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ジリジリと暑い、快晴の夏の日

プシュー、と音を立てて、 大きな乗り物が目の前に止まる

これはバスっていう乗り物

人を乗せて、色んな場所にある 停留所っていうところまで、 連れて行ってくれる

あの日……君と初めて出会って、 初めて旅をした日に、 君がそう教えてくれた

ボクは乗ったことがなかったから、 お金を払うことも、降車ボタンを 押すことも、何も知らなくて

ピッ

交通系ICカードを登録している スマホをタッチして、車内の奥へ進む

2人用の席に1人で座って、 背負っていたリュックは膝の上に

ちなみに、窓側

君とバスに乗って初めて、ボクが 乗り物酔いしやすいことも知って

それからバスに乗る度に、 ボクが窓側に座っていた

ボク

(……あれも、もう11年前の話)

あの日からボクらは、バスに乗って、 適当なところで降りて、 その町をただ探索する

お金なんてほとんど持ってなくて、 何かを買ったりはできなかったから、 歩いて見て回るだけ

言ってしまえば、観光

きっと何も知らない人がボクらの ことを見れば、子供の観光客とか、 その迷子とでも思うだろう

けど、ボクらはその行為を、 頑なに“旅”と呼んでいた

11年経った今でも、そう思う

ボク

(……いや、正しくは、“思いたいだけ”かな)

ボクは、知らない世界を 「旅」したかった

観光なんてものじゃない、 あれは歴とした旅

それでボクらの……君の夢を、 叶えたつもりでいたいんだ

もし叶っていないなら、 もう叶えることはできないから

……この世界で、君と会うことだって

ボク

(……あれから、もう11年か)

11年前の……明日、明後日 ……明々後日だ

──君が、旅の途中で 死んだ日

1週間が始まる、月曜日の昼間

夏だから暑くて、その上今日みたいな 快晴で、バスの中は格段涼しく感じた

前日より人が少なかったのが、 せめてもの救い

その日は、いつもより遠く、終点の 停留所まで行って、街を歩いていた

ボクらの知ってる町より、高い建物 ……ビルが多く立ち並んでいて、 景色に圧巻されたのを覚えてる

君はそこを、「都会」って呼んでた

よく分からないから建物には入らず、 暑いから極力日陰を歩くようにして

キョロキョロと辺りを見回したり、 君と駄弁りながらの、いつもの旅

……だけど、その「いつも」は、 突然目の前から消え去った

いつも通り、2人で話をしていて、 ちょうど交差点に差し掛かった時

さっきまで笑っていた君が、突然 顔を青ざめさせて、何かを叫びながら ボクのことを突き飛ばした

急なことで分からなくて、 咄嗟に後ろを振り返った時、 そこには君ではなく、バスがあって

君は、少し離れたところで、 真っ赤になって横たわっていた

ボク

(あんなの、皮肉にも程がある)

まともなご飯も食べれてなくて、 体が弱くて小さかった君は、 バスに撥ねられて即死

体のあちこちの骨が折れて、 露出しているものもあったらしい

原因は、運転手の居眠り。 それは覚えてる

その子だと分からない程、 あまりにも惨い死に方

その街の近所の子ではなく、 遠く離れた小さな町の子

町にある家はその子を必要として ないから、行方不明届なんて出さない

ボク

(ボクも当時は放心状態で、まともに話せなかった)

いや……それ以前に、君のことを 何も知らなくて、話せなかったんだ

色んな不幸が重なって、 君は自分の名前ではなく、

「正体不明の小さな子」 「誰か分からないけど可哀想な子」

そんな名前で、世間に広がっていった

一緒にいたボクは、その 「可哀想な子」の友達

今ではすっかり、世間から 忘れ去られてしまったけど

そんな昔の話を思い出しながら、 窓の景色が歪んでいることに気づく

ボク

(あぁ、まただ……)

こうしてバスに乗ると、どうしても 君とのことを思い出して、 涙が出てきてしまう

ボク

(……もう、この空席に戻ってきてはくれないのに)

ボク

(君が隣にいてくれたらって、ずっと考えてしまう)

運転手

次は、○○、○○……

あっ、ねぇねぇ見て!

ボク

どうしたの?

ほら、ねこさん!

ボク

わぁ、ほんとだ。それに真っ白……

お昼寝してるのかな?

ボク

そうみたいだね

あのね、白猫って、幸せの象徴って言われてるんだよ!

ボク

そうなの?

うん! 昼間とか午前に会うと、縁起がいいんだって!

ボク

へ〜……じゃあ、これからいいことが起こるかな?

きっと起こるよ!

ふふっ、楽しみだね!

ボク

うん!

[検索]:白猫 意味

幸せの象徴、昼間に会うと縁起が良い 午前に会うと特に良いとされている

しかしその反面──

──事故やトラブルなどの 警告を意味していることも

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