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ここは深き海の底に広がる楽園『アトランティス』

様々な種類の魚や、生き物達と共に我々人間が空想上の生き物としている人魚が住んでいる

争いこそあったが全ての生き物が和解しあい、『平和』を具現化したような楽園へと変わって行いった

そんなアトランティスに突如として海月人の少女の叫びが響き渡る

リナーシャ

それは本当ですかお父様!

驚愕の表情をしつつも目を輝かせた海月人の少女、リナーシャは前のめりに自身の父親に迫る

ポセイドン二十五世

うむ、先程シスベールが地上へと旅立った。無論、護衛は付いておるがの

リナーシャ

良いなぁ〜

プカプカと浮きながらリナーシャは羨ましそうに空を見上げる

ポセイドン二十五世

シスベールもそうだが、なぜお前達は地上などに興味を持つのだ?

リナーシャ

幼い頃からお祖母様から聞かせていただいた地上のお話がとても印象的だからです

リナーシャ

地上には私達とは姿の違う『人間』という方々が住んでいて

リナーシャ

その人間が、このアトランティスとはまた別の文明を築き

リナーシャ

多くの生き物達と暮らしていて、たくさんの美しい物に溢れていていると考えただけで楽しいです

リナーシャ

噂は本当なのか分かりませんが、姿は私たちと大差ないと聞きます

ポセイドン二十五世

うむ、まぁそうだな

ポセイドン二十五世

違う所といえば、私やお前のように海の生き物達の身体を持たぬことくらいだな

リナーシャ

はい、なので私達『海人』とも仲良くして下さるかなぁって

ポセイドン二十五世

・・・それは難しいかもしれんな

リナーシャ

何故ですか?

ポセイドン二十五世

地上では未だに争いが絶えない

ポセイドン二十五世

リーナよ、それだけ言えば納得出来るな?

リナーシャ

・・・・・・はい

リナーシャは父の言葉を聞き、不満げながらも納得した

そう、少女を含めこの楽園の住人は争いを行わない

大昔、何千年と続いた戦争こそかあったが、今ではその面影のひとつない平和な国となっている

武力をほとんど持たないこの国の住人が人間の争いに巻き込まれれば確実に死んでしまうのだ

ポセイドン二十五世

それに、お主は泳ぎが苦手であろう?

リナーシャ

うっ・・・

ポセイドン二十五世

シスベールはこの国でも指折りの速度で泳げる

ポセイドン二十五世

万が一、争いに巻き込まれてもあの子なら逃げ切れるだろう

ポセイドン二十五世

だからこそ、護衛を付けてではあるが、離れ小島までの浮上を許したのだ

そう、少女の姉シスベールはこの国の人魚の中で最も早い速度で泳ぐことが出来る

だが、リナーシャは海月人、海月の特性を持つがゆえ早く泳ぐことが出来ないのだ

ポセイドン二十五世

リーナ、お前には酷かも知れんが、地上へ向かうのはやめてくれ

リナーシャ

・・・分かりましたお父様

リナーシャ

でも、お姉様が帰ってきた時、地上のお話を聞いてもよろしいでしょうか

ポセイドン二十五世

それくらいであれば構わん

リナーシャ

ありがとうございますお父様

リナーシャ

(やった、姉様からたっくさん地上のお話を聞こっと)

ドレスの端を摘んで持ち上げ、軽く頭を下げた後、リナーシャは自室へとプカプカ浮いて向かった

付き人のクラゲ

・・・・・・

リナーシャ

・・・・・・(ボーっとしながら浮いている)

付き人のクラゲ

リナーシャ様?

リナーシャ

・・・ん?
なに?

付き人のクラゲ

先程からそうやって天井を見上げていますが何かあったのですか?

リナーシャ

いいえ、なにもないわ

リナーシャ

強いて言うなら、姉様が戻って来るまでの間、ヒマだなぁって思ってただけよ

付き人のクラゲ

ふむ・・・、でしたら王位継承権を持つものとして王宮の歴史を勉強なさりますか?

