月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
注意!! ・地雷さんはUターン! ・青黒、赤桃、白水が付き合ってます ・nmmn ・2022年ラスト作品となっております💌
月見。
月見。
ふとした時、君に会いたくなる。
その声を、笑顔を求めて。
こっちを一瞬で元気にさせてしまう魔法使いの様な君に、会いたくなる。
突然会いに行ったにも関わらず、君はその愛らしい笑顔で笑うんだ。
────さぁ今日も、君に会いに行く。
赤
講義が終わった昼下がり。颯爽と荷物を片付けた友人達が、まだ席に着いていた俺の元へとやって来た。
頭の中でいれいすの活動予定を思い出しながら、スマホを取り出して確認する。
赤
赤
赤
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軽口を叩き合いながら大学を後にする。今日帰ったら歌ってみたの編集しようかなぁと考えながら、友人達の隣を歩いた。
赤
いれいすメンバーと過ごす時間は退屈を感じる暇すら無いほど騒がしくて充実しているけど、こうやって同じ学校の友人達と過ごす時間も、俺は結構好きだった。
気の置ける友人達と話す時は深く考えて言葉を出す必要も無く、この適度に力を抜ける関係性は大切なものだった。
赤
赤
肘でげしげしと突いてくる友人にジト目を向ける。友人は特に悪びれた様子もなく別の店を見て「俺あそこ見たいわー」と呟いている。人のこと言えないくらい自由な奴め。
そんなやり取りも最早慣れたこと。じゃあ見て来る、と言って目的の店の方へと一歩踏み出すと、友人は「おー」と手を振って来る。もう一人は彼の方について行くらしい。
店の中に足を踏み入れれば、いらっしゃいませーと軽やかな声が飛んで来る。
ここの店、前から気になってたんだよなぁ。近くに無かったから何気に来たのは初めてかもしれない。
近くにあった服を、片っ端から見て行く。こういうデザイン良いよな〜とか、こういうの着たことないから今度試してみようかなとか、服を見ている時間は充実していて好きだ。
バッグやアクセサリーを見るのも楽しい。アクセサリーとかの小物はすぐに付けられるし値段もそこそこって感じだから欲しいものに出会ったら手を伸ばしやすいし。
やっぱりこの店アタリだなー、今度ちゃんとお金持って買いに来よ。なんて上機嫌で、アクセサリーが飾られたコーナーへと足を進める。
デザインがかなり良いそれらを眺めていると、とある一点を見た時俺は思わず動きを止めた。
──深く考えることもしないまま、俺の次の行動は決まっていた。
夕陽が街を赤く照らし出す。帰宅ラッシュの時間にはまだ少し早いが、家へと向かう人達で少しずつ混み始めた街中をすいすい走り抜ける。
リュックに入れた、ラッピングされたそれを早く“彼”に渡したい。少々疲れて来た自分の体を突き動かすのは、そんな単純な欲だった。
彼女さんにですか?
唐突に投げかけられた質問に、あの時俺は暫くの間きょとんとしてしまった。
そんな俺を見て、レジのお姉さんは微笑ましそうな笑顔を浮かべた。
すみません、とっても優しい顔をしてたので。ラッピング、気合い入れますね。
そう言ったお姉さんが手に取ったピンクの袋に、俺はなんだか気恥ずかしさを感じた。
けれど今、後悔は何一つしていない。
彼の反応が気になるところだ。どんな表情を浮かべて、どんな言葉を放つのだろう。
早く見たいな。珍しいプレゼントに慌てる彼も、嬉しそうに笑う彼も、照れて頰を赤く染める彼も。
ショッピングモールを出てからずっと走り続けていると言うのに、足は疲労に重くなるどころか軽くなって行く気がした。
今なら、何処にだって行けそうだ。
今日自分は、かなりついている。
ついているってあれね、憑いてるじゃなくてね。・・・あれ、このついてるって漢字で表せるっけ。んん?付いてる?いや、平仮名でいいんだっけ。ツイてる?んー?
