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残り制限時間、8時間15分。
時間は、6時45分。
ユトリ
アルク
アルク
ぼく達はアルクの案内で、アルクの家に向かっていた。
ユトリが言うように朝早いというのも気になっていたけど、ぼくはもっと気になる事があった。
バスを降りてからずっと人気も車通りもない道を歩いてきたけど、ずーっと右側の景色が変わっていない。
左側は住宅があったり、お店があったり、駐車場があったりと普通の町並みなのに、右側は白壁の上に瓦が並んだ時代を感じさせる塀が延々と続いている。
これは多分、マンガとかでおなじみのあれだ。
アルク
アルクが事も無げに言う。
全っっっっっっっっ然、そんな感じを受けないけど、アルクってお嬢様なんだな。
アルク
ユウゴ
もう1つ気になることが残っている。
これ以上追求されないためにも、話題を変えて質問する。
ユウゴ
昨日、家に来たガイド妖精に母さんが洗脳されて、入学式のために家を追い出されてしまった。
ユトリにいたっては、両親が海外に行ってしまったと言っていた。
アルク
アルク
送り出してくれたじゃないのが、アルクらしい。
ユトリ
アルク
アルクの表情が少しだけ険しくなる。
あまりいい思い出ではないらしい。
ユウゴ
ユトリ
アルク
アルクが言うには、シシロウの神酒杜《みきもり》家はアルクの十二月三十一日《ひづめ》家とは比べ物にならないくらいの、魔法使いの名門らしい。
潜在能力を測るために入学試験まではスルーできないが、入学式では主賓として呼ばれるくらいの便宜は図られるだろうと。
アルク
ユウゴ
第2試験は一緒にいたから忘れていたけど、第1試験と最終試験は、シシロウが1番にクリアを決めていた。
度胸も実力も、ぼくとは雲泥の差だ。
などと話しているうちに、塀が途切れて、大きな門の前に到着した。
バスを降りてからここまで来るだけでも、20分以上かかった。
門だけでも、うちよりも大きいんじゃないかってくらいに迫力がある。
大きな門の柱には『十二月三十一日《ひづめ》』と看板のように大きな表札がかかっている。
ユトリ
突然ユトリが吹き出した。
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
表札がツボにはまったらしい。
たしかに、十二月三十一日って書いてひづめって3字で読むのは、改めて字で見るとちょっと面白いけど。
アルク
アルクに肩をちょんとつかれて、ユトリは落ち着きを取り戻した。
ユトリ
ユトリ
落ち着いたというか、落ち込んだ。
アルク
闊歩
いつの間にか、和服のおばあさんが門の前に立っていた。
背筋はピンとしていて、 浅葱色の着物が綺麗な白髪を引き立てて、 門の向こうの日本庭園とも相まって、 まるで一枚のかけ軸のようにも見える、高貴なたたずまいだ。
アルク
闊歩
アルク
闊歩
今、絶対にババアって言ってた。
ひとにらみされただけでアルクがここまで萎縮するなんて、きっと怖い人なんだろうな。
闊歩
おばあさんがぼく達に視線を向ける。
ユウゴ
とっさに頭を下げてあいさつをした。
闊歩
なのに、おばあさんからは不機嫌そうな質問がかえってきた。
ユトリ
ユウゴ
深々と丁寧に頭を下げて自己紹介するユトリを真似て、ぼくも改めてあいさつをした。
闊歩
闊歩
今の対応であっていたようで、おばあさんもあいさつを返してくれた。
見た目のとおりに、とても礼儀に厳しい人のようだ。
闊歩
アルク
闊歩
闊歩
おばあさんが部外者を強調して言う。
ぼくやユトリだけでなく、孫のアルクも家に入れるつもりはないようだ。
ユウゴ
闊歩
闊歩
200年で歴史が浅いとなると、名門だというシシロウの家は、何年くらい前から続いているんだろう。
ユウゴ
あと日本家屋と海岸に色がつけばクリアできるビンゴ表を見せた。
闊歩
おばあさんからの色よい返事。
思わず『やった』と小さくつぶやいていた。
闊歩
おばあさんの表情が、ふたたび厳しくなる。
ユウゴ
闊歩
闊歩
闊歩
魔法使いになる理由?
