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「おかあさん、今日の夜は、帰って来る……?」

様子を伺うような、弱々しい声が緊張気味に発せられる。

華の母

「はぁ、そんなもんわかるわけないだろ! 
ったく、あんたって馬鹿なの?  いつもいつも同じ事ばっか聞いて……」

小さな鏡に向かい大きく見開いた目球だけを声の方に向けてマスカラを塗りかけた手を止める。

「そうだよね…… ごめんなさい……。」

華の母

「これ、メシ代置いとくから……」

ファンデーションやら口紅やらが散らかった台の上にパチンと音を立てて100円玉が2枚置かれた。

「うん、ありがと。 おかあさん、お仕事頑張ってね。
学校行って来まーす。」

痩せた体に、大きなランドセルを背負い、静かに家を出る。

山本

「社長、本日は小学生の職場見学が午前10時より入っておりますので、ご準備の方をお願い致します。」

山本が、いつものようにタブレットのスケジュールを確認しながら口早に優也の尻を叩く。

優也

「分かった。 出迎えは、お前がやってもらえるかな……?」

山本

「承知しました。」

山本

「それでは、皆さん社長の成崎よりご挨拶をさせて頂きます。」

会議室のパイプ椅子に座った小学生達は、キラキラした瞳で優也が皆の前に立つのを見つめていた。

ざっと見て、60から70人の子供達は優也達の会社が衣料ブランドの会社と知ってか、それなりに皆小綺麗な格好でキメていた。

中には、ご丁寧にうちのブランドの洋服を着ている子も数名いた。

叔父から受け継いだ会社の中に優也が作った、自社ブランドの「チェリーブロッサム」と言う子供服専門のブランドがある。

生地も含め全てをメイドインジャパンで売り出した、高級子供服だ。

日本で売り出したが、ハリウッドの何とか言う女優が自分の娘にと購入したのをきっかけに、海外でも店舗を作るようなブランドに成長した。

会議室の最前列右から 3番目。 この子が、着ているワンピースは、1枚20000円。

子供服としては、なかなかな金額だと自負している。

そんな子供達の中に、ふと優也の目に飛び込んで来たのは、回りの子達とは、明らかに一線を格している 少女だった。

優也

「……!!」

先日のコンビニで見掛けたゴミ箱の少女だ。

小学4年生を対象に開催している会社訪問に、ひときわ小柄な彼女の存在はそれだけでも目立ったが、それよりも目を引いたのは寝癖で絡まった髪の毛と大きなシミのついたTシャツに、かなり丈の短いジーンズと言ういでたちだった。