水
しまった。つい余計なことを考えてぼーっとしていた。
目の前でひらひらと手を振って僕の顔を覗き込んで来る友人に、ごめんごめん!と謝る。
水
水
水
友人が手に持っているのは、温泉宿泊のペアチケット。元々は彼が彼女さんと一緒に行く予定だったらしいのだが、予定が入ってしまい断念。
「行きたい相手いるならやるけど、いる?」と尋ねられたのが、ついさっきのこと。
水
水
水
スマホを取り出し、忘れない様にとメモアプリに打ち込む僕を見て、友人は何処かくすぐったそうに目を細めて笑った。
水
その穏やかな声色に、彼の人生初だと言う彼女さんとの仲が長期に及び平和に続いている理由が、なんとなく分かった気がした。
友人の完璧な人間性に圧倒されて忘れてたけど、僕は今日本当についてる。
温泉のペアチケットをただで友人から譲り受けたのはかなり大きかった。けどそれだけじゃない。
朝家を出た時、街を歩く人達がみんな傘を持っていた。まさかと思ってアプリで天気を確認した僕は、午後からの雨模様に絶望する。折りたたみ?無い無い。
最悪コンビニで買おう、なんて思ってた。すっかり常連になった美容室で髪を整えてもらっていると、外からは雨があちこちに打ち付けられる強い音が聞こえて来た。
「降って来ちゃいましたねー」と言葉を溢す美容師さんや、「外めっちゃ雨強いっすよ」なんて苦笑しながら入って来た新しいお客さんの言葉に、さーっと血の気が引いた。
この美容室からコンビニまでは少し距離があった。参った。傘なんて買わずに駅に直行した方が早いかもしれないとすら思った。
しかし、何がどうしたと言うのか。僕が美容室を出る頃には、外はすっかり晴れていた。
雨雲なんて上空には無く、遠くの空には虹がかかっている。思わず写真を撮って、ゆるりと口元を緩めた。
その帰り道で、自販機の“もう一本”が当たった。何気に人生で初めてだった。
どうせいつも通り最後の数字が揃わないんでしょー、なんて呑気に思っていた僕は、当たりを告げる為鳴り響いた音楽にびっくりして、買った飲み物を思わずその場に落としたものだ。
・・・そしてその後偶然出会った友人から、あのチケットの話を持ちかけられた。
今日はかなりついてる。もしかして今年の運全部使い切った?明日事故遭ったりしない?大丈夫?なんて不安になるくらいに。
家に帰ろうとしていた僕の足は、自然と家とは違う方向へと向いている。
目指す場所は、たった一つだった。
嬉しいこと、これから先の楽しいこと。その全てを、共有したい人がいる。
いつも僕に寄り添ってくれる、優しくて大好きな人。
なんでも一緒に背負って、一緒に楽しんで、一緒に歩んでくれる。そんな“彼”に。
この幸せを少しでもお裾分けしたくて。分かち合いたくて。
初めての“もう一本”で手に入れた飲み物は、気付けば彼の好きなものだった。
足取りは軽い。雨によって出来上がった水溜まりにパシャッと音を立てて足を踏み入れてしまったが、濡れるスニーカーよりも、跳ねて煌めく水が綺麗で、そんなこと気にもならなかった。
きっと君は、自分のことの様に笑ってくれるんだろうな。
そんな温かな期待と信頼を胸に抱きながら、僕はいつの間にか軽快に走り出していた。
白
通り過ぎたケーキ屋の看板に書かれた文字を少し遅れて理解して、僕は進み過ぎた足を後ろへと引き戻し、その看板をまじまじと見つめた。
かわいらしい絵柄のイラスト付きで描かれた新作を伝えるその看板に、僕は財布を取り出して中身を確認する。
そしてもう一度看板を見て、お店の中へと視線を投げる。
白
ショーケースの奥に立っている女性店員さんと、ぱちっと目が合った。
目が合ったその人は、なんだかおかしそうに僕を見て小さく笑った。
・・・ずっと見られてたな。
一旦通り過ぎて戻って来て、何度も看板を確認しては財布の中まで見て入るか迷って・・・。そんな、なんだか情けない自分の姿を見られていたと思うと恥ずかしさが募る。
なんとも居た堪れない気持ちを感じながらも、僕はそのケーキ屋の扉に手をかけた。ここまでして帰るのもそれはそれでよろしくない。
