mrpk

本当は、少し怖かった。

もしかしたら、本当に死んでるのかもって。

そんなの魂を見れば一発で分かるんだけど、見てしまったらもう、どうにもできないような気がした。

急な頼みに、思わず間抜けな声が出る。

俺は死神。人の命を刈るのが仕事。

間違ってない。間違っては、ないんやけど。

本当は…俺はずっと…

多少言葉をキツくして促してみるけど、聞いてくれない。

此奴といると、心の内を見透かしてくるような感じがして調子が狂う。

できることなら生かしたい。

それは、愛とかそんな綺麗事じゃなくて

ただ、こんなに苦しい俺を置いて先に楽になろうなんて、あまりにも腹が立つから。

予想はついてた。

きっとこんな話をしても、まともに聞かないだろうなって。

じゃあどうする？俺はどうすればいい？

また、一人ぼっちに…

俺はいつもこうだ。素直に引き止められずに、相手の精神をすり減らすようなことばかり。

君が笑ってくれるのが少し、ほんの少し嬉しかったりしたけど、今じゃもう、それを失うのが怖くて

もう笑わなくていいから、何もしなくていいから

抜け殻になっても俺の傍にいて欲しくて。

こいつには何百年かけても勝てない気がする。

そんなこと言って、ただの俺のわがままなのに。

…やっぱり、此奴はよく見てる。

嬉しくはなかった。

死神でありながら人が死ぬのが怖いだなんて情けないし、恥ずべきことだから。

此奴は良くも悪くも人のことを見すぎだ。

こんなにダサい話あるか。本当は誰にも知られたくなかった。

人の命を奪っている感じがして怖いから死神をやめたい、なんて。

まあ、そこまで見られていなかったのが不幸中の幸いかな。

脳が刺激されるくらい甘くて優しい声。

君が言うことは全部本当に出来ちゃう気がする。

けど、できる確証はない。そんな危険を冒せるくらい、肝は据わってない。

きっと此奴は俺みたいに臆病じゃないから、生に対して執着もない。

その事実に余計に腹が立つ。死んでも生きてもどうでもいいくせに、俺に命を刈らせようとする。

俺を苦しめたいのか、どうしたいのか。

生憎俺には読心の能力なんてないから、結局此奴の考えることは分からずじまい。

なんでいつもこうなんだ。俺は完璧にやってたし、誰もが恐れる死神なのに。

なんで此奴といるといつもの俺じゃなくなるんだよ。

…ムカつく。

俺の事なんて表面でしか見てないくせに、わかったような口を聞いてくるところがムカつく。

どうせすぐ飽きるくせに、身勝手な提案ばかりしてくるところがムカつく。

…そんな人間に惹かれて、恋焦がれてしまっている自分がムカつく。

ムカつくし、消してやりたい。

俺自身を消すとか、此奴を消すとか、そういう話じゃなくて

ただ、出会った事実と芽生えた感情を刈り取ってしまいたい。

此奴に出会うことがなければいつもの俺だったのに。

好きな気持ちなんてぐしゃぐしゃに丸めて捨てちゃいたいのに…

…なんてタラレバ言って言い訳して、どうしようもないな。

もう、いいや。

きっとどうにもならないから。

だから、もう。

ひゅん、と小さく鎌を振った。