リナーシャ

うぅ、やめてちょうだい

リナーシャ

あの講義を聞いてたら気分が悪くなるの

付き人のクラゲ

ですが、必要な事です

付き人のクラゲ

善は急げと言います。お暇なのでしたらお勉強しに行きまーーー

行きましょう。と、付き人が言おうとしたその刹那

地面が雄叫びをするかのように突然震え出す

リナーシャ

キャッ!

付き人のクラゲ

リナーシャ様!!

リナーシャ

だ、大丈夫よ。音にビックリしただけだから

リナーシャ

それよりもお父様が心配だわ。ここは大丈夫だからお父様を見てきて

付き人のクラゲ

で、ですがこのような状況の中でリナーシャ様をお一人には・・・

リナーシャ

行って

付き人のクラゲ

・・・承知致しました

付き人のクラゲ

その代わり条件がございます。絶対にお部屋から離れられぬようお願い致します

リナーシャ

流石に動こうだなんて思ってないわ

付き人のクラゲ

・・・分かりました

付き人のクラゲ

では、しばらくの間お待ちください

リナーシャ

ええ、お願いね

ーーーーー

ーーーーーー

リナーシャ

(揺れは収まったみたいね・・・)

リナーシャ

(ここ数年、時々とはいえ今日と同じ事がよく起きている)

リナーシャ

(お父様も何が原因か分からないって言ってたし・・・・・・)

リナーシャ

姉様は無事なのかな・・・・・・

そう呟いたその時、部屋の扉に誰かがノックをした

リナーシャ

どうぞ

付き人のクラゲ

失礼します、国王様をお連れ致しベブァ!

扉を開けたクラゲは勢い良く入って来たポセイドンとの接触で遥か彼方まで吹き飛ばされる

リナーシャ

(あ・・・)

ポセイドン二十五世

リーナ!
無事だったか!?

リナーシャ

はい、私はずっと浮いていたので特になにもありません

リナーシャ

(むしろ、今吹き飛ばされた付き人の方が心配なんだけど・・・)

ポセイドン二十五世

そうか・・・

ポセイドン二十五世

ケガもないのだな?

リナーシャ

はい、大丈夫です

リナーシャ

私は音に驚いただけですので

ポセイドン二十五世

そうか・・・
良かった・・・

ポセイドン二十五世

さて、流石に原因を突き止めねばいかんな

リナーシャ

この地響きですか?

ポセイドン二十五世

ああ、三年ほど前にいくつかそれらしい原因を考えたのだが、どうにもそれとは違うようだ

リナーシャ

そうですか・・・

ポセイドン二十五世

私は王宮の者たちと共にこの現象の原因を探ってみる

ポセイドン二十五世

今日はもう遅い。リーナ、お前は寝ていなさい

リナーシャ

分かりました

リナーシャ

お父様、お身体には気を付けて下さいね

ポセイドン二十五世

ああ、分かった

リナーシャ

おやすみなさいお父様

ポセイドン二十五世

ああ、おやすみ

カチャンと音を出して扉が閉まる

リナーシャ

・・・・・・大丈夫?

声をかけた先にはいつの間にか戻って来ていた付き人がいた

付き人のクラゲ

はい、なんとか

付き人のクラゲ

リナーシャ様の前で無様な姿を晒してしまい申し訳ございません・・・

リナーシャ

気にしてないわ

リナーシャ

お父様の言う通り、今日は遅いから私は横になるわ

リナーシャ

おやすみなさい

付き人のクラゲ

承知致しました

付き人のクラゲ

では、失礼します

それから数日経ったある日、リナーシャの姉、シスベールが帰ってきた

リナーシャ

姉様〜!!

リナーシャ

おかえりなさい姉様。ねぇねぇ、地上ってどんな感じだった?

シスベール

・・・・・・

リナーシャ

姉様?

シスベール

・・・・・・

リナーシャ

姉様〜

シスベール

・・・・・・

リナーシャ

スゥ・・・
姉様!!

シスベール

わっ!

シスベール

ビックリしたぁ〜
ん?リーナ?

シスベール

いつから居たの?

リナーシャ

先程からずっとお傍にいました

リナーシャ

何度も声をかけたのにずっとどこか遠くを見てたんですよ?

シスベール

あちゃぁ、そうだったか・・・

シスベール

ごめんね

シスベール

で、どうしたの?

リナーシャ

地上がどんな所だったか教えて下さい!

