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残り制限時間、19時間41分。

ぼく達はビンゴ表のななめラインの2番目にあたるキャンプ場に、バスを乗り継ぎ2時間くらいかけてやって来た。

アルク

なんか山ーって感じのところね。
市内にこんなところがあるのね

ユウゴ

郊外でとなりの市との境目になるんだよ

ユトリ

ここで2つ目の色がつくといいですね

今の時間は、夜の7時すぎ。

夏だからまだ空は明るいけど、もう少ししたらすぐに真っ暗になる時間帯だ。

時間の余裕はあるけど、夜に子供だけで移動するのは心もとない。

色がつかなくても、今日の移動は終わりにして、キャンプ場で夜をすごすことになるだろう。

アルク

キャンプは楽しいけど、テントも何も持ってきてないわよ?

アルク

あたたかいからって、野っ原で野宿は嫌だからね

ユウゴ

それなら、多分なんとかなるよ

バス停からキャンプ場の入り口まで、少し急な坂道を15分くらい歩いた。

いつも家族で来る時はキャンプ場内の駐車場まで車だから、こんなにつらい坂道だとは思わなかった。

アルク

足いた~い

ユトリ

私も疲れました

アルクは文句タラタラだし、ユトリは疲れて息切れしている。

ユウゴ

ごめん、もうちょっと。

ユウゴ

事務所の人に休めるところがあるか聞いてくるから

入り口の近くにキャンプ場の管理事務所があるので、ドアを開けて受付カウンターの呼び出しベルを鳴らした。

1分もしないで、事務所の奥で作業をしていた管理人さんが出てきてくれた。

木谷さん

こんばんは~。

木谷さん

あら、ユウゴくんじゃないの。
今日はお家の人と一緒じゃないの?

ユウゴ

こんばんは、木谷さん

出てきたのは、キャンプ場の管理人の木谷さん。 母さんの学生時代の同級生で、ぼくも幼い頃からの知りあいだ。

キャンプに来た時には、道具や食材の用意など、いろいろと助けてもらっている。

アルク

ユウゴは結構ここに来るの?

ユウゴ

年に2回くらいかな。
夏休みと冬休みに

木谷さん

そうそう。

木谷さん

ユウゴくんが来てくれるおかげで、キャンプ場の悪い評判も無くなって、こっちも助かっているのよ

アルク

悪い評判?

木谷さん

ああ、ごめんなさい。
なんでも無いのよ

アルクの疑問に、木谷さんは口を濁して話題を変えた。

木谷さん

ところで、ユウゴくん。
こんな時間に何のご用?

ユウゴ

急な話で悪いんですけど、今夜泊まれますか?

ユウゴ

バンガローが空いていたら、貸してもらいたいんですけど

木谷さん

あらあらあら、ユウゴくんもそういう年頃になったのね

ユウゴ

そういう年頃?

木谷さん

女の子をつれて外泊なんて……

ユトリ

そっ、そういうのじゃありませんから

木谷さんのセリフを、ユトリが上ずった叫び声でさえぎった。

木谷さん

ビックリした。
もうひとりいたのね

ユトリは普段静かでおとなしいから、木谷さんは今まで気づいていなかったみたいだ。

アルク

ちょっと、ユウゴ。
バンガローを借りるってかなり高いんじゃないの?
あたし、スマホの電子マネーでしか買い物できないわよ

アルクがぼくに耳打ちで話しかけてくる。

ユウゴ

お金のことなら心配しないで。
全部無料だから

木谷さん

そうそう。

木谷さん

だから遠慮しないで、自由に使ってくれていいわ

木谷さんが鍵を出してくれた。

木谷さん

シーズン前だから他のお客さんはいないけど、あまりうるさくしないでね

ユウゴ

うん。
ありがとう

鍵を受け取ると、アルクとユトリをつれて事務所を出た。

ユトリはずっと赤い顔をしてうつむいていた。

うつむいているのはいつものことだけど。

アルク

ボッロいわね

ユトリ

暗いですね

ユウゴ

無料なんだから屋根があるだけ良いでしょ

鍵を渡されたバンガローは、キャンプ場に8棟ある中で特に古い建物だった。

床板は老朽化や腐敗で一部がたわんで隙間風が入るし、照明も裸電球だから部屋の中央あたりしか照らされない。

ちなみにお風呂やトイレなどの水場は、はなれの共同浴場を使う。

みんな、シャワーで汗を流してきて、パジャマ代わりのレンタルジャージに着替えずみ。

服は噴水での戦いで汚れていたので、洗濯機で洗って外に干してある。 外はあたたかいから、朝までにはかわいてくれるだろう。

アルク

汗も流せたし、あたしはベッドがあればそれでいいけど。

アルク

ユトリは平気?