扉に付いていた鈴がからんころんと軽やかな音を立てる。最近は自動ドアばっかりだし、こんな雰囲気のお店はなんだか久しぶりで、良い心地がした。
そこまで広くなくて、どちらかというとこぢんまりとしたお店だった。最近新しく出来たお店という訳ではなかったが、入ったのは初めてだ。
いらっしゃいませ、と優しい声が僕を招き入れる。店員さんはさっきのことなどもう気にしていないようで、愛想の良い笑顔を浮かべて僕を見ていた。
白
ショーケースに並ぶスイーツを眺めて、僕は思わず声を漏らした。
色鮮やかなスイーツ達は、キラキラと輝いて見えた。言葉にはしがたいが、こちらの心を惹きつけて離さない様な魅力がある。
初めてケーキ屋に入った時の感動をもう一度掘り起こされた気分だ。ワクワクとドキドキが高鳴って何もかも特別に見えた、あの時の感覚。
スイーツ達にとっても、ここはかなり居心地の良い場所なのだろう。各々がその魅力を充分に発揮している。
白
本当に宝石の様なスイーツをうっとり眺めていた僕は、その声に我に返って目的のものを探した。
白
まるで自分が何かを褒められた時のように、嬉しそうに表情を明るくして笑う店員さん。
優しい人なんだろうなと、なんとなく思った。なんとなく、なんて言った割には、その予想は間違っていないだろうという絶対的な自信もあった。
・・・こんな風に優しい人を一人、僕はよく知っている。
脳裏にちらつく淡い水色に、ふっと目元が和らぐのを自覚した。
最近抹茶ブーム来てるの僕!いや元々好きだったんだけど、この前コンビニで買ったスイーツが本当に美味しくて!今抹茶のものならなんでも食べたい病だよ〜
白
白
新しい箱を取り出したまま僕の言葉を待って動きを止めている店員さんに、僕は小さく笑った。
白
一緒に食べようよって、君なら言うんやろうな。
桃
ぐっと腕を空に向けて伸ばす。すっかり肩が凝ってしまったようで、ぶんぶんと肩を回した。
以前が忙しくなかったなんてことは全く無いが、最近は一等忙しい。
今日も朝から積み重なっていた企画と打ち合わせ。気を使ってくれた社員さんが、休むのも仕事です。と半ば強制的に俺を帰らせた。あれ、俺一応社長だよね?
優しい社員さんに感謝しながらも、夕方のこの街を歩いているのが最近では新鮮で、なんとなくいけないことをしているような感覚に陥る。例えばそう、授業をサボって学校を早退した日のような。
いつから動いてないと落ち着かない仕事人間になってしまったんだか、最早覚えていない。
けどそれは、仕事をしてないと何をしたらいいか分からないとかそう言うんじゃなくて、この活動が楽しくて大好きだからだ。
好きなこと、好きな人達の為なら、何回だって頑張れる。
それは一種の魔法のようで、今日も俺の体を突き動かす原動力となる。
まぁ一先ず今日は優しい社員さんの気遣いに甘えて、素直に家に帰ることにしよう。
桃
最近買い出しに行けていなかった気がするから、もしかしたら冷蔵庫はすっからかんかもしれない。
一応何か買って行こう、と俺が足の向きを変えた時。
桃
ひらりと揺れたロングコートに、目を丸くした。
桃
呼びかけたその名前は、最後まで呼び切ること無く雑踏の中に消えて行った。
桃
雰囲気が似ているだけの、ただの他人だった。
そもそもこんな人混みでこんな時間に、彼に会ったことなんてない。
きっと彼は今頃、大学から帰って来て家で歌ってみたの編集や録音なんかをしているところだろう。
それか、レポートに追われているか。
以前提出期限を間違って把握していたりうらが、死に物狂いでレポートを終わらせていたのを思い出す。
その日はりうらの家に俺が遊びに行く予定で、訪れた俺をやつれた様子のりうらが迎えてくれた時は流石にビビった。
「ごめん、これ今日中に終わらせないと駄目なんだほんとにごめん」と何度も謝って来る彼に、「気にしないで、早く終わらせな」と苦笑したのを覚えてる。
全力で学生してる彼をなんだか微笑ましく思いながら、パソコンに向き合う彼の後ろ姿を眺めていた。
レポートに追われてそれどころじゃない筈なのに、俺を帰すことはしないんだなと少し嬉しく思ったものだ。
桃
ぽつりと呟く。この、胸の奥から湧き上がってくる想い。