シスベール

いいよ。
けど、長くなるよ〜?

ニヤニヤとシスベールは笑う

リナーシャ

もちろん、何日でも大丈夫です!

そういうと、リナーシャはどこからともなく飲み物や軽食を取り出す

シスベール

・・・えっと?
なにそれ?

リナーシャ

とりあえず三日程、お話を聞く準備です

リナーシャ

さ、お姉様!
行きましょ!

シスベール

(・・・いや、せいぜい3時間くらいなんだけど)

リナーシャ

姉様〜、早く早く

シスベール

(あの子が楽しそうならそれでいっか)

シスベール

今行くわ

シスベールの部屋へと付き、地上での出来事を話し始めて早数時間、その勢いは衰えるどころか勢いを増してゆく

数日前の出来事を懐かしむように話すシスベール。その傍らでリナーシャは目を輝かせながら聞き入っていた

シスベール

それでね、夜になってきて、満足したし帰ろうとしたらね

リナーシャ

うんうん!

シスベール

一隻の船がコッチに向かって来たの

シスベール

念の為に離れたんだけど、船の上から楽しそうな声がして興味が出たの

リナーシャ

それでそれで!

シスベール

船の上が見えるところまで行って、眺めてみるとね、リーナの言ってた人間が沢山いたのよ

リナーシャ

へ〜。え〜と、足だっけ?

リナーシャ

姉様やお父様のようなヒレじゃなくて生えてる物の名前

シスベール

そうよ

シスベール

その足ってのが凄いんだ〜

シスベール

ます陸をどうやって泳ぐのかなって思ってたらね

リナーシャ

どう泳いでたの!?

シスベール

足って二本生えてるんだけど、それを交互に前に出して進んでたの

シスベール

不思議な泳ぎ方だったなぁ〜

シスベール

ね、リーナ。今度、父様に相談して一緒に行ってみる?

リナーシャ

いいの!?

シスベール

ま、父様が承諾してくれたらだけどね〜

リナーシャ

そっか、許してくれるといいなぁ〜

リナーシャ

ところで、姉様

シスベール

ん?

リナーシャ

その船の上の人間で何かあったの?

シスベール

え?
どうして?

リナーシャ

さっきまでと違って、船の話をした途端急に力強くなったから

シスベール

・・・・・・

シスベール

(ほんと、この子はこういうところが鋭いなぁ〜)

シスベール

まぁ・・・ね

リナーシャ

え、もしかして見つかったの!?

シスベール

ううん、違うの

シスベール

話を聞いてたらね、端の方に1人の人間が近づいてきたの

シスベール

その人間はね、人間の国の王子なんだって

リナーシャ

私や姉様のように?

シスベール

そ、種族こそ違うけど、私達と同じ王族の人ね

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

あ、もしかして

シスベール

ん?
なに?

リナーシャ

その人間を好きになっちゃったんですか?

シスベール

(ギクッ)

シスベール

え、なんでそう思うの・・・

リナーシャ

姉様が昔、想いを寄せてた殿方に対する顔と一緒の顔で話してたので

リナーシャ

違ったならすみません

シスベール

(・・・やっぱりこの子に隠し事は通用しないわね)

シスベール

ええ、リーナの思ってる通りよ

シスベール

一目惚れってやつなのかな・・・

シスベール

あの人間とは仲良くなれそうなの

シスベール

理由なんてないけどね

リナーシャ

でも、いくら好きでも、姉様とその人間は・・・

シスベール

ええ、だからね西の珊瑚森にいる魔魚に頼んで人間になる薬を作ってもらうの

リナーシャ

え!?

リナーシャ

ね、姉様?
今、なんて・・・

シスベール

魔魚の薬で人間になるって言ったの

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

お父様には?

シスベール

まだ言ってないわ

シスベール

・・・それに、言ったところで聞き入れてくれるわけないんだけどね

リナーシャ

姉様・・・・

リナーシャ

・・・私は姉様が幸せになるならどのような道であれ応援します

リナーシャ

でも・・・、居なくなるのは寂しいです

シスベール

・・・ごめんね

リナーシャ

・・・・・・

部屋の空気はしんと静まり、ただただ時間が過ぎてゆく

リナーシャ

・・・・・・エヘへ、姉様を困らせてしまいましたね

リナーシャ

姉様、お茶でも飲みますか?