ユトリ

私もアウトドアは結構しますので、これくらいの暗さなら大丈夫ですよ。

ユトリ

何なら晩ご飯に鹿を狩ってきましょうか?

アルク

そこまでノらなくていいわよ

木谷さん

ごめんね~。
この山は狩猟は禁止なのよ

話していると、木谷さんが大きな袋を持ってやってきた。

木谷さん

かわりに、これをどうぞ

袋からパックのお弁当を出してテーブルに並べていく。

中身はご飯とトンカツ、唐揚げ、ミニハンバーグにウインナーと肉尽くしのスタミナ弁当だ。

木谷さん

若いんだからこれくらい食べられるでしょう?

木谷さん

それとも、お肉が苦手な子はいるかしら?

アルク

ううん、大丈夫。
むしろ嬉しい

ユトリ

私も食べられます。
量が多いので、残してしまうかもしれませんけど

木谷さん

うん、それなら良かった。

木谷さん

せっかくのキャンプなのに、こんなのしかなくてごめんね。

木谷さん

子供だけで火を使わせるわけにも行かないからね

木谷さんは申し訳無さそうに言うけど、このお弁当はぼく達に鍵を渡したあとで、急いで作ってくれたものだ。

シーズンオフでゆったりすごしていたところに押しかけたのに、何も言わずに準備してくれただけでありがたい。

木谷さん

だからユウゴくん達も、夜遅くに火遊びしちゃ駄目よ

ユウゴ

しないよ

アルク

花火とか持ってきてないしね

ユトリ

ですね!
危ないですもんね!

ユトリだけ何故かまた顔を赤くして、声が上ずっている。

何か違う意味があるんだろうか。

アルク

泊まるところだけじゃなくって、ご飯まで出してもらって、本当にただでいいの?

アルクがお弁当を開けずに木谷さんにたずねる。

さっきからずっと、無料ということに引っかかっているみたいだ。

木谷さん

子供がそんな事心配しなくていいの。

木谷さん

って言いたいところだけど、1度気になると、納得いく答えを聞かないとすっきりしないわよね

木谷さんが横目でぼくの方を見る。

なぜ無料なのかを話すと、ぼくの話をしなきゃならないからだ。

ユウゴ

いいよ、木谷さん。
ぼくから話すから

左肩に右手を置いてから、アルクとユトリに向かって話し始めた。

ユウゴ

ぼくの左肩には、大きな咬まれ傷があるんだ

アルクには再試の時に話したけど、ユトリに言うのは初めてだ。

あれは5年前の夏休み。

ぼくはバーベキューエリアの裏手の山林で迷子になり、大きな熊のような獣に襲われた。

今から思えば、あれが魔物で、ぼくが魔法使いになる切っかけだったわけだけど。

一般的には山から野生の熊が下りてきた事故として処理され、今後同じ出来事が起こらないように、キャンプ場と山林の間には電気柵が設置されるようになった。

そして、キャンプ場の管理会社からは事故のお詫びとして、家族全員がいつでも使えるキャンプ場の永年無料権をもらった。

アルク

んん?

ユトリ

あれ?

アルクとユトリが同時に首をかしげる。

ユウゴ

幸いにしてぼくは後遺症もなかったし、
せっかく無料なんだからってことで、
夏休みと冬休みには、家族でキャンプに来ることにしたんだ

アルク

いやいやいや、それって口止めりょ……

木谷さん

さあさあ、冷めないうちに食べて食べて。
ああ、お茶がいるかしら。
若い子なら、コーラとかのジュースのほうが良いかしらね。
デザートにアイスも持ってきてあげるわ

木谷さんは早口でまくし立てると、そそくさと出ていってしまった。

アルク

完全に口止め料じゃないの

ユトリ

いい人だと思いますけど、けっこう悪質な気がします

ユウゴ

2人とも食べなよ。
木谷さんの料理おいしいよ

アルク

もう食べてるし

ユトリ

本人が気にしていないなら、良いんですかね

食事が終わって片付けが終わったあと、ビンゴ表を囲んで今後の方針を話し合った。

ユウゴ

噴水には色がついたのに、キャンプ場には色がついていないのは何でだろう?