彼に似ている人を見かけて、彼に会えるのではと一瞬の期待を抱いて、彼のことを思い出したら。
───会いたく、なってしまった。
桃
ぴたりとその場で足を止めた。前から歩いて来た人が迷惑そうに顔を顰めて俺を避けて行く。申し訳無いなと思いながらも、その場で暫く考えた。
・・・なんて言っても、既に答えは出ていたが。
立ち止まっていた俺はくるっと振り返り、元来た道を歩き始めた。
仕事帰りとは思えないほど、足取りは軽かった。
桃
偶にはわがまま且つ強引になったって、誰も文句は言わないだろう。
自然と上がる口角を自覚しながら、俺は地面を踏み締めた。
──それでも足りないと気付いたのは、なんてことない瞬間だった。
この一週間は特に忙しかったと思う。流石の社畜ライフだと我ながら感じた。ツアーライブを数ヶ月前に終え、いれいすの方がそこまで忙しくなかったのが不幸中の幸いだった。
疲労がどっと溜まった体は、一度リビングのソファに背中を預けて仕舞えば立ち上がろうという気は一ミリたりとも起こしてくれなかった。
スーツが皺になると分かっていながらも、脱いでハンガーにかけるまでの行為が面倒臭くて諦める。明日は待ち侘びた休み。まぁ、どうにかなるだろう。
半分程閉じかかった視界で机の上に置いたスマホを捉え、手を伸ばして捕まえる。
アプリを開き、もう見慣れた再生リストを開く。そしたらシャッフル再生をぽちっ。
スマホから流れ出した、力強くも感情表現がはっきりとしている綺麗な歌声。
その声が紡ぐ音色に、疲労で重たくなった体が少しずつ軽くなるような気がした。
一曲一曲が、この身に染み込んでいく。時折間に割って入って来る広告がうざったいが、その前まで流れていた曲の余韻に浸っていれば、スキップなんてしなくても数秒の広告なんてあっという間だった。
再び流れ出すのは同じ声。けれどそこに込められた感情や力加減、声色は前の曲の時とはまた違う。
全て彼の思うまま。自由自在に操られるその歌声は、俺の耳にしっかりと溶け込んだ。
このまま眠ってしまっても良いかもしれない。そんな心地良さを感じながら、俺は近くにあったクッションを手繰り寄せた。
それでも足りないと気付いたのは、なんてことない瞬間だった。
そのまま寝ようかと思ったところで、俺の腹の虫が盛大に鳴いた。
どうせ後は寝るだけなんだから夜くらい別に食べなくても良いことは分かっていたのだが、俺の食欲がそれを許さなかった。
少しばかり軽くなった気がする体を起こし、なんかあったかなと冷凍庫を漁って、レンチンの炒飯を発見。
早速出来上がったあったかい炒飯を口一杯に頬張れば、満たされていく食欲にふふんと笑みが溢れる。
曲を変え流れ続ける歌声に耳を傾けながら、炒飯をまた口に入れる。
・・・そんなことを繰り返して、炒飯が残り三分の一ほどになった時。
俺は不意に、レンゲを持つ手を止めた。
青
満足していた、つもりだった。
大好きな歌声を聴きながら、あったかくて美味しいご飯を食べる。後は寝るだけ。明日は休み。最高な条件が揃っている筈のこの状況で、俺はなんとも言葉にしがたい感覚を覚えた。
・・・何かが、足りないのだ。
曲を流し続けるスマホの電源を、一度落とした。
部屋の中に訪れる静寂。再び電源を付けて曲を再生すれば、張り詰めていたその場の空気が自然と流れ出す。
これは、最早日課のようなものだった。
どれだけ疲れていても、その歌声を聞けば力が湧いて来る。
すぐにでもベッドに戻りたい眠い朝も、仕事で疲れ切った夜も。
“彼”の声を求めて、俺は彼の音楽への愛がたっぷりと詰め込まれたその歌達を流していた。
そして今日も同じように、その歌声を聴いて満足していた筈だったのに。
物足りないと、思っている。
・・・彼の“声”を、求めている俺がいた。
青
それもいれいすの集まりでのことで、彼と二人で過ごす時間がたっぷり取れたとは言えない。
いつも俺からしていた電話も、今週は忙しさに時間を取られてかけることが出来なかった。
音楽を紡ぐ彼の歌声は勿論魅力たっぷりで、いつ聴いたって満たされるものがあるけど。
・・・結局のところ、どうやったって本物には勝てないらしい。
青
