💙×💛

涼ちゃんは机の上に毛糸と編み棒を広げて、ひとり黙々と手を動かしていた。

何があるって？そう、世界で一番好きな人の誕生日がそろそろ近づいてきている

僕は、そう言うの考えるの好きなんだけど、優柔不断ってのもあって色々迷った

指先を見つめながら小さく唸る。何度目かのやり直しで、すでに毛糸はふわふわと緩んでしまっていた。

ぽつりとつぶやいた声は、静まり返った部屋に吸い込まれていく

滉斗の誕生日が秋でこれから肌寒くなってくる時期ってことでマフラーを手作りしよかなって

でも、思っていたよりずっと難しい。動画を見ながら真似しても、目がそろわない。編み目のリズムもバラバラで、ところどころ歪んでいる。

できあがりかけのマフラーを持ち上げてみて、思わず笑ってしまった。 長さも左右バラバラ、端が少し反り返っていて、まるで子供の工作のようだ。

そう呟いて、もう一度編み棒を握り直した

でも、毛糸が絡まって、指にちょっと引っかかる

小さく声を漏らして、頬をふくらませた

そう言い聞かせながら、もう一度不恰好なマフラーを見つめる。 少し曲がってるけど、あたたかそうなグレーの毛糸。

滉斗の首に巻いたら、少し長さが足りないかもしれないけど、それでも、世界で一番、心がこもってるマフラーだと信じたかった

少しだけ頬を赤らめながら呟いた

冷たい風が吹く、今日は若井の誕生日！ 寒くて、指先が少し赤くなってきた

鞄の中―そこには、何日もかけて編み上げたマフラーが入っている。 何度も失敗してほどいて、ようやく完成した、ちょっといびつなマフラー。

それを渡そうと決めたはずなのに、胸の奥で心臓が暴れて止まらない。

小さく呟いて、鞄の中を覗きこむ

その時、背後から聞き慣れた声がした

振り返ると、両手をポケットに突っ込んだ滉斗が立っていた。

冷たい風の中でも、その笑顔はいつも通りで、でもそれが逆に眩しい。

笑いながらポケットから手を出し、涼架の手を握る。その仕草だけで、心拍数は一気に跳ね上がる。

今だ。 渡すなら、今しかない。

鞄の中にあるマフラーを、ぎゅっと握りしめた。でも手が震えて、言葉が喉に詰まる。

若井が首をかしげて覗き込んでくる

慌てて否定する声が裏返る

だめだ、言えない……！ “これ、手作り”なんて言ったら、絶対笑われる……！

でも、ポケットに手を突っ込んだまま寒そうにしている滉斗を見て、胸の奥がきゅっと痛くなった

彼の首元はマフラーもなくて、白い息が切なくほどけていく

……っ、やっぱり、渡さなきゃ

心の中でつぶやいて、意を決して鞄に手を入れる。 でも、いざ取り出そうとした瞬間――

違う。風邪なんかじゃない。 ただ、手の中のマフラーが、熱くて仕方がないだけ。

小さな声で言いかけて、また唇を噛んだ

でも、もう引き返せない

震える手でマフラーを取り出して、若井に差し出す

若井は一瞬きょとんとした顔をして、それからゆっくりと受け取った。

俯いたまま、頬を真っ赤にして小さく続ける

しばらくの沈黙のあと、若井の声がふっと柔らかくなった。

顔を上げると、若井は、マフラーをその場で首に巻いて見せた

涼架は息を呑む

その笑顔が優しすぎて、胸の奥がくすぐったくなる

その言葉に、涼架はさらに顔を真っ赤にして、思わず若井の腕を軽く叩いた

若井は笑いながら、マフラーの端を指でつまむ

――その言葉が、秋の空気になりつつある空気よりもずっと暖かく、涼架の胸に沁みていった

翌朝。 朝の空気が少し痛いくらい冷たい時間。

若井は、今日は朝早くから撮影があるみたいで、出かけようとしているところだった

彼の首に巻かれているのは、あの――何度もほどいて編み直して、結局“形がいびつなまま”完成した、あのマフラーだった

思わず小さな声がこぼれる

ちらっと視線を上げて、そしていつものようにニッと笑う

若井が首元を軽く引っ張って見せる

涼架の心臓が一気に跳ね上がる

若井があっさり言って、ふっと笑った

涼架が顔を真っ赤にすると、若井はいたずらっぽく目を細める

涼架は口を尖らせながらも、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

自分が「下手だから渡すのやめようか」と迷っていたマフラーを、彼はこんなにも大事そうに身につけてくれている。 しかも、わざわざ毎日つけるなんて言ってくれて

若井がそう言って、ふわりと笑う

涼架の頬がまた一段と赤く染まった。 冷たい朝の空気の中で、二人の距離だけが、そっと春みたいに温まっていった。