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生ハム酸
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さいごのコーヒーに例えていた
わかるコーヒー飲めん。苦いやつとかめっちゃ!
コーヒーは、飲める
※マダキラ。
「あちっ。」
口をつけたマグカップを思わず離した。
中に入っているコーヒーが思った以上に熱くて、飲めなかったのだ。
マグカップを覗き込み、コーヒーを見つめる。
白い壁に囲まれた、薄茶色の海が揺れている。
とはいえ、見かけに騙されてはいけない。
海はマグマのように熱く煮えたぎっているのだから。
ふーと軽く息を吐いてコーヒーを冷ました。
マグカップを口に運んで恐る恐る傾けると、先程よりかは若干冷めたコーヒーが波を打つ。
そのままコーヒーをゆっくりと啜った。
温かいコーヒーが口に侵入し、舌いっぱいに広がる。
続いて受ける感覚は
「苦っ!?」
苦味だ。
舌を刺激するような苦い味が伝わり、思わず叫ぶ。
思いがけない苦味を感じとってしまい、驚きと困惑が混ざった感情が湧き出た。
しばらく苦味に悶え、改めて考え直す。
目線を斜め横に移動させると、そこにはシュガーポットがあった。
確かに砂糖はちゃんと入れたはずだ。それもたっぷりと。
しかし、少し思い当たる節があった。それは砂糖を入れる過程の少し前、インスタントコーヒーを入れる時だった。
インスタントコーヒーが入っている瓶を傾けすぎてしまったのが原因で、少しインスタントコーヒーを入れすぎてしまったのだ。
原因は恐らく砂糖ではなく、インスタントコーヒーの入れすぎたろう。
あまり砂糖を使いすぎて他の奴から怒られたりしても面倒くさい。
かと言って、コーヒーを捨てたりしても勿体ない。
仕方がない、ここは我慢をしてこの苦いコーヒーを飲もう。
一気に飲んだりすればコーヒーは早くなくなるが、それこそその分苦味が一気に舌に伝わってしまい大惨事になる事は想定できる。
減るスピードは遅いが、少しずつコーヒーを飲むことにした。
「……苦〜……。」
本当ならば甘いコーヒーで幸せな気分になるはずだったのに、今や苦味で舌が痺れる苦痛な時間だ。しかも熱い。
「無理をしてそんなもん飲むからだろ。」
自分が因なるもの、文句を呟きながらコーヒーを飲んでいると、どこからかそんな声が降ってくる。
後ろを振り返って見上げてみると、そこには赤いマフラーが特徴的な彼奴の姿が。
「……ゲ。マーダーじゃん。」
青い虹彩の上に浮かぶ赤い瞳孔と目が合ってしまう。
鼓動が脈を打つ。きっとそれは警戒からだ。
目を逸らして嫌悪を思いっきり顔に出すが、当の本人は気にしていない様子だ。
「コーヒー1つ飲めないなんてお前もガキだな。」
小馬鹿にする物言いで吐き捨てられる。
「ガキ」という単語に眉が上がった。
「これくらい飲めるし!熱いから冷ましてんの!」
言い返しは言い訳混じりだったものの、コーヒーが熱いということは事実だ。
しかし、マーダーは更にふざけた言い分を口にする。
「熱いものも飲めない猫舌のお子ちゃま。」
「……な!」
冷静かつ冷淡に捨てられた言葉に、怒りで頭がいっぱいになる。
それならば、マグカップの持ち手を持って頂を覗きこむ。
相変わらずそれは湯気をたたせてこちらを歓迎している。
多少の迷いはあったものの、言われっぱなしは癪だとそのまま一気にコーヒーを煽った。
やはり苦味が舌を伝わり、口いっぱいに毒が広がる。
それと同時に伝わるのは、コーヒーの熱さ。
危うく吐きかけてしまうが、これ以上彼奴の好きにはさすまい。何とか持ち堪える。
喉を鳴らして苦を飲み込む。
悶えていたもの、それは最初だけであった。
予想とは裏腹に、苦は徐々に柔らかくなっていく。
例えるならば、甘味だ。
飲みほす頃にはもはやコーヒーとは言い難い程の甘さになっており、もはや甘ったるいぐらいだった。
空になったマグカップを置く。
「甘っ……。」
痺れる舌に甘味が残る。
マグカップを覗くと、底には甘味の因なる残骸、砂糖が。
あまりにも白黒しすぎていた苦と甘に納得がいく。
「砂糖が混ざりきってなかったのか。砂糖が。」
あからさまに砂糖という単語を強調される。思わず反応しかけてしまうが、無視をして気を取り直す。
「……どうだ!ちゃんと飲めただろ?」
腰に手を当て自慢げに見やる。
そうだ、確かに僕はちゃんとコーヒーを飲めたのだ。コイツの予想とは裏腹に。
しかし、マーダーは相変わらず表情1つ変えずに見下ろすだけである。