ユトリ

他のキャンプ場なのでしょうか

ユウゴ

たしか、市内にあと2つキャンプ場があったと思う。

ユウゴ

他にもバーベキューとができる自然公園もいくつか

アルク

自然公園は候補から外して良いんじゃないの?

アルク

昼に行った噴水の公園だって、林の中で暮らしている人がいるわよ

ユウゴ

その人はキャンプじゃなくって、もっと本格的に生活している人だと思うよ

残り制限時間、17時間58分。

こうして話していても、時間だけがいたずらに消費していく。

アルク

実は、ひとつだけ引っかかっていることがあるのよね

アルクがめずらしく言いづらそうに、ぼくの顔を見る。

ユウゴ

何? 気になるから言ってよ

ユトリ

今は何の取っかかりもないですし、ヒントになるかもしれませんよ

アルク

じゃあ、聞くけど……

アルク

ユウゴが魔物に襲われた場所を見に行っても良い?

ユウゴ

えっ……?

襲われた時の状況がフラッシュバックして、一瞬左肩がズンッと重い痛みを感じた気がした。

ユトリ

アルクさん、それはちょっと

アルク

だから、聞くか迷ったのよ。

アルク

でも、すっごい可能性を感じるのよ

ユウゴ

だ、大丈夫。

ユウゴ

小さい時のことだし……

言い争いになりそうな2人を、なだめて話を続ける。

ユウゴ

魔物がいた場所に行きたい理由は?

アルク

先に、その場所に案内してもらっていい?

アルク

ここで言葉だけだと、うまく伝わらないと思うから

実は事故以来、毎年キャンプには来ているけど、事故があった場所には、ぼくも家族も近づいていない。

正直怖い気持ちもある。

アルクだって、ただの興味本位ではなく、何か理由があるのだとはわかる。

ユウゴ

……わかった

意を決して、ぼくは答えた。

もう外は真っ暗だった。

月は出ているけど足元が心もとないので、バンガロー備え付けのランタンを各自持って出発した。

バンガローから出て管理事務所とは反対方向に、テントを張れる広いスペースと、そこを囲むように水場とバーベキューエリアがある。

魔物に襲われたのは、そのバーベキューエリアをこえた先にある、裏手の山林だ。

現在は動物よけの電気柵がはってあって、入れないようになっている。

アルク

うおお、いかにも何か出そうな山林ね

アルクが感嘆の声を上げる。

うっそうと茂った山林の木々は、月明かりに照らされて大きな影を作っている。 風に揺れる様は、まるでそれひとつが大きな生き物のように見える。

ユトリ

あの、もう行きませんか?

ユトリは大きな山林に圧倒されて、少し腰が引けている。

ぼくも少し恐怖を感じている。

あの時の魔物は、ぼくを助けてくれた魔法使いに退治されているはずだけど。

アルク

うん、やっぱりだったわ

アルクがビンゴ表をランタンで照らして見せる。

ユウゴ

キャンプ場に色がついてる!

アルク

多分、ユウゴとユトリのにも色がついているはずよ

ポケットに入れていたビンゴ表を広げてみると、たしかにキャンプ場のマスに色がついていた。

ユトリ

いつ付いたのでしょうか?

アルク

たった今よ。

アルク

この山林に近づいたことで、条件をクリアしたのね

ユウゴ

山林……

ユウゴ

そうか、ぼくが魔物に襲われた場所だからだ

アルクがうなずいた。

ぼくもなんとなく、アルクが言わんとしていることがわかってきた。

アルク

噴水で会ったやつの話が気になっていたのよね

ユトリ

水《アクア》の魔法を使う方ですよね。
たしか、ナミスケさんとか

アルク

うん。
あいつが別れ際に、蜂に刺されたことがあるって言ってたけど、あたしはあの公園で蜂を見たことって無いのよね

ユウゴ

そう言われれば、ぼくも

友達とアスレチックなどでよく遊ぶけど、蜂も蜻蛉も蝶も他の昆虫も飛んでるところを見たことはない。

アルク

で、思ったのよ。
その蜂って魔物だったんじゃないかなって

ユウゴ

蜂が魔物?

