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青皓い月明かりが、深夜の住宅街を照らしていた。
ごめん、と短く目を伏せたのが、別れの言葉だと頭では分かっているはずなのに、現実のように感じないのはどうしてだったのだろう。
月明かりに照らされた小さな公園は、青皓く浮かび上がって見えた。 いつの間にか、幼い頃の思い出を辿っていたようだ。 何も知らずにいられたあの無垢な時間は 、指の隙間から砂のようにこぼれて消えた。
先生には家庭があると、最初から知っていたことだ。それでも、心のどこかで私は、願わずにはいられなかった。
青い墨絵の公園に、長身の人影が見えた。ジャージの上に長羽織という奇妙な組み合わせが、いかにも彼らしい。
だから、やめておけって言っただろ。 年下の幼友達が呆れた様子で笑う。
泣くなよ。
子供には関係ないじゃない。 泣いてムクんだ顔で強がる私は、きっと世界で一番、不細工だ。
不意に彼が、私を抱きしめた。 俺なら絶対に泣かせない。 怒ったように尖った声は、いつもの照れ隠しだということを、私は知っている。
ばか。 枯れるほど泣いたはずなのに、また、涙がこぼれた。 彼の腕の中は、冷たいキンモクセイの香りがした。