シスベール

そうさせてもらうわ・・・

シスベール

それにしても、なんだか暑いわね

リナーシャ

え?
そうですか?

リナーシャ

いつも通りな気が・・・

シスベール

う〜ん、そのはずなんだけどね

シスベール

ま、多分話すのに夢中なって汗をかいたからかな

リナーシャ

かもしれませんね

リナーシャ

どうぞ

シスベール

ん、ありがと

リナーシャの入れたお茶を口に運び一息つき、時間はゆっくりと進み、一日が終わった

だが、シスベールの感じた暑さがこの国を滅亡させる予兆であることを二人は知る由もなかった

それから五年、色々と物事が進んでいった

一つは父ポセイドンの反対を押し切り、シスベールは人間になる事を決意し、魔魚に会い地上へ向かったこと

二つ目は水温が上昇し、地面の揺れが頻繁に起こるようになったこと

三つ目に揺れと水温の上昇が関係あるということが調査によって判明したこと

そして、四つ目に姉シスベールが居なくなったことで徐々に元気を無くしていくリナーシャがいることだ

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

応援するって言ったのは私だもんね・・・

リナーシャ

仕方ない・・・よね

リナーシャ

・・・・でも、やっぱり

付き人のクラゲ

・・・・・・

付き人のクラゲ

(シスベール様が地上へと行き早くも五年・・・か)

付き人のクラゲ

(あれほど明るかったリナーシャ様がここまで暗くなるとは・・・)

付き人のクラゲ

(私に出来るのはせいぜい見守る事ですね)

付き人のクラゲ

リナーシャ様、私に何か出来ることはございませんか?

リナーシャ

・・・・お願いがあるのだけどいいかしら?

付き人のクラゲ

はい、どのようなご用件ですか?

リナーシャ

姉様の部屋からこのネックレス取ってきてくれないかしら?

そう言ってリナーシャは首から掛けていたネックレスを外し、付き人へと見せる

付き人のクラゲ

分かりました

付き人のクラゲ

しばらくお待ちください

リナーシャ

待ってるわ

数分後

付き人のクラゲ

お待たせしました

リナーシャ

ありがと

リナーシャ

・・・・・姉様

小声で慕っていた姉を呼ぶも、それは虚しく部屋に消えてゆくだけだった

リナーシャ

・・・・、今日は少し早いけど横になるわ

付き人のクラゲ

承知致しました

付き人のクラゲ

ご就寝前のハーブティーなどは必要ですか?

リナーシャ

ええ、お願いするーーー

リナーシャが言い終えるその刹那、無慈悲にも海の神々は少女に過酷な現実を告げるのだった

リナーシャ

キャ!

リナーシャ

(な、なにこの揺れ!)

リナーシャ

(今までの比じゃないわ)

付き人のクラゲ

リナーシャ様!!

リナーシャ

私は大丈夫よ

付き人のクラゲ

それは良かったです。しかし、これは一体・・・!?

リナーシャ

分からないわ、アトランティスに何が起こってるの・・・

時を同じく、王の間

ポセイドン二十五世

なんだと!?

ポセイドン二十五世

私の聞き間違いか?

ポセイドン二十五世

すまぬがもう一度言ってくれ

調査隊

先程のご報告の通りです!

調査隊

たった今、ここアトランティスを半径に300キロ圏内の海底火山が噴火致しました!

調査隊

現在確認出来ているだけで15もの火山が噴火しており、地下深くより大量の溶岩が噴出

調査隊

また、噴出した溶岩のうちのいくつかがこちらへと向かっております

調査隊

あと、2時間でアトランティスは溶岩に飲み込まれます

怒号にも似た調査隊の叫びが王の間に響き渡り、緊張の糸が瞬く間に張ってゆく

ポセイドン二十五世

・・・・・・

ポセイドン二十五世

なるほど、ようやく合点がいったぞ

調査隊

王様?

ポセイドン二十五世

ここ数年の水温上昇、並びに頻繁に起こる地鳴り

ポセイドン二十五世

そして、時折発生した謎の下降水流・・・

ポセイドン二十五世

全てこの噴火の予兆だったか・・・

ポセイドン二十五世

・・・・民の避難状況はどうなっている!?

