テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
No.15
松村北斗の追憶
・起きた時
・身支度を整えている時
・家を出る前
・帰宅後
・寝る前
1日に何度も見る写真立てには 幼い頃の俺と○○が こちらを見て笑っている。
これは、俺が幼稚園を卒園 した時のもので、一緒に 小学校に入学できると思った ○○が、この後号泣して 困ってしまったのを、 今でも昨日のことの様に 思い出す。
そして、この写真には 続きがある。
○○
卒園式からの帰り道、 ぐずぐずと泣く○○に、 母親達が困ったように笑う。
俺だって、○○を置いて 小学校に行くなんて ごめんだけど、それが仕方の ないことだというのも 分かっているので、何と言えばいいのか分からなかった。
それでも○○の涙を 止めたくて、気休めにしか ならない事を言う。
松村北斗
○○
相変わらず口を尖らせたまま 頷く○○と繋いだ手を ギュッと握り直して、家で 作戦を立てることを決める。
よし、○○と家出しよう。
家で考えた結果、6歳児が 必死に捻り出した案は、 大人達に言うと笑われて しまうかもしれない。
けれど俺の中では一大決心で しかなくて、リュックに必要と 思われるものを詰め込んだ。
決行日は明日だ。
翌日、お昼ご飯を食べて 家を出た俺は、○○の家の インターホンを鳴らす。
「そのリュックどうしたの?」 と○○のお母さんに聞かれ、 ドキリとしたけれど、 「ピクニックごっこ!」と 笑えば○○は飛び跳ねて 喜んだ。
○○
ウキウキの○○の部屋に入り、 小声で「本当はね、」と、 今日の計画を告げると、 ぱぁっと輝く瞳。
○○
そう言って○○はリュックに 着替えと大事にしている うさぎのぬいぐるみを 詰め込んでピクニックごっこに 行くと思っているお母さんに 貰った2人分のお菓子を 1番上に入れた。
手を繋いで、「いってきます」 と踏み出した1歩の重みは 未だに忘れられない。
○○
少し歩いたところにある 公園には、小人の家と呼ばれる 遊具があり、○○と来たのは 初めてだった。
小学校への通学路を母親と 歩いたときに見つけたここに、 絶対○○と来よう、 と決めていた。
遊具の中にはテーブルと 2つのベンチ。
ニコニコとお菓子を頬張る ○○を見て、自然と頬が緩む。
さすがに冷静に考えて、 ずっとここにいられないことは分かっているし、夕方になれば 帰るつもりでいるけれど、 ○○を見ていると本当にどこか 遠くに行きたくなった。
○○
そう聞く○○のは視線を 落としたまま悲しそうで、 「あたりまえでしょ!」と いうと、「よかったぁ」と やっとこちらを見る。
○○
松村北斗
○○
松村北斗
○○
松村北斗
○○
松村北斗
ポケットに手を入れて、 朝からずっと大切に持っていた ものを取り出す。
小さく輝くおもちゃの指輪を 見て、○○は不思議そうに 首を傾げた。
松村北斗
○○
俺は○○の左手を取り、 薬指に小さな花の付いた 指輪を嵌める。
「かわいい〜」と嬉しそうに 指輪を眺める○○を見ると、 もっと喜ばせたいけれど、 春の空気はどんどん 冷たくなってきた。
そろそろ帰らないといけない。
○○
松村北斗
○○
松村北斗
少しだけ軽くなったリュックを 背負い、来た道を戻る。
繋いだ手はそのままに、 俺たちの表情は 晴れやかだった。
きみは、いつだって俺の心を 見抜いたようなことを 言うけれど、俺の気持ちは どのくらい伝わっているかな?
あのとき、指輪に込めた想いは 今も変わらず俺の中で キラキラと輝いているよ。
またきみを連れ出しに 行けるように、今はこの場所で 寄り添っていよう。
今も○○の部屋の アクセサリーケースに大切に 仕舞われているあの指輪の 存在を知らない俺は、
どうかまだあの約束が 有効であります様に、 と願った。