時計を見れば、もう日付が変わっていた。
今日は、休み。いれいすの活動も無い。
彼は今、起きているんだろうか。
青
そんなことはないと、俺の中でもう既に結論は出ていた。
優しい彼は、きっと突然訪ねて来た俺のことだって笑顔で迎えてくれるんだろう。
青
今すぐにでも家を飛び出して、星空の下に彼を連れ出したい気持ちをなんとか抑える。
青
そう呟いて、俺は残りの炒飯をかきこんだ。
少しでも早く寝て少しでも早く明日を迎えようだなんて小学生みたいな単純な考えに至るくらいには、君に会いたくてしょうがないんだ。
黒
用事があって外出していたら、気付けば夜。昨日までまだ暖かかったくせに、突然訪れた寒気が俺の体をガタガタと震わせる。
バタンと少し雑に閉めた扉。一人暮らしの家には暖房を付けて待ってくれている人なんて当然いる筈もなく、小走りで廊下を走った。
リビングに駆け込み、ピ、と音を立てて暖房を付ける。あったまるまでの時間に果たして耐えられるだろうか。
この感じじゃ寝る時も相当寒いな。寝る前に部屋に暖房付けとかなきゃな、と考える。
折角夜ご飯に鍋を食べて来たのに、ほかほかにあったまった体も帰り道で冷されてしまった。
踏み締める靴下越しの床が冷たい。指先は冷蔵庫にでも入れてたんかと思うほどひんやりしていて、温もりは全く残っていない。
あにき手冷たいな!?
黒
不意に俺の頭の中で蘇る、いつかの彼。
まろがあっためる!どう!?
・・・ぬるい
えっ!?
ガーンとショックを受けた様に顔を顰めて、それでも手は離さないまろに、思わず笑みが溢れたものだ。
・・・じゃあ、こっちにしよ。
そう言って腕を広げられたら、もうそれ以上の言葉なんていらなくて。
どれだけ寒い冬だって、彼がいてくれれば生きていけるのに。
あの温もりを知ってしまった自分には、この部屋はあまりにも寒過ぎる。
漸く部屋を温め始めた暖房の温風だって、さっきまで自分が求めていたものだった筈なのに。
この空間は、俺の心までを温めてはくれない。
───彼が、いたなら。
前回に会ったのはいつだろうかと考えるくらいには、最近まろと会えていなかった。と言うのも、向こうが特に忙しそうなのだ。繁忙期と言うやつだろうか。
会社に勤めている訳でもない自分が、社会人として頑張っている彼にわがままを言う資格など無く、会いたいの一言すら伝えていないけど。
黒
一度考えたら、何処までもその温もりを求めてしまう。
───その温もりに、触れたいと願う。
壁にかけられたカレンダーを、ちらりと見る。明日は休日だった。
黒
一人の部屋でぽつりと言葉を溢した。今考えていることがらしくないことだとは思いながらも、溢れそうになる気持ちを止めることは出来そうになかった。
黒
とあることを決意して、俺は一先ず風呂に入る為に風呂場へと向かったのだった。
赤
桃
赤く染まった街の中で、会えるとは思ってもいなかった彼の姿を見つけて急ブレーキをかける。
俺の姿を認識して目を丸くしていたないくんは、何処か嬉しそうにゆっくり表情を緩めた。
桃
赤
桃
赤
桃
言い淀むその姿に、首を傾げる。
赤
桃
赤
桃
その顔が赤いのは、きっと夕日のせいじゃない。
赤
桃
赤
桃
赤
嬉しさに、表情がゆるゆるになっているのを自覚していた。
赤
───貰って欲しいものがあるんだけど。
ピンポーン、とチャイムの音だけが家の中から小さく聞こえて来る。
水
てっきりいると思っていたから、いつまで経っても足音がしない家にがっくり肩を落とす。
確かに、僕はどんな自信を持ってここに来たんだろう。彼がここにいる確証なんて無かったのに。
水
アポ無しで突撃した僕の自業自得だった。会えないのは残念だけど、これでもし向こうに用事があったとしたら申し訳無い。
そうして足の向きを変えた時、僕のスマホから着信音が流れ出した。
徐に取り出したスマホが画面に表示した名前に、僕は目を丸くした。
水
勢い良く応えた僕に、スマホの向こうの人物が一瞬息を飲み、くすくすと笑う声が聞こえて来た。
白
水
白
水
白
水
白
スマホの向こう側から聞こえて来る優しい声色が紡ぐ言葉に、じわりじわりと顔が熱くなっていくのを感じる。