調査隊

現在、約四割が安全な海域、または水深へと辿り着きました

ポセイドン二十五世

まだ、六割も残っておるのか・・・

ポセイドン二十五世

(2時間でここに溶岩が来る。しかし、2時間ではせいぜい4割が限界だ)

ポセイドン二十五世

(どうしたものか・・・)

ポセイドン二十五世

・・・・・・

調査隊

王様、どうか我々に指示を

ポセイドン二十五世

・・・・お前たちはなるべく多くの民を連れ避難しろ

調査隊

なっ!

調査隊

何を言っておるのですか!王様もお逃げ下さい!!

ポセイドン二十五世

私はここに残り、僅かな時間稼ぎにしかならないだろうが、溶岩を塞き止める

調査隊

塞き止めると仰られても、一体どうや・・・・・・まさか!!

何を察したのか、調査隊の1人が青ざめた表情でポセイドンを見つめる

ポセイドン二十五世

そう。その者の考えてる事が正解だ

そう言って、ポセイドンは近くに佇む甲冑を来た石像が持つ三叉槍に手を伸ばす

ポセイドン二十五世

三叉槍(トライデント)の能力で一時的に波を起こし、少しでも多くの溶岩を塞き止める

調査隊

し、しかし、その槍は・・・

ポセイドン二十五世

・・・・・・ああ、力の行使の代償として使用者の命を削る

ポセイドン二十五世

私1人の犠牲で何万もの民の命が助かるのだ

ポセイドン二十五世

さぁ、早くお前たちも行け!!

リナーシャ

ふざけないで下さい!!

調査隊

リナーシャ様!?

ポセイドン二十五世

リーナ!

リナーシャ

何が私1人の犠牲ですか!

リナーシャ

象徴たるお父様が居るからこそのアトランティスです!

リナーシャ

なのに、なのになんでお父様は自分から命を捨てようとするのですか!

涙を流しながらリナーシャは叫んだ

今まで、このような行動や素振りを見た事の無い調査隊はもちろん、父であるポセイドンも固まってしまった

リナーシャ

私を・・・1人にするのですか・・・・・?

ポセイドン二十五世

ーーッ!?

その一言にポセイドンは胸を締め付けられた

リナーシャは怖いのだ。この噴火による恐怖ももちろんだが、それよりも、姉だけではなく父を失う事に計り知れない恐怖を抱いてしまったのだ

愛らしい双眸からは大粒の涙がたまり、今にも零れ落ちそうになっている

ポセイドン二十五世

・・・すまないリーナ。 王というのは時に己より民の命を優先するものなのだ

ポセイドン二十五世

私の存在がこの国の象徴という民は数多くいるだろう

リナーシャ

だったら!!

ポセイドン二十五世

だが!!

ポセイドン二十五世

私はこの国の王だ。民を護り、国を守り、多くの命を救わねばならない

ポセイドン二十五世

いずれお前も理解する日が訪れるはずだ

ポセイドン二十五世

さあ、行きなさい

リナーシャ

嫌です!!

リナーシャ

お父様が残るなら私も残ります!!

ポセイドン二十五世

リーナ、行くんだ

リナーシャ

嫌です!! 私は一人にはなりたくありません!!

リナーシャ

お父様が残るなら私も残り、このアトランティスと共に散ります!!

ポセイドン二十五世

・・・頼む、私は二人も娘を失いたくない

リナーシャ

なら、お父様もお逃げにー

ポセイドン二十五世

出来んのだ・・・

ポセイドン二十五世

私はこの国の王、初代の国王から名を受け継ぎ二十五代目

ポセイドン二十五世

元々、王のみが知る予言に、私の代でこのアトランティスが滅びる事が伝えられていた

ポセイドン二十五世

反乱や内輪もめ、疫病など様々な要因を考え、予言が起こらないように徹底した

ポセイドン二十五世

だが、滅びの原因は我々では無く自然そのものだった

ポセイドン二十五世

自然には敵わん・・・

ポセイドン二十五世

だからこそこの国を護るものとして私は最後まで抗う

リナーシャ

お父様・・・

ポセイドン二十五世

リーナ、お前はまたどこかで新たなアトランティスを築け

ポセイドン二十五世

明日から、お前がこの国の王だ

ポセイドン二十五世

さ、行きなさい

リナーシャ

・・・嫌で・・・す

リナーシャ

父様の信念は分かりました

リナーシャ

ですが・・・ですが!

