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ある占い師の記録①

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ある占い師の記録①

第1話 - ある占い師の記録①

7

2019年06月29日

#長編小説

🥀NOA🏁

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🥀NOA🏁

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ナレーション

街灯もない夜の高架下。

ナレーション

1本のロウソクだけが占い師の仕事場を照らし出す。

ナレーション

その占い師の名前や年齢を、誰も知らない。

ナレーション

ただ、占い師の腕が確かであることは、占いを受けたことがある者なら誰もが知っていた。

まだ肌寒さが残る、春のある日

普通の主婦

すみません。占ってもらいたいんですけど、、、

占い師

はい。どんなことを占って欲しいのですか？

普通の主婦

わたし個人のことだけでなく、家族のことも占って欲しいんです。

占い師

もちろん。私に占えないことはありません。

普通の主婦

わたしの家族に起こる不幸があれば教えて欲しいんです。

ナレーション

そしてこれに占い師が返した答えは

占い師

あなたのご主人が一年以内に死亡します。

ナレーション

淡白な答え方に、主婦はたちまちに表情を強張らせた。

普通の主婦

夫以外の家族に起こる不幸はありますか？

占い師

あなたのご主人に「死」という不幸がおとづれる以外、あなたの家族の2人のお子さんの身にも、飼い猫の身にも不幸がおとづれることはありません。

占い師

むしろ、ようやく幸福がおとづれるでしょう。そして、あなたが警察に捕まることも、ありません。

ナレーション

主婦の夫は、家族を不幸にする存在だったのだろう。

ナレーション

だから「殺害」という方法で、彼女は不幸のタネを取り除こうとしていた。

ナレーション

しかしそれは、この場で占い師によって背中を押されたからではなく、最初から運命として決まっていたことである。

ナレーション

占い師は、多くの人間には見えないその「運命」を、言葉にして伝えたに過ぎない。

ナレーション

そして、占い師の言葉を理解した主婦は喜んで鑑定料を支払い、軽やかな足取りで高架下を去って行った。

煙るような雨が降る、夏のある日

ナレーション

1人の男が占い師の元を訪れた。

ナレーション

頭の薄くなったその男は、普通のサラリーマンだったが、ひどく酒の匂いを振りまいていた。

ナレーション

占いになど、おおよそ縁のなさそうな男だったが、何かをひどく思いつめたような表情からは、わずかの希望にもすがりたいという気配が漂っていた。

サラリーマン

あんたかァ、百発百中の占い師ってのは。あんたには俺がどれだけ苦しんでるかも、分かるんだろうな。

ナレーション

ロレツの回らない口ぶりでいって、勝手に占い師の前に座り込む。

ナレーション

それでも、フードを目深にかぶった占い師からは、表情の変化も気配の変化も感じられなかった。

占い師

あなたはガンに冒されている。そして、５年以内に命を落とすでしょう。

ナレーション

事務的な答えに、男はたちまちに両目を見開いた。

ナレーション

一瞬で酔いが覚めたのか、真っ赤だった顔が、どんどん真っ青になっていく。

ナレーション

ロレツは戻ったが、今度はわなわなと震える声で、男は尋ねるともなく呟いた。

サラリーマン

じょ、冗談はよしてください‥‥

占い師

わたしの占いが外れることはありません。

ナレーション

占い師の声に揺るぎがないのをよった耳でも聞き分けたのか、「そうか‥‥」とこぼした男は

ナレーション

重い足取りで帰って行った。