知らんうちに恋人ができていた件について

ないこ said

下校時刻を告げるチャイムが校内に響きわたる

俺の下にいるまろの目が大きく見開かれていた

深い青のような色が映る瞳に わー、綺麗だー、なんて現実逃避してみる

呼吸も時間を全部止まったかのような空間で、ただ分かるのは

唇に触れる柔らかな感覚

心の中で絶叫する

内藤ないこ。まさかこんなところで17年間守り通してきたファーストキスを失うことになるとはおもっても見ませんでした

幼い頃から両親の攻撃を交わしまくりやっと守った俺のファーストキスの相手がまさか幼馴染(男)だなんて誰が考えただろう

…待って俺さっき激辛チップスとか食べたんだけどやばくないか。まろ大丈夫かな

唇が重なった一瞬で様々なことが頭を駆け巡り、ようやく俺は唇を離した

違う。そうじゃない

それはガチでごめん

ほんのり頬を染めるまろ

思いっきり天を仰ぐ

神様。俺たちが一体何をしたというのでしょうか

俺たちのファーストキスはまだ終わってない。大丈夫。事故はノーカンって誰かが言ってた…俺か

隠し通すから安心しろよ、の意を込めて親指を立てた

If side

教室の椅子に引っかかって転びそうになった片思い中の幼馴染を支えたら色々あってキスされました

そろ、とないこが唇を離す

いやテンパりすぎやろww

でも、そっか…俺、ないことキスしたんや。実感が湧いて頬が熱くなる

も？？も？！え、ないこもファーストキスなん？！ラッキーすぎん？ありがとう神様

このキスを俺は一生忘れない。 never forget…

暫く天を仰いでいたないこが俺の事をしっかり見つめて口を開いた

は？え、何？責任取る？？付き合ってくれるってこと？

全く状況が理解出来なくて頭にハテナを浮かべる

俺の心の声に、ないこがサムズアップで応えた

ないこ side

教室に入ってきたまろに、控えめに手を振る

昨日の今日でなんだか居心地が悪い

対するまろは満面の笑みで、思わず2度見する

待って、俺とまろどんなことになってんの

何をだよ

いやもう何も覚えてないけどとりあえずうんって言っとこ

だってまろはつい昨日ファーストキスを望まない形で失った男なんだから

心の中で合掌する

きっとまろ、ショックでちょっとおかしくなっちゃったんだろうな

うん、何が？？？

訳も分からないまま答えるとまたにこにこし出すまろ

情緒が不安定すぎてなんかもう怖い

す、と俺の手に手を重ねてくるまろ

頭大丈夫かこいつ

なんでだよ

泣かないけど

何言ってんのかさっぱり分かんないけどまろがいいならいっか、と頷いてみる

ようやく話が通じるようになってきてちょっと安心する

良かった。ようやく頭が正常に働き出したらしい

安心から思わず笑みを零すと、まろがぽっと頬を染めた

お願いだから治ってくれ、と思わず頭を叩く

前言撤回。まだ彼の頭はぶっ壊れたままのようです

If side

教室に入るとないこが小さく手を振ってきた。はい、可愛い

やべ、声デカすぎた

丸く見開かれた桃色の瞳が綺麗で思わずガン見する

ほんとにまさかないこと付き合えるなんて思ってもみなかったし嬉しくて昨日寝れなかった

思い出したフリなんかしちゃってさ。ツンデレなとこも可愛すぎ

自分から言ったのもあって余計恥ずかしいんだろうな…俺から言ってあげれば良かった

あー、優しい。そういうとこを好きになったんだよな

思わず口角が上がって、ないこが不審げな視線を送ってくる

え、いい？触っていいかな？？

そっとないこの手に自分の手を重ねると、パッと顔をそらされる

そっぽを向いたまま、モゴモゴと言う声が聞こえてきた

俺は正直「ないこは俺のやから」 って言って回りたいっていうか