ポセイドン二十五世

行けと言っているんだリナーシャ!!

リナーシャ

ひっ!

リナーシャは初めて愛称であるリーナでは無く、真名で父が自分を呼び、生まれて初めて聞いた怒りの声に悲鳴をあげた

リナーシャ

・・・・・

リナーシャ

・・・・・・・・・

リナーシャ

絶対に戻って来るとお約束してください

リナーシャ

お父様が戻って来るまでの間は私が民を護ります

ポセイドン二十五世

ああ、頼んだぞリーナ

ポセイドンは娘の頭を撫で、頬を摩り、抱き寄せ、少女の熱を感じ取る

時間にしてはたったの数秒。だが、二人にとってそれはとても長いものだった

ふ、っと口元に笑みを浮かべたポセイドンは娘から離れる

ポセイドン二十五世

時間が無い、残りの者を三叉槍の波である程度上に押し上げる

ポセイドン二十五世

広場に民を集めよ!

調査隊

は!

調査隊の迅速な指揮とポセイドンの命令により残りの国民は広場へと集まり、ポセイドンの引き起こした波で遥か上空へと打ち上げられていった

ーーーーーーー

ポセイドン二十五世

・・・本当の事を言えば私はリーナと共にここを離れ、暮らしたかった

ポセイドン二十五世

だが、それは私の感情一つでは決めれないことだ

ポセイドン二十五世

・・・・あの子は私を超える良き王となる

ポセイドン二十五世

あの子の父として、この国の王として、私は・・・我は最後の大仕事をしよう!

そう言って、ポセイドンは手に持つ三叉槍を水平に構え、声高らかに叫ぶ

ポセイドン二十五世

応えよ三叉槍!

ポセイドン二十五世

我の命と引き換えに、津波を起こせ!!

まるで魔法の詠唱のような言葉をポセイドンが紡ぐと、三叉槍は淡く光だし、その先端から激しい津波を引き起こした

時間にしてまる三日もの間、ポセイドンは津波を引き起こし、溶岩を塞き止め、そして燃え尽きた

ポセイドンの命を代償として、アトランティスの三割は溶岩に飲み込まれずに残るのだった

あれから五年の時が流れ、リナーシャの築いた新アトランティス王国は民の笑顔で満ち溢れていた

リナーシャ

なるほど、西の繁華街で乱闘が・・・

付き人のクラゲ

原因は物価の高騰によるものとの事です

リナーシャ

今年は海藻が上手く育たなかったからね・・・

付き人のクラゲ

街での乱闘を行った者は現在牢に入れております

付き人のクラゲ

いかがなさいますか?

リナーシャ

釈放してあげて。 それと、王宮の食料庫の全てを民に解放して

付き人のクラゲ

し、しかし・・・、それではリナーシャ様のお食事が・・・

リナーシャ

私は大丈夫よ
民の皆に食料庫を解放してあげて

付き人のクラゲ

承知致しました

付き人のクラゲ

(・・・・あれからもう五年もの月日が流れている)

付き人のクラゲ

(リナーシャ様は本当にご立派な王となった。 ・・・はずなのに)

付き人のクラゲ

(なぜ、こんなにも胸騒ぎが・・・・・・)

リナーシャ

どうかした?

付き人のクラゲ

い、いえ、何も。
では行ってまいります

リナーシャ

ええ、お願いね

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

(・・・ちゃんと出来てるのかな)

ーーーーーー

食料庫を解放し、均等に民へと食料を渡したことで民は涙ながらにリナーシャに感謝し、何度も頭を下げた

リナーシャ

これでしばらくは空腹にはならないと思います

リナーシャ

私の力不足で本当にすみません

国民の女性

そんな!!
滅相もございません!!