こんなことを聞かれたのははじめてだ。
はじめてで当たり前。 夢の入学試験まで、この世に魔法使いがいることさえ知らなかったんだから。
考えてみれば、魔法学校を目指して行動していたのは、ずっと成り行き。 なんとなく、そうしなきゃいけないんじゃないかと思って、やっていただけ。
よくよく考えてみたら、ぼくには『魔法使いになる理由』がない。
闊歩
闊歩
ぼくは何も答えられない。
ユトリが黙っているのも、同じような理由だろう。
闊歩
おばあさんの言うことが本当なら、今日の夕方には家に帰れる。
だったら、何もせず今日1日をただすごせばいいのかもしれない。
闊歩
突然、おばあさんの足元の土が盛り上がり、大きな泥団子が飛び出した。
泥団子はぼくの体の横をすり抜けて飛んでいき、背後にいた人物に直撃した。
ナミスケ
振り返ると、ナミスケがお腹をおさえてうずくまっていた。
リュックのような水タンクを背負っている。重そう。
ナミスケ
ナミスケ
アルク
ナミスケ
その努力と執念はすごい。
毎回、襲ってこなければもっといいんだけど。
闊歩
ナミスケ
闊歩
おばあさんの足元の土が盛り上がり、今度は数個の泥団子が宙に浮いた。
複数の泥団子が不規則な軌道を描いて、ナミスケを襲う。
ナミスケ
ナミスケ
水タンクから水があふれ出し、大蛇のように泥団子をひとつひとつ丸呑みにしていく。
水の大蛇の中で泥団子は溶けて混ざり合い、ただの泥水になって白い塀にぶつかって、真っ黒に染めた。
闊歩
ナミスケ
闊歩
ナミスケ
闊歩
闊歩
おばあさんが、ぼく達と同じ質問をナミスケにも投げかける。
ナミスケ
闊歩
闊歩
アルク
あっさりとナミスケに通行許可をだしたことに、アルクが抗議する。
アルク
闊歩
アルク
今、絶対にババアって言ってた。
それはともかく、ぼくもアルクと同意見だ。
ナミスケは自分が有利になるために、何度もぼく達を妨害してきた。
現に今も、おばあさんと戦ったばかりだ。
闊歩
ナミスケ
ナミスケは門をくぐって家の敷地に入った。
闊歩
闊歩
おばあさんがぼく達ひとりひとりの顔を見て、順に声をかける。
闊歩
闊歩
おばあさんの鋭い眼光に射抜かれて、アルクが肩を丸めて小さくなる。
闊歩
闊歩
ユトリもうつむき、言い返せないでいる。
闊歩
闊歩
ぼくの闇《ケイオス》のことまで知っているんだ。
今後もナミスケのような相手としょっちゅう戦わなきゃならないとしたら、とても怖いと思う。
……そうだ、怖いんだ。
幼い頃に魔物に襲われた。
あの時のことを思い出すと怖い。
最終試験で魔物犬と戦った。
あの時のことを思い出すと怖い。
魔物犬を倒した闇《ケイオス》の魔法は、とてつもない威力があった。
あの時のことを思い出すと怖い。
昨日、ガイド妖精に洗脳された母さんに家を追い出された。
あの時のことを思い出すと怖い。
その後ひとりで途方にくれていた時、アルクやユトリに出会えて、ほっとして怖さが和らいだ。
ぼくがここまで来れたのは、アルクやユトリがいたからだ。
ユウゴ
ユウゴ
闊歩
ユウゴ
それだけじゃない。
ここから先に進むのだって、アルクやユトリに恩を返すためだ。
闊歩
それまで厳しかったおばさんの表情が、少しだけやわらかくなったように感じた。
闊歩
アルク
ユトリ
アルクとユトリが声をそろえて、肩をすくめる。
闊歩
闊歩
アルクとユトリがお互いの顔を見て、うなずき合ってから答えた。
アルク
ユトリ
闊歩
今ので合格したの? なんで?
ぼく達は4人そろって、広い日本庭園の奥にある蔵に案内された。
蔵の中は薄暗く、空気はひんやりとして寒いくらいだった。
天井近くの窓から光が入るようになっているが、上の方を照らすだけで床まで光が届いていない。
その薄暗さの中でも、柱や壁に無数についた傷が目を引く。
アルク
アルクが吐き捨てるように言う。
十二月三十一日《ひづめ》家では、5歳の誕生日前日の日没に魔物と一緒に蔵に閉じ込められて、翌朝の夜明けまで出してもらえない。
夜の間に魔物に襲われ傷つき、魔力を体の内に取り込む儀式だ。
アルク
アルク
そんな子供時代をすごしたら、アルクが魔法使いを嫌いになったのもわかる気がする。
闊歩
アルク
いろいろ複雑な事情があるんだな。
ビンゴ表の右下の日本家屋に色がついた。
これで残りは、海岸……ユトリの別荘のある無人島だけだ。