なんでだよ？？？え？ダメなん？

ないこたんと付き合えましたいえ〜い！！！！！！ってアニキのクラス乗り込もうと思ってたんやけど

あ、なんだそういうことか。焦った〜 誰にも言ったらアカンのかと思った

まあそれはそれで秘密の関係ぽくて萌えるけど。俺とないこだけの秘密♡みたいな

分かってくれたのか、ないこが頷く

だってずっと片想いだった訳だし。自慢したいって思うやん普通

あー、どうしよ。学校だけじゃ全然足りないんやけど。放課後も一緒にいたいしなんなら夜眠る瞬間まで見てたいし同じお墓入ってほし

平常心平常心。

いつも通りを装ってまた口を開く

この前出来たカフェ。ないこが行きたい、と話していたのはチェック済みだ

よしきた！！！！！

え、ないこ笑ってるんやけど可愛い。いつも可愛いけど今日は昨日より可愛い。それで多分明日は今日より可愛い

何度も念押しする。こればっかりは笑い事じゃない

優しすぎるないこはすぐに余計な仕事ばっか引き受けるんだから。まあそういうとこも好きなんだけど

ないこはなんとも思ってないやろうな

ここは俺から言って意識させるべきなんかな

照れ隠しのパンチが俺の頭を揺らした

ないこ side

学校を出てまろと一緒に駅までの道を歩く

いやおかしいんよ！！！どう見ても！！

何の話してんの？

謎の左右移動はシンプルに邪魔だからやめて欲しい

あと荷物持ってくれんのも周りの目が痛いから辞めて欲しい。むしろ持たせて

それでも一向に辞める気のないまろに呆れた視線を向ける

なんっっっっでだよ！！！！！

幼馴染が突然言い出した「こういう関係」の意味について

あれー？？なんで俺手繋いじゃってんだろ

手を繋いだまろが嬉しそうに笑う

俺は全ての思考を放棄した

頭のおかしいまろに連れられて店に入ると、既に店内には甘い香りが漂っていた

案内された窓際の席に2人で座る

喋りながら繋がれたままの右手を思い切り引っ張って離す

テーブルの下で手繋ごうとするな付き合いたてのカップルか！！！！

てか机結構でかくて左肩だけめっちゃ下げてんの割と本気でヤバいやつぽいから止めな

離された左手を見つめて悲しそうな顔をするまろ

そんなぴえんみたいな顔されても繋がないから諦めて頼め

笑うとパッと嬉しそうな顔をするまろ

嬉々として注文している横顔を盗み見る

いつもよりコロコロ表情を変えるまろが、なんか可愛いと思ってしまう俺も、もしかしたら今日はおかしいのかもしれない

先に運ばれて来たのはまろの頼んだパンケーキだった

まろがパンケーキを1口大に切り分ける

美味しそうなシロップがとろ、と零れた

顔を上げたまろが目を輝かせながらフォークを差し出してくる

受け取る直前でまろがフォークをパッと引いた

ついに耐えきれなくて声に出す

いやマジでおかしいって今日どうしたの？？？？？

翻訳ぷりーず。ねえ、誰か。答えてよ

急に照れんな

そうだよ。恋人同士じゃなきゃあーんなんかしないって。うん……

まろの目が大きく見開かれる

え、俺なんか間違ったこと言ってる？

待って何それ初耳なんだけど？！？！？！

両方ともパニックでもう訳が分からない

パンケーキからたれたシロップがベタベタに机を濡らしていた

何を

やべ、なんか勢いで返事しちゃった

嘘でしょリア充って、こうやって発生してるの？？？

俺の口の中に甘いパンケーキが突っ込まれる

店には俺のケーキを持ってきた店員さんの困惑気味な拍手だけが響いた

俺今ならラノベ小説家になれそうな気がする

ニコニコしながらケーキを受け取っているまろと「お、おめでとうございます…？」と頭を下げる店員を見ながら現実逃避する

タイトルはもちろん、

「知らんうちに恋人ができていた件について」