国民の女性

海藻の育成が不十分なのはシスベール様のせいではございません

国民の女性

国民一同あなたには感謝しきれません

国民の女性

リナーシャ様、本当にありがとうございます

女の子

おーさまー、ありがとう

国民の女性

こら、王様じゃなくて女王様でしょ

リナーシャ

気にしてませんよ、この国の王である事には変わりないのですから

リナーシャ

ふふ、いっぱい食べて、元気に育ってね

女の子

うん!!

女の子

いっぱい、いーぱい食べて、おーさまみたいに綺麗になる!!

リナーシャ

・・・綺麗? 私が?

女の子

うん!!綺麗!

女の子

綺麗だし、優しいし、カッコイイよ

国民の女性

行くわよ

国民の女性

本当にありがとうございます

リナーシャ

ええ、お腹いっぱい食べてちょうだい

何度も頭を下げながら、女性は去っていった

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

・・・ありがとう・・・か・・・

リナーシャ

お父様が守ってきたのはさっきの子みたいな民の笑顔なんだろなぁ

リナーシャ

・・・・でも

リナーシャ

お父様なら、もっと効率的に動いてただろうなぁ〜

リナーシャ

・・・ダメね、こんな所でくよくよしてたら

リナーシャ

お父様が戻って来るまで私がこの国を治めないと!

言い聞かせるように独り言を呟くリナーシャ。だが、そんな彼女の想いはたった一つの知らせに打ち砕かれるのだった

調査隊

リナーシャ様!!

リナーシャ

そんなに慌ててどうしたの?

リナーシャ

有毒ガスの噴出場でも見つかったの?

調査隊

それよりもさらに酷いものです

リナーシャ

・・・・何を見つけたの?

調査隊

・・・・・・

リナーシャ

言って

調査隊

噴火寸前の海底火山です・・・

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

・・・・・・・・・

リナーシャ

噴火した場合、この国の被害は?

調査隊

大変申し上げにくいのですが、壊滅は必須です

リナーシャ

そう・・・民を広場に集めなさい

調査隊

え?

リナーシャ

いいから早く!

調査隊

は、はい!

リナーシャ

アトランティス国民の皆さん、落ち着いて聞いてください

リナーシャ

この平和な国にまたもや五年前の災害が訪れようとしています

リナーシャ

ですが、ご安心を

リナーシャ

あの災害が再び訪れるかもしれない事を考え手は打っていました

リナーシャ

全員、東南にある円柱の建物に入ってください

リナーシャ

調査に赴いた者によると、あと一時間でこの国は溶岩に呑まれます

リナーシャ

さ、早く東南へと向かってください!

リナーシャの指示に従い、十五分程で国民全員が建物へと入った

リナーシャ

これで全員ね

付き人のクラゲ

はい、王国民五万人が中へと入りました

リナーシャ

わかったわ

リナーシャ

・・・・・

付き人のクラゲ

リナーシャ様?

リナーシャ

まだ、一人残ってるわね

付き人のクラゲ

ん?
私とリナーシャ様で二人では?

リナーシャ

いいえ、あなただけよ

そう呟くと、リナーシャは傍にいるクラゲを掴み、建物へと投げ入れる

付き人のクラゲ

ぐっ・・・あっ・・・

付き人のクラゲ

リナーシャ・・・様?

付き人のクラゲ

まさか!!
ダメですリナーシャ様!!

付き人のクラゲ

はやく、はやくお入ーーー

リナーシャ

・・・ごめんね

リナーシャが謝罪の言葉を呟いたその時、何重もの建物の扉が勢いよく閉まる

リナーシャ

急がなきゃ

リナーシャは懸命に海の中を舞い、建物の頂上を目指す

建物の頂上に着いたリナーシャは、中心にあるくぼみに自身が首から常に下げている青い宝石を埋め込んだネックレスをはめ込む

ネックレスをはめ込み終えたその瞬間、建物はけたたましい音を上げながら地中へと潜って行った

リナーシャ

・・・これでいい

リナーシャ

これで、国のみんなを守れた

リナーシャ

お父様、お父様の言っていたことを私はようやく理解出来ました

リナーシャ

自分の命を掛けてでも、民の笑顔のためなんですね

リナーシャ

きっと、あの時、お父様は王である事を忘れ、生きたかったはず

リナーシャ

でも、私や民の皆を守るために自分が死ぬとわかっていてもしなくてはいけなかったんですよね

リナーシャ

・・・・思いたくないけど、もうこの世にお父様は生きていない

リナーシャ

私は、アトランティスの王として君臨するお父様が大好きでした

リナーシャ

お父様、どうか見ていてくだーー

リナーシャ

ゲホッ ガハッ!