そんな彼女の周りに誰も一緒には座らない事も彼女を際たたせていた。

そして何より、少し俯いた小さな体には、そんな空気全てを受け入れる、諦めの器が備わっているように見えた。

子供達に、会社の設立された頃の写真や、どうやって今のように大きな成長を遂げたかなどのスライドを見せた後は、社員食堂で昼食をとる予定になっていた。

山本は、素早く子供達を食堂まで引率して、調理場を見学させた後、各々トレーにカレーライスとサラダ、フルーツゼリーを乗せ席に着かせた。

先生

「皆、席に着いたか~」

引率の教師のかけ声に子供達は、元気にハーイと答えた。 

先生

「それじゃあ、皆でいただきます!」 

普段は、大人ばかりの食堂に、子供達が数十人。

食堂の空気が何となく、いつもより清々しいと山本の眼鏡の奥の細い目が、僅かに微笑んだ。

昼食も終わり、ようやく子供達はバスに乗り込み今日の職場見学のスケジュールを終えた。

山本が、皆を見送り社長室に戻って来た。

山本

「失礼します。」

コーヒーカップを片手に、今日のスケジュール終了の報告に来たのだろう。

優也

「お疲れ、何事もなかったんだろ…」

コーヒーに手を伸ばしながら、山本の僅かに曇った表情が何となく気になった。

良きにつけ悪きにつけ余り感情を面に出さないのが山本の良い所でもあり、他から浮いて見える悪い所でもある。

そんな、こいつが何を気にかけているのだろうと、ちょっとした興味が湧いた。

優也

「何か、あったのか?」

もう一度聞いてみる。

しばらく、ほんの4、5秒考えたのか、ふと我に戻ったように答える。

山本

「いえ、特には…」

そう一言答えると、これ以上聞いてくれるなと言わんばかりに、ツカツカと部屋を後にした。

優也

「あいつの事か…?」

山本が去った後、あのコンビニ少女の事を思い出した。

確かに、彼女の存在は、あの冷静沈着な山本でも気になるだろうと、1人で納得する。

と言うより、優也自身ずっと気に掛かって仕方がなかった。

思いっきって、車のキーを掴んで部屋を出ようとした所に章太郎と鉢合わせた。

章太郎

「どっか行くのか?」

ぶつかった拍子に落とした車のキーを拾いながら章太郎が優也の顔を覗き込んできた。

優也

「ああ…、あれだ、その…子供の忘れもん届けて来る。」

ばれるであろう嘘をさらっと、残しそれ以上の質問を遮って車に飛び乗った。

小学校の駐車場に車を止めると、ちょうど4年生が解散して、バスから降りてそれぞれ自宅に向かい始めた所だった。

男子

「おーい、鼻水ハナ。 今日の会社訪問のカレー、持って帰ったか~!?」

男子

「お前んち、カレーライスも食った事無いだろ~!」

2、3人の男子達に囲まれた中に、あのコンビニ少女を見つけた。

ブルル-ン

大きなエンジン音で、男子達の横に車を止めた。

男子

「あ、社長さんだ!」

一人の男子が優也に気がつくと、コンビニ少女を囲んでいた、男子達が皆こちらに向かって来た。

優也

「マジか… お前達じゃないんだよ!」

心で呟きながら彼らを交わしてコンビニ少女の肩に手をかけた。

男子

「うええぇ、触った! 社長さんが鼻水ハナに触った~」

そんな男子達の言葉に一瞬気を取られたすきに優也の手を振り払って、またもやコンビニ少女、鼻水ハナは駆け出した。

しばらく車で、辺りをグルグル探したが、彼女の姿を見つける事は出来なかった。

諦めて近くのコンビニで、コーヒーを買うことにして車を止めて、フロントガラス越しに店の中に目を向けた。

少女だ。 コンビニ少女  鼻水ハナ。

ゆっくりと車のドアを閉めて店内にはいると、彼女の小さな手には、3枚入りの食パンが大切そうに乗せられていた。

レジには、3、4人の中学生やサラリーマン風の男が並んでいる。

ハナはその一番後ろに立並んだ。

優也は、自分がコーヒーを買いに来たことも忘れて何を買うでもなく、あれこれ店の商品を見るフリをして彼女の様子を伺っていた。

一人目の会計が、終わる頃に3人でペチャクチャと話しながらレジに並ぼうとしている女子高生の姿が 見えた。  彼女らの大きなカバンがハナの小さな体を押しのけてサラリーマン風の男の後ろに並んだ。

ハナは、何か、言いた気に巨人可した女子高生達の顔色を伺っていた。

優也

ツカツカ!

優也の足は自分の理性を押し祓い、女子高生達の方へと押し進んだ。

優也

「ここ、コイツが並んでたんだけど。」

出来るだけ落ち着いたトーンで…

優也の中では、精一杯の笑顔で。

こんな時、章太郎の言葉が、いつも頭をよぎる。

章太郎

「お前なぁ、ルックスはソコソコイケてんだから、もうちょっと愛想よくしたらどうなんだよ…  その方が、話しも進むってもんなんだよ。」

だから、優也自身の中で一番の笑顔を作って見せた。 つもりだった…

女子高生

「あっ、す、すいません…」

女子高生達が、優也の指差した先の少女を確認してもう一度優也を見た。

そして、サラリーマンの後ろに少女を促して自分達は後ろへと移動した。

優也は、何となくその場の空気が重く感じて結局何も買わずに店を出た。

コンビニ店員

「120円です。」

少女はレジに3枚入り食パンを静かに置いて、手のひらの200円をカウンターの上に置いた。

その後ろでは、さっきの女子高生達が、クスクスと笑いながら優也の方を見ている。

優也

『愛想よくしたって、変わらないじゃないか!』

優也は、心の中で章太郎に文句を言って、大きな ため息をついた…

コンビニ店員

「ありがとうございました~」

外国人の少したどたどしい声が響いた後、少女が店から出てくる。

優也の顔をチラッと見て、通り過ぎた。

優也

「オイ…」

優也は一瞬、が何と声をかけていいのか迷って立ちすくんだ。

優也が、呼び止めたからなのか、ハナ自身の意志なのかは、分からないがゆっくりと優也の方に向きなおると、声に成るか成らないかの小さな息のような言葉が聞こえたような気がした。

「ありがとう…」

そうして又道路の方に体を戻すと、歩き始めた。

その姿が、まるで空気に溶け込んで消えて無くなりそうで優也は、慌てて彼女の腕を捕まえに走った。

優也

「待って。」

驚いたハナは、無意識に もう片方の手で、自分の頭を防御した。

そのとっさの仕草に優也は、慌てて手を放した。

優也

「ごめん! 痛かったか…」

ハナは、自分の腕から離れた優也の手を確認して、ゆっくり視線を登らせた。

ようやく優也と目が合うと、しばらく何かを観察するように見つめてから、体から空気が抜けて行くように、防御していた腕を下ろしていった。

優也

「家は? この近くか?」

少し警戒しながらハナの頭が、縦に動いた。

優也

「乗って行くか?」

優也が自分の車をチラッと見ると、今度はその頭が、小さく横に振られる。

「知らない人の車に乗ったらいけないって…  学校で言われてるから…」

かすかに聞き取れる位の声で答えた。

優也

「そうだな…」

最もな返答に、納得して優也は、コンビニの店員に少しの間だけ車を置かせて貰えるように頼んでもう一度はなの前に立った。

ハナはその間、じっと優也の様子を伺っていた。

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