その様子はまるでくだらないバラエティ番組を見るかの如く。
何も言いもしない奴に逆に腹が立つ。何かを家と口を紡ごうとすると、手で頬をガシリと掴まれた。
いきなりの事に少し驚くが、またきっとからかわれるに違いない。
何をするんだと睨みつけ、精一杯の威嚇を。
「口開けろ。」
「はぁ……?」
とんちんかんな言葉を聞き返す。
何で口なんて、問いかけようとした言葉を遮られる。
「いいから。」
口を開けなければいけない理由はよくわからないが、雰囲気から察するにからかうつもりはなさそうだ。
疑いはあったものの、言われた通りに口を開けた。
マーダーは両手につけているうちの片手だけの手袋を外す。
何をするつもりかとその仕草を見つめていると、不意に舌を引っ張られる。
「ん!?」
予想外の出来事に体が固まる。
驚愕の眼差しでマーダーを見つめるが、彼の視線は上の空であった。
痺れる舌が空気に晒され、余計に痛む。
手はすぐに離されたものの、驚きと謎が混ざって空いた口が塞がらなかった。
マーダーはスリッパを引きずりながら、近くにある冷蔵庫に向かう。冷蔵庫の製氷室を開いて中から氷を1つ取り出すと、またこちらに戻ってくる。
そして、僕の口の中に氷をホールインワン。
「つめひゃ!?」
急激な冷却により、痺れが増える。
「いっひゃ……!」
冷温よりも痛みが勝る。
思わず氷を歯で噛み砕いた。
「もう、いきなりなにすんの!」
上手く呂律が回らない。それは冷却により伴った、痛みのせいでもあるだろう。
「あんなもん冷まさずに一気に煽ったらやけどするに決まっているだろ。」
どうやら火傷の大急処置をしたつもりだったようだ。
そんなもの余計なお世話だ。しかも、そうさせたのは紛れもなくお前のせいではないか。
罵ろうと口を開こうとするが、またも遮られる。しかも今度は頬を掴まれて。
「挑発に乗るお前もお前だ。」
この馬鹿、とおでこを軽く叩かれる。
少し怒っているふうにも見えた。
それは、心配からくる怒りのようで。
そんなマーダーを見て、確かに僕も悪かったなと考え直す。
挑発にさえ乗らなければこんな事にはならなかったのに。
「……うるさい。」
しかし、音に出る言葉は素直とはかけ離れた強情であった。
それは本当に言葉だけの強がりで、見かけまでは取り繕えなかったようだ。
そんな僕を見つめ、マーダーは肩の力を抜いた。
「……最近、丸くなったな。少し。」
「は?」
「いや、お前。」
唐突に意味のわからない言葉を言い、マーダーは僕の隣の席に座る。
頬杖をつき、また言葉の切れ端を言い始めた。
「前までお前、俺と向き合おうともしなかったのに。」
確認をとるように視線を向けられる。
「……いやいやいや、何言ってんの?お前のことなんか興味無いし。」
それは本当の事だ。第1、僕は此奴の事が好きでは無い。寧ろ嫌いとまでいくレベルなのに。
嫌いな奴に興味なんて湧くわけが無い。
こいつは本当に何を言っているのだろうか。
頭の中がクエスチョンで埋め尽くされる。
「口、汚れてる。」
わざと話題を変えるようにして、口の汚れを指摘される。余計に違和感を覚えるが、敢えて気にしないようにした。
口元の汚れを拭こうとティッシュを取ろうとするが、僕よりも先にマーダーが動いた。
彼奴は僕の口元の汚れを拭くと、またもからかうように、ガキと一言。
「………っは!?」
彼奴にしては随分と珍しい振る舞いで、ワンテンポ遅れて反応がでてくる。
羞恥心で、一気に顔が熱くなった。
否、これはガキ扱いされた怒りが原因だ。羞恥心なんてものは微塵も感じていない。そもそも感じる必要性なんてない。
「がぁ……ガキにガキって言われても説得力ないと思うんですけどー!!!」
「ガキに構ってる暇なんてないしー!僕そろそろ行く!!」
マグカップに蓋をすると、金属同士が強く擦れてガチャリと音がした。
椅子から立ち上がると、マグカップを流し台に置く。食器とステンレスが揺れ、2つ同時に音を奏でた。
ここに居るとまた言い返しをされて喧嘩に発展する予感がする。此奴と喧嘩なんてする価値もないと、そそくさとその場を後にした。
「……。」
浮かれ足でその場を去るキラーの後ろ姿を横目で見ていた。
止めはしなかった。止めても無駄な気がしたからだ。
流し台に置かれたマグカップに視線を流す。
先程の、コーヒーが思い浮かんだ。
混ざりきっていないコーヒーは、最初こそは苦くとも、飲み干していくと甘くなる。
混ざりきっていない甘いコーヒー。
きっと彼奴も、そんな感じなのだろう。
時を重ねれば、その内気づいてくれるのだろうか。
果たしてそれはいつ頃なのか、なんて淡い期待を寄せて、俺は彼奴を待ってやる。