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私たちは、いつものように他愛のない会話をしていた。
睡蘭
夜境
夜境がそう呟く。 そういえば私はいつ狭間から出られるのだろうか。いずれは後継者を... そんなことを考えていたその時。 あの笠の星の子に遭遇したときのような、嫌な感じが身体を駆け巡った。
睡蘭
また何かが起きる...?不安と焦りで心臓の鼓動が早くなる。 瞬間、心臓がズキンと激しく痛んだ。
夜境
私はあることを思い出してしまった。 突然痛みを感じたのも納得できる。 俯いて固まっている私に声をかけた夜境から、少し距離をおくように離れ、顔を上げ夜境を見る。 言わなくてはいけなかったこと。
睡蘭
───ずっと願っていた。期待して、叶ったつもりでいた。 ずっと夜境と居られると。 これは全部、私のせいだ。 私が先代の方が教えてくださった定め事を、中途半端に覚えていたせいで。 でも、こんなことになるなんて思いもしなかった。 いや、こんなのただの言い訳だ。 相変わらず果てしない暗闇が広がっている狭間の中、気持ちも暗闇に沈んでいく。 私は今まで、定め事の一つである''お役目は必ず1人で負うこと''を忘れてしまっていた。そして、夜境が自ら手伝いたいと言ってくれたことに舞い上がって、定め事を破ってしまったのだ。 そして──────笠を被った星の子が来た、あのとき。あの星の子が本当は、狭間が少しずつ壊れていくようにしていたこと。 なんとなく勘づいていたのに、夜境に言えなかった。自分でなんとかするべきだと焦って隠してしまった。 さっき痛みを感じたとき、直感的に 私はここを去らなければならない運命だと確信した。 私にこの役目を負う資格などなかった。 私だけ、こんなに大切な役目を背負わされても、ダメなままだった。 もう夜境と一緒に居られない...。 何かが込み上げてきて涙が出そうになるのを必死に堪える。 また下を向いてしまっていた顔を少し上げると、夜境が困ったような表情で立ち尽くしている。 どうしよう、こんなこと言えるわけがない。 今私の前にいる夜境はきっと、私を心配してくれているだろう。 色んな後悔が一気に押し寄せてくる。ダメだな、私......
睡蘭
自分の手を握りしめる。手から体温が引いていくのを感じる。
夜境
夜境の表情で、困惑しているということが分かる。 身勝手で無責任な自分のせいで、夜境を困らせてしまったこと、夜境を置いて去っていかないといけない事実を再認識させられて、また涙が出そうになった。 「本当になんでもないから。気にしないで。ごめんね、心配させちゃって」 ごめんね、と。それしか言えなかった。 私と夜境の、最後の時間。 臆病な私はこんな時に夜境に嘘をついてしまった。 言いたいことが、言わなくちゃいけないことが、これからやりたいことが、あったのに。
何も言えなかった。