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少し大きめのリュックに飲み物と地図とお弁当をつめて、 登山道に足を踏み入れる。
奈由子
誰もいない道でそう叫び、歩き出した。
緑に囲まれた凸凹道を力強く歩いていく。 山を登るのが趣味で、山頂でお弁当を食べるのが一つの楽しみだ。
一時間ほど歩くと小さな滝が流れていた。 私は水をひとすくいして飲んだ。
奈由子
リュックに入っていた空のボトルに水を汲んで、 また暑く長い道のりを進み始めた。
奈由子
山頂を指す看板がちらほらと出てきた。 ここまで温存してきた体力を全て使い果たす勢いで走り出した。
奈由子
近くに設置してあった木のベンチに座り、早速お弁当を食べ始めた。
奈由子
お弁当を食べ終わり、下山する準備をしていたその時。
???
小さくぼそぼそと聞こえたその声は、 明らかに上のほうから放たれたものだった。 私は恐る恐る視線を上に向けた。
奈由子
???
その姿は人間ではなかった。 背中に生えた黒い翼、黄色く光るくちばし、 全身白い衣装を纏い、下駄を履いている。
???
奈由子
なぜか恐怖を感じることもなく普通に話している。
???
聞いたことはある、いや、それにしても自己紹介が軽すぎる。
烏天狗
奈由子
烏天狗
意味はわかるが理解できない。さらっと守り神って言ってるけど、 多分そんなテンションで言うことではない。
奈由子
烏天狗
意外とシュールな遊びを提案してきた烏天狗は、 私の前にゆっくりと着地した。
烏天狗
奈由子
烏天狗は淡々とルール説明をすると、いきなり下駄を飛ばした。
奈由子
烏天狗
頑張れば抜かせなくもない微妙な距離に落ちた下駄は、 綺麗に横を向いていた。そんな下駄めがけて、 踵を踏んだ靴を思いっきり飛ばした。
烏天狗
ぎりぎり烏天狗の下駄を超えた私の靴は、 遠くから見ているとなんだか哀愁を感じる。
奈由子
烏天狗
奈由子
あまりにもあっさりしすぎている。せめて何か景品はないのか。
奈由子
烏天狗
烏天狗はそう言い残してどこかへ飛んでいってしまった。
奈由子
下山途中、烏天狗の言葉を思い出してゾッとした。 軽い気持ちでに山神なんかと遊ぶものではないな。
あの出来事から一週間、平日の仕事をこなし、やっと休日がやってきた。
奈由子
一週間前のことをきっぱり忘れ、 私はまた同じ服装と同じ持ち物で山を登り始めた。
今回は前回とは違う山だから烏天狗に会うことはないだろう。 もうあんな体験は懲り懲りだ。
奈由子
ばらく歩いていると、昔話に出てきそうな、竹がたくさん生えた道に出た。 スキップ混じりでどんどん先へ進む。
奈由子
食に目がない私は、ほかほかの筍ご飯を想像しながら唾を飲み込んだ。 休日のお弁当は全て手作りで五品ほど作って詰めている。
奈由子
山頂を指す看板が増えてきたと同時にその道のりはほぼ階段になっていた。
汗が止まらない。虫除けと日焼け止めを塗ってきたはずなのに、 虫は寄ってくるし肌は前回よりも茶色くなっている。
奈由子
やっとの思いで辿り着いた山頂には小さな祠が一つあった。 近くのベンチに腰掛け、お弁当を開けながらその祠をじっと見つめていた。
奈由子
少し不安がよぎったけど、気にせず箸をすすめた。
奈由子
海苔弁当なのにポテトサラダに力を入れてしまった。 お弁当を食べ終え、下山の準備をし始めていた。
???
不意に聞こえた不気味な声、間違いなくあの祠だ。
奈由子
???
いきなり強い風が吹いて、辺りの木がざわざわと揺れ始めた。 すると目の前に、人間ではない何かが姿を現した。
???
奈由子
九つに分かれた尻尾を左右にゆっくりと揺らし、 私を不思議そうに見つめる狐の姿をした何か。
???
奈由子
先週の出来事を言いかけてすぐに口をつぐんだ。 これを言うとまた厄介なことに巻き込まれそうで怖い。
九尾
奈由子
九尾
あの烏天狗め、余計なことを。
奈由子
九尾
やっぱり、面倒なことになってしまった。全てはあの烏天狗のせいだ。
九尾
奈由子
九尾
神様相手に人間が普通に勝負して勝てるはずがない。 この勝負に勝つのはほぼ不可能だ。
奈由子
九尾
九尾は私の言葉を聞かず勝手に始めてしまった。 山は当然広い、人間一人が探せる範囲じゃない。
奈由子
私は怒りに震えながら体力の続く限り探しまくった。 そして日没まで残り一時間になってしまった。
奈由子
祠がある場所まで戻ってきてベンチに腰掛けた。 沈んでいく太陽を見ながら絶望していた。
九尾
目の前を見ると九尾が私をじっと見つめていた。
奈由子
九尾
私はその言葉を聞いた瞬間、意識がすうっと遠のいていった。
少し風が当たっているのを感じて目が覚めた。 周りを見るともう真っ暗で、 私は山の麓のベンチで横になって寝ていたのだ。
奈由子
不思議に思ったけどとりあえず家に帰ることにした。
九尾は意識を失った私を山の麓まで運んでくれた良いやつだった。 とは言っても、もう一度会いたいとは思わない。 良い思い出なのか悪い思い出なのか、ものすごく微妙なラインだ。
あれから一ヶ月が経った。あのあとも毎週山に登っているが、 あれ以来山神には会っていない。 もう一度同じ山に登ってみたりもしたが、 烏天狗も九尾も私の前に姿を現すことはなかった。
これで安心して山登りができる。 今週も辛い仕事をやり遂げて山に登っていた。
奈由子
周りの景色を堪能し、山頂に辿り着く。お弁当を開き、箸をすすめる。 お弁当を食べ終え、下山の準備に取りかかる。
???
どうやら山神巡りは続くようだ。