魔物は犬や熊のような大きな獣のイメージがあったらか、その発想はなかった。

アルク

それを踏まえて考えると、噴水に色がついた理由も推測できるわ

アルクがビンゴ表の問題文『入学式の会場まで来るにはそろえて真っ直ぐ』を指差す。

アルク

重要なのは、この問題文の『そろえて』の部分。

アルク

ナミスケが刺された蜂が魔物だった場合、あの公園で魔物に襲われた『人』と『場所』の2つがそろう。

アルク

そして、このキャンプ場の山林ではユウゴがいるから、その2つがそろった

ユウゴ

そうか。
『そろえて』はビンゴをそろえるという意味とは別に、『人』と『場所』をそろえると言う意味もあるんですね

アルク

そういうことよ!

アルクが拳を握って前に突き出す。

……30秒くらいの沈黙。

ユウゴ

ああ、ごめん

ぼくも拳を握って、アルクにグータッチした。

ユトリ

あ、すみません

それを見てユトリも拳をコツンと当てた。

アルク

あんたら、ノリ悪いわよ

ユウゴ

急にやるからだよ

いままで、そんなノリでやって来てないし。

ナミスケ

へぇ~、そいつは良いことを聞いたぜ!

背後から声とガタンガタンという音。

振り返ると、自転車に乗ったナミスケがいた。

アルク

あんた。
あたし達を追って来たの?

ナミスケ

そんなわけねーだろ。

ナミスケ

キャンプ場を探し回ってたら、お前らがいたんだよ

ナミスケがビンゴ表を広げてみせる。

ナミスケ

ビンゴの最短距離でななめラインを取ろうと思って、あのあと市内のキャンプ場をチャリで近い順に回っていったんだ。

ナミスケ

ここで3ヶ所目だ

3つあるキャンプ場の3つ目で、やっと正解にたどり着いたのか。

ナミスケの乗っている自転車はマウンテンバイクタイプだけど、車輪もボディも泥だらけでボロボロになっていた。

アルク

それは大変だったわね。

アルク

あたしの話を聞いていたなら、あたし達を襲っても意味がないってこともわかったんじゃないの?

ナミスケ

それとこれとは、話が別だ。

ナミスケ

闇《ケイオス》の魔法使いは、早めにつぶす!

ナミスケは自転車から降りると、魔法具《マギアツール》のダガーナイフを振りかざした。

ナミスケ

毒水蛇《サーペントウィップ》!

ナミスケの背後から何本もの水の矢が飛んで来た。

アルク

荒削りの嵐《インスタントストーム》!

アルクが風を起こして、水の矢の軌道を変え、山林に着弾させた。

ナミスケ

ちっ、やっぱり、お前の風が1番やっかいだな

アルク

魔法具《マギアツール》がないと魔法が使えない初心者とは違うのよ

ナミスケ

そもそも、お前は狙いじゃない……

ナミスケ

毒水蛇《サーペントウィップ》!

ふたたび数本の水の矢が、ぼくに向かって飛んで来た。

横に走って水の矢から逃れるが、1本だけ避けきれずに足にあたった。

足から腰にかけて、激痛が走る。

ユトリ

ユウゴさん、大丈夫ですか!?

ユウゴ

うん。
痛いけど、血は出てないから

でも痛い。

高出力の水鉄砲を当てられたような、鈍い痛みが残る。

ナミスケ

痛い目見るのが嫌なら、入学を諦めな!

ナミスケがダガーナイフを振るった。

またも複数の水の矢が……

……こない?

ナミスケ

どうした?

ナミスケも異変を感じたようで何度もダガーナイフを振るが、水の矢は飛んでこない。

その代わりに、木谷さんが飛ぶような勢いで走ってきた。

木谷さん

ちょっとちょっと、そんな暗いところで何してるの?
水道を出しっぱなしにしたの、あなた達?