リナーシャ

リナーシャ

・・・・・・

リナーシャ

やっぱり、時間なのかな・・・・・・

手についた赤い血を見つめ、リナーシャは遠い目をする

三年前、リナーシャは不治の病にかかり、病魔が少しずつ身体を蝕んでいき、七日前から咳と共に吐血するようになっていった

リナーシャ

ハァ、ハァ・・・

リナーシャ

・・・どうし・・・よ。・・・動けない

よろよろと、力無くその場にリナーシャは倒れ、上を見上げる

リナーシャ

えへへ、一度でいいから地上を見たかったなぁ

弱々しく、リナーシャは呟き、まるで何かを掴むように手を上へと伸ばす

リナーシャ

お父様・・・
姉様・・・

リナーシャ

私は、王としてちゃんと出来ていましたか・・・

リナーシャ

民を幸せに出来たでしょうか・・・

リナーシャが呟いた疑問は波にさらわれ、溶けていくのだった

リナーシャ

地上ってどんな所なんだろな

そう呟き、そっと空を見上げる海月の少女 自身の頭の中で何度も想像した『地上』という未知の世界に憧れ、思い馳せる だが、少女の想いは叶わない この海の仲間達を護る海月煌姫。この少女こそがそのお方だ 自らを犠牲にし同胞を護り、舞えなくなった哀しき少女は手を伸ばせば届きそうな光へと手を伸ばす やがて、少女は光となって憧れた地上へと旅立つのだった

ーーーー完ーーーー

秋彩椛(作者)

子兎先生とのコラボ小説『飛べない海月の娘』

秋彩椛(作者)

お楽しみ頂けましたでしょうか?

秋彩椛(作者)

皆さまお久しぶりです

秋彩椛(作者)

作者の秋彩椛です

秋彩椛(作者)

まず、謝辞を

秋彩椛(作者)

子兎先生、この度はイラスト使用の許可、並びに小説化の承諾をして下さり本当にありがとうございました

秋彩椛(作者)

前回の告知でも言っていましたが、許可を頂けた時、本当に泣いてしまいました

秋彩椛(作者)

まだまだ、未熟なため、先生のイラストの世界観を完全な形にすることが出来ていないかも知れません

秋彩椛(作者)

ですが、今の私の全てを注ぎ込んだので、どうかよろしくお願いいたします

秋彩椛(作者)

さて、次にこのお話を読んでいる皆様にお願いです

秋彩椛(作者)

今回、このストーリーを公開するに従って、前述の通り、子兎先生の許可を得た上で作成してます

秋彩椛(作者)

私は子兎先生という『人物』を知っていますが、『方』は分かりません

秋彩椛(作者)

会ったことがないので当然ですが・・・

秋彩椛(作者)

そのため、古くからの先生のファンの方にとって、このストーリーが気に食わない方もいると思います

秋彩椛(作者)

ですので、このストーリーに対する不満は私に言ってください

秋彩椛(作者)

子兎先生はあくまで私が小説を書くのとイラストの使用を許可しただけです

秋彩椛(作者)

先生の事は叩かないであげてください

秋彩椛(作者)

また、私の個人的な観点をふまえてこのストーリーを執筆したため

秋彩椛(作者)

イラストを見て、その方々が思いついた世界観とは違うところがあるはずです

秋彩椛(作者)

そういった事による批判等は避けてくださると嬉しいです

秋彩椛(作者)

ここまで読んで下さりありがとうございました

秋彩椛(作者)

改めて、子兎先生、この度は本当にありがとうございました

この作品はいかがでしたか?

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コメント

10

ユーザー
ユーザー

長くなってしまいましたが… 1枚のイラストからここまで想像できてしかも大感動なストーリーを書けるなんて本当にすごいです…!儚い雰囲気もならではですね…。 こちらこそ本当にありがとうございました…!本棚に飾りたいくらい好きです…!!💠

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