ノゾム

『あんたがちゃんとアイを育ててればこんなに恨まれなかったのに！』とか言ってきたんだ

ノゾム

俺はそんなマリアに

ノゾム

『お前が不倫なんかして出て行ったのが悪いんだろうが！』と…

ノゾム

そのまま籍を入れる話は流れて…あいつ、また逃げて行ったんだ

ノゾム

俺には、借金だけが残った…

ハルミ

え、借金？

ノゾム

マリアの連帯保証人になっちまったんだ！

ノゾム

マリア、不倫相手のホストに貢ぎすぎて1000万円の借金があったから、

ノゾム

可哀想になって一緒に背負っていこうって言っちまって、それで…

ノゾム

アイの結婚相手は御曹司だから、余裕で返せるだろうと思って…

ハルミ

呆れた。娘夫婦にたかるつもりだったのね

ハルミ

マリアさんもそれが目的であなたに復縁を迫って来たんじゃないかしら

ノゾム

どうしよう！娘や親戚たちには縁を切られて、マリアには逃げられて、

ノゾム

追ってくるのは借金取りばかりなんだ！

ノゾム

でもお前が戻ってきてくれたら、どんなことでも乗り越えられそうな気がする

ハルミ

は？

ノゾム

なぁ、俺達同じバツ２だろ

ノゾム

今更他に相手は見つかりそうにないし、やり直さないか？

ノゾム

お前だったら、アイ達を説得して助けてくれるだろ？

ハルミ

冗談じゃない。なんでそんなことしなきゃならないのよ

ハルミ

私は役目が終わって、もう用済みなんでしょ

ハルミ

それに、私は娘夫婦と同居することになりましたので

ハルミ

アイも旦那さんも、是非にと言ってくれてね

ノゾム

だったら尚更助けてくれよ！

ノゾム

あいつら金持ってるだろ！俺の現状を説明して、

ノゾム

父親を助けるように言ってくれよ！

ハルミ

アイはとっくに知ってるわよ。あんたの現状なんて

ノゾム

は！？

ハルミ

マリアさんが借金を負っていたことも、肩代わりしてくれる人を探していたことも、

ハルミ

もうとっくに調べがついていたみたいでね

ハルミ

その上で、あなたが困ろうがどうでもいいと言ってるのよ

ハルミ

お父さんが選んだ道なんだから、自業自得だって

ノゾム

そんな…でも、お前はアイ達と同居してるんだろ！

ノゾム

頼むよ！こっそり金持ってくるくらいはできるだろ！

ハルミ

は？何？泥棒しろっていうの！？

ノゾム

この際仕方ないだろ！俺の娘の金なんだ、何が悪い！

ハルミ

冗談じゃないわ

ハルミ

そういうところよ、縁を切られたのは

ノゾム

何！？

ハルミ

どうして私を慕って助けてくれた娘を裏切れるものですか！

ハルミ

それに、私もあなたがどうなろうと関心ありません

ノゾム

嘘だろおい…

ハルミ

それじゃ、さよなら

ノゾム

待てよ！俺がお前を拾ってやったんだぞ！

ノゾム

俺のお陰で、子育てもできてアイにも出会えたんだぞ！

ノゾム

恩返しする気はねぇのかよ！

ハルミ

その点は感謝してるわ

ハルミ

だから、あなたが望んだとおり身を引いて離婚してあげたじゃない

ハルミ

それを、今更戻って来いなんて言われても困るわ

ハルミ

それじゃあ、お互い再出発頑張りましょう

～後日談～

ハルミ

その後、元夫のノゾムは借金取りに追われ、

ハルミ

利息で膨れ上がる借金に、返しても返しても追いつかないのだそうです

ハルミ

マリアさんを呼び戻そうとするも、こちらも着信拒否されて

ハルミ

どこを探しても見つからないんだとか

ハルミ

金に困ったノゾムはついに違法な商売に手を出し、

ハルミ

捕まって塀の向こうへと行きました

ハルミ

マリアさんはノゾムにすべて押し付けて身を晦ませようとしましたが、

ハルミ

こちらもやがて捕まり、

ハルミ

借金取りの手配で熟女専門の夜の店で、

ハルミ

体を酷使して働くことになりました

ハルミ

二人とも、二度と娘夫婦には関わらないでもらいたいです

ハルミ

私は、優しい娘夫婦と楽しく暮らしています

ハルミ

やがて孫も生まれることになり、とても楽しみにしています

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結城　真矢

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