白
水
優しい彼が誤解してしまう前にと、慌てて声を出した。
水
白
水
電話の向こうからは沈黙が流れて来る。でも、それを気まずいだなんて思わなかった。だってきっと、電話の向こうの彼は緩む口元を押さえている。
白
水
電話なんてしなくても会えると信じて、電話なんてするよりも先に体が君の元へと向かっていて。
お互いを大好きな気持ちが引き起こしたそんな愛しいすれ違いに、二人でくすくす笑い合う。
白
水
白
水
白
水
白
心に染み込む様な、感情の込められたその声にまた顔が熱くなる。この人は、こういうことを簡単に言っちゃうんだよなぁ。
水
───君と共有したい幸せが、いっぱいあるんだ。
相変わらず、寒い。
朝の寒い家の中を歩き回って、着替えや朝食をささっと済ませる。
・・・これから、最高で最大限の温もりを求めに行く。
マフラーを出そうかと思ったが、そんな少しの時間もなんだか勿体無くて、俺はコートを着て廊下を歩いた。
ドアノブに手をかけて、いざ行かん。
青
黒
勢い良くドアを開けた瞬間耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある。
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黒
一瞬、これは夢なんじゃないかと思った。
だって、これから会いに行くつもりだった人が。昨日から会いたいと願っていた人が、目の前にいる。
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唖然として尋ねる俺に、まろは一瞬視線をそらして照れ臭そうに頰をかいた。
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まろの言葉を聞いてぽかんとしている俺に、まろは何を思ったのか慌て出した。
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黒
踵を返そうとする彼の手を咄嗟に掴む。今度はまろがきょとんとする番だった。
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なんだか恥ずかしくて、まろの顔は見れなかった。
黒
会いたいと思っていた彼が、会いに来てくれた。こんな幸せなことがあるだろうか。
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無言のまま、まろに抱き締められる。
その腕に込められた力が案外強くて、思わず顔を上げて彼の顔を見ようかと思った。
が、まろは俺の肩に顔を埋めていてその表情を見ることは出来なかった。
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改めて力が込められた俺を包む腕と、熱を帯びたその声に、ぶわっと顔が熱くなる。
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不意に離された体。俺を映す彼の目が酷く優しくて、顔の熱は一向に引いてくれない。
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黒
まるで時が止まったかの様な感覚に陥る。小さく息を吸って、吐き出した。
黒
君に、会いたかった。
きっかけは、些細なこと。
君に似合うものを見つけた。君と分かち合いたい気持ちがあった。君の好きなものを見つけた。君に似た人を見かけた。君の声を求めた。君の温もりに触れたかった。
一度君のことを考えれば、もうこの気持ちを抑えることなんて出来なくて。
他のことなんて全部投げ捨てて、真っ先に愛しい君に会いに行こう。
──明日もきっと、君に会いたくなる。
Thank you for 2022!
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こ 、こ れ な ん t a p 弚 州 、 ? …… 恐 ろ し や ……