木谷さんの言葉でだいたいわかった。

ナミスケは水場の水道を全部全開にして、攻撃用の水を確保していたんだ。

ナミスケ

ち、邪魔が入ったか

ナミスケは自転車に乗り直すと、木谷さんが来る前に去って行ってしまった。

木谷さん

はあはあ……

木谷さん

今の自転車の子、ユウゴくんのお友達?
何かもめていたみたいだけど

ユウゴ

えっと、キャンプをしに来たけど寝袋を忘れたからって帰りました

と言っておこう。

アミキティア魔法学校のことを話しても信じてもらえないだろうし。

木谷さん

そうなの?
ユウゴくんの友達なら、バンガローに泊まってよかったのに

ユウゴ

ですね。
言い忘れました

一応、木谷さんは納得してくれたみたいなので、そういうことにしておいた。

今の時間は、夜の10時半。

残り制限時間、16時間28分。

バンガローに戻ったぼく達は、ビンゴ表を囲んで、もう一度明日の行動を話しはじめた。

ビンゴ表のマスを埋めるには、場所だけではなく、その場所で魔物に襲われた人がいないといけない。

後はFREEの右下の2つのマスに色がつけばラインができるけど、その2箇所で魔物に襲われた人は、どうやって探せば良いんだろうか。

アルク

1番右下の日本家屋ならあたしで行けるわ

アルクが手を挙げる。

アルク

うちはマイナーだけど魔法使いの家系でね。
幼い頃に魔力を得るために、一晩中蔵に閉じ込められて魔物に咬まれてるのよ

ユトリ

そんな事されたんですか!

ユトリが声を荒げる。

ぼくは以前に聞いていた話だけど、やっぱり衝撃的な内容だ。

アルク

別に気にしなくていいわ。
傷は目立たないお腹だし。

アルク

不都合なんて、水着でビキニを選べないことくらいね

男のぼくは気にならないけど、女の子がファッションに制限があるっていうのは、結構辛いこともあるんじゃないだろうか。

アルク

あたしの水着姿想像した?

アルクがぐいっとニヤけた顔を寄せて来た。

ユウゴ

してません

同情して損した。

ユトリ

水着といえば……

アルク

ユトリってば、ユウゴがどんな水着が好きか興味あるの?

ユウゴ

そんな話はしてないよね

ユトリ

あ、いえ、水着はあまり関係ないんですけど。

ユトリ

この海岸なら、あたしが魔物に襲われた場所になるかもしれません

ユトリがFREEのすぐ右下の、海岸のマスを指差す。

それなら、アルクの日本家屋と合わせて、ビンゴのラインが完成する。

アルク

いいじゃない。どこの海?

ユトリ

それが、わからないんです

ユトリがうつむき、肩も小さく下がった。

アルク

そうか、幼い頃だと、地名までは覚えていないってこともあるか

ユトリ

そういうことではなく、
場所はわかるんですけど、行き方がわからないというか

アルク

どういうことよ?

ユトリがスーッと深呼吸をしてから、話し始めた。

ユトリ

あたしの顔に大きな傷があるのは知っていますよね?

ユトリ

この傷は幼い頃に海で遊んでいた時に、鮫に襲われてついたものなんです

その鮫が魔物だったんだ。

ユトリ

それで、その海のある場所なんですけど、うちの別荘がある普段は無人島の離島なんです

ユトリの家は、離島の別荘なんて持っているんだ。

私立中学に通っていると言っていたし、お嬢様なんだな。

アルク

自分の家の別荘なら、どこにあるかわかるでしょ?

ユトリ

いつも、港からフェリーで行っていたもので。
港までも親の運転する車で行くので、港の名前もわかりません

アルク

この箱入り娘が

ユトリ

すみません~

ユウゴ

そこはユトリは悪くないよ

たぶん、顔に大ケガをしているから、ご両親も少し過保護になっているんだと思う。

ユウゴ

あ、だったら、ユトリの親に聞くか、つれて行ってもらえば良いんじゃないかな?

アルク

ああ、そうよね。
もう、ビックリさせないでよ

ユトリ

それが……
両親には会えないんです

ユトリがさらにうつむき縮こまる。

会えないってことは、事故か何か不幸があったのだろうか。

ぼくとアルクは地雷を踏んだかと思って、お互い横目で目配せした。

ユトリ

ガイド妖精に私のアミキティア魔法学校入学を聞いてすぐに、
『ユトリが2年も寄宿舎で暮らすなら、日本にいる理由もない』と言って、
新事業を始めるためにシンガポールに発ちました。

ユトリ

今頃は飛行機の中だと思います

アルク

アグレッシブすぎんでしょ

ぼくも母さんに家を追い出されたけど、比べようもない。

入学できなかったら、ユトリはどうなるんだろう。

アルク

じゃあ、ユトリの海岸のマスはあとで考えるとして、まずは明日の朝イチであたしの家にいきましょうか

アルクが仕切り直した。

不安は残るけど、一応、残る2マスの行き先の目処はたった。

翌朝はバスの始発に乗るために、5時に起きた。

冷たい水で顔を洗って目を覚ますと、洗濯しておいた服に着替える。

管理事務所の木谷さんはまだ寝ているので、お世話になりましたとメモを残して、出発した。

残り制限時間、10時間00分。

アミキティア魔法学校の闇

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