テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
空気が揺れていた
夕方の太陽が、校舎の窓ガラスを淡く焦がす
黒煙は空を食い破るようにあがり
消防の赤いランプがぎらついていた
騒ぐ声
叫ぶ声
遠くに響くサイレン
焼けたゴムの臭いが風に乗って
校門の外まで届いていた
「宮城県立 伊達工業高校」
無骨な鉄筋の校舎が火に包まれ、静かに崩れていく
静かに真っ直ぐ
その光景を見ていた1人の少年がいた
制服の袖に灰が降る
何も言わず、何も思わないフリをして
制服のポッケに手を入れたまま
ただ眩しそうに空を見上げるだけ
地元では名の知れた工業高校
その校舎は
燃えていた
お母さん
○○
テレビの中、アナウンサーの声が
乾いた室内に響いていた
昨夕、大崎市内にある伊達工業高校にて
校舎火災が発生しました。
生徒、教員けが人はないとの事です
火元はまだ不明で───
お母さん
お母さん
○○
スプーンを口に運びながら
○○はニュースをただ流し見していた
ヨーグルトの甘さが喉の奥で少しだけ重かった
テーブルの上には開いた文庫本と
半分だけ飲まれた紅茶
あの火事で怪我人いないんだ...
○○
○○
独り言のようにそう○○は呟いた
お母さん
母がキッチンから顔を覗かせてそう言った
画面はもう別のニュースに切り替わっていた
けれどさっきの黒煙の形は
妙に頭に残っていた
○○
○○は立ち上がりながらスマホを確認する
7時42分か...
制服のリボンを結び直し、鞄を肩にかける
窓の外はいつも通りの晴れ
「何も関係の無い火事」だった
この時までは
本当にそう思っていた
先生
先生
先生
先生
そう言った担任の佐伯先生は
教室の後ろまで見渡しながら一礼した
黒板の前
まだ手に持った資料をまとめきれない姿から
どこか急な話だと言うことが伝わる
先生
先生
先生
先生
先生
先生
そう締めくくると
先生は手早く教科書をまとめ
教室を後にした
背中の緊張はそのまま教室に置いてかれた
となると...
前の席の誰かがぽつりとそう言った
こうなるよね...
教室のあちこちで声が立ち上がる
ざわざわと波のように言葉が飛び交って
やがて椅子を動かす音が鳴る
いくつかの机が中央に集まり
いつものように自然に輪ができる
整ったスカートの裾
上品な香水の香り
声のトーンは控えめだけど
内容には露骨な警戒と不安に満ちていた
その輪の少し外側
窓際の席で○○は静かにその光景を見ていた
伊達工...
よく知らないけど
男子が多いってことは確か
ペン先をノートの余白に遊ばせながら
近くで話してる声にただ耳を傾ける
言葉はどれも
同調と拒絶の間を行ったり来たり
言葉にすることで安心しているようにも見えた
○○
軽くツッコミを入れてから
ペットボトルを取りだした
○○
○○
外は晴れていた
こんな日に
嫌な予感ばかりするのは...損だ
そう思っていたがどこか胸はざわついた
コメント
6件
新作ありがとうございます😭続き楽しみにしてます😊
新作来たぁぁぁぁぁぁぁぁ🩷🩷 めっちゃ楽しみです‼️☺️ᩚ きんにくまんさんのペースで頑張ってください(๑•̀ㅂ•́)و✧