松野英樹
松野英樹
松野英樹が問うと、藤原明美と岡島孝の2人は揃って頷いた。
弟の英二を除く3人は、議論の対象となっている塚本信行とは大学の同期で、
お互い社会人になった今も同好グループとして交流があった。
藤原明美
藤原明美
岡島孝
岡島孝
松野英樹
藤原明美
藤原明美
岡島孝
岡島孝
松野英樹
岡島孝
岡島孝
松野英樹
松野英樹
と、松野は黙って聞いていた弟の英二に視線を向けた。
松野英二
松野英二
松野英二
松野英二
藤原明美
松野は「う~ん」と唸って考えた。
が、やがてちょっとした計画を思い付くと、全員にそれを話した。
松野英樹
岡島孝
岡島孝
藤原明美
松野英樹
松野英樹
松野英二
松野英樹
松野英樹
松野英二
松野英二
松野英樹
松野英樹
松野英樹
明美と岡島も頷いた。
塚本は大人とは思えないイタズラをする子どもっぽさを今も持っているが、
車のこととなるとやたらと頑固なのだ。
松野たちも大学時代から、塚本の車に乗せてもらったことがない。
松野英樹
松野英二
松野英樹
松野英樹
松野英二
英二は塚本の慌てぶりを想像すると笑いが堪えきれなくなった。
明美と岡島も賛成した。
お盆休み初日、松野の車に弟の英二、明美、岡島の3人が乗車した。
塚本は松野の誘いに乗ったが、案の定、自分の車で行くと主張した。
他人を車に乗せるのを拒む態度も相変わらずだが、松野たちにとっては計画通りだった。
塚本の自宅前で合流してから目的地の温泉地へと向かう。
岡島孝
岡島孝
松野英樹
藤原明美
松野英樹
藤原明美
岡島孝
岡島孝
30分ほど走ったが、相変わらず後に続く塚本の車は正常運転を保っている。
運転に集中して気付いていない可能性があると思ったとき、目前に橋が見えた。
崖下を流れる川は穏やかだが、高さは100メートルを下らない。
不意に、明美が「あっ」と声を上げた。
松野もバックミラーを見ると、後ろで塚本の車が激しく揺れている。
運転席の塚本がなにかを振り払うように片手を振り回し、
もう片方の手で握るハンドルは不安定に左右に動いている。
岡島孝
岡島の言葉に釣られて松野たちもおかしそうに笑って見ていた。
が、塚本の車が柵を突き破って崖下に真っ逆さまに転落したのを目の当たりにし、
車内の空気は凍り付いた。
転落した車は激しく炎上し、数時間後の警察の調べで、車内から焼死体が発見された。
松野は事実を話そうとしたが、岡島はそれを必死に止めた。
松野たちの間でこの事故はタブー扱いとなり、以後誰も話題にしなかった。
藤原明美は会社を出ると、やはり感じ取れずにはいられなかった。
藤原明美
あの事故以来、妙な視線を感じており、帰宅する際も精神的な負担が大きい。
恐怖を振り払うように首を振り、駐車場に停めてある車に乗り込む。
数秒、息を吸ったり吐いたりしてから、エンジンを吹かし発車させた。
いつも通りの道を走っていると、後部座席に違和感を覚えた。
外の街灯によってかすかに照らされた車内にうごめく不気味な存在。
それが明美の首筋に当たった。
ゾッとするような感触に戦慄した明美はハンドル操作を誤り、
車は電信柱に激しく追突した。
車の顔がひしゃげ、頭を強く打った明美の意識が徐々に薄れていく。
朦朧とする明美の視界に、蛾のような生き物が飛んだ気がした。
大破した車を暗闇から眺めていた人間は、満足そうに笑みを浮かべ、
回していたスマホの動画撮影を終えた。
岡島は怯えていた。
警察からある報告を受けると、逃げるように会社を飛び出し車に乗り込み、発進させた。
良識ある岡島にも運転中のスマホ操作は危険だと承知していたが、
悠長に時間を掛ける暇がないほど岡島は焦っていた。
前方を気にしつつボタンを押す。
岡島孝
松野に電話を入れるも出ない。
まだ会社から帰っていないのだろう。
岡島孝
松野兄弟は両親に先立たれ、マンションに暮らしていた。
コール音が続くが相変わらず英二が出る様子はなかった。
岡島は舌打ちをし、スマホを助手席に放った。
そのとき、助手席からなにかが舞った。
岡島にはそれが蛾だと分かった。
岡島は必死に手で蛾を振り払おうとした。
岡島は虫が苦手ではないが、このときは別の意味で蛾に恐怖を感じていた。
無我夢中になり、やがてハンドルから両手を離してしまった。
車は歩道と車道を隔てる段差にタイヤを乗り上げ、スピードも加わって横転した。
頭を下にしたまま火花を散らして数メートル進むと爆発と共に炎上した。
既に中の岡島も蛾も火の海に飲まれ、黒煙が闇夜の空をより黒く染めた。
その様子をスマホのカメラレンズが絶えず捉えていた。
松野は警察の報告を聞いて驚愕した。
それでも冷静さを失わず、英二に祖父母の自宅に泊まるよう連絡した。
今日は祖父母宅に寄り道をして、時間を潰していたからだ。
松野はマンションに着くと鍵を掛け、着替えずじっとソファに座った。
藤原明美と岡島に電話を掛けるが出る気配がない。
岡島からは不在着信が来ていた。
不吉な予感に捕らわれたが、電話を切り室内を見回した。
松野英樹
おかしなところはない。
ひとまず気を落ち着かせようと煙草を手にベランダへと出た。
いつも煙草を吸うときはベランダに出ることに決めていた。
サンダルを履きベランダに出た。
プツッ
足に違和感を覚え見下ろすと、長い釣糸が横に伸びていた。
松野が釣糸を踏んだことで、ベランダの天井に宙吊りにされていた鳥籠から、
数え切れないほどの蛾が部屋の明かりに向かって飛び掛かった。
松野は目の前に広がる蛾の大群に驚き、暴れながら煙草を放り投げた。
松野は、自分でも何故そうしたのか分からなかったがベランダの手摺に乗り、
躊躇いなく体を、夜景が広がる空に向けて乗り出した。
悲鳴がこだまし、やがてドサッという音がした。
松野の頭から流れる赤黒い血が、コンクリートの地面を染めていく。
男はそのニュースを聞きながら、動画の編集に集中していた。
大破した車と炎を吹き上げる車。
そして、無数の蛾に襲われ8階から身を乗り出し転落する男の姿。
編集を終え、匿名でネットにアップする。
様々な悪質動画を投稿する虫嫌いの男にとって、それは単なる「遊び」だった。
2019.08.16 作
コメント
2件
好き
怖い…((( ;゚Д゚)))