馬鹿1号。
家庭内と言う狭い枠組みの中で一番になろうと もがく馬鹿。
反論無し=論破した とか馬鹿な数式があるのだろう。
そんな陳腐な発想だから学内テストも3位止まりなのだ。 これを次男が指摘した時は笑った。
馬鹿2号。
常に保身に生きる馬鹿。
窮地に立たされると大好きな兄にすら牙を向く。挙げ句失禁する。 これを「馬鹿」と言わずして何と言う。
馬鹿3号。
やたら悲劇の人間ぶる馬鹿。
さも勇敢に戦ったかのように、「結局お兄ちゃん達が饅頭食べちゃった」 見てただけのくせに、「星夜くんがあの中に!誰か助けて!!」
君たちと家族になれて嬉しかった __と安っぽいセリフを吐いてやると
「星夜くんはお兄ちゃん達が言うような人間じゃないよね。僕ずっと信じてた」とか言われて吐き気がした。
___新しい「お兄ちゃん達」は究極の馬鹿揃いだった。
小学6年の時に受けた学内テストとやらで俺が最高記録を出すと、馬鹿1号が目に涙を溜めてリビングを飛び出した。
中学生だって言うのにギャンギャン泣いてた。 これが現実だよ、井の中の蛙くん。
__さて現実を知った1号はそれから一念発起して更なる勉学の道に進んだ、わけではない。馬鹿だから。
馬鹿1号は2号を従え俺にちょっかいを出して来るようになった。
落ちこぼれの悔し紛れに俺が屈するはずが無い。
俺を陥れる策を考える暇があるなら勉強すればいいのに、馬鹿だからその考えに至らない。 2号が引いてるぞ。
俺の母親の事情を知ればこの馬鹿達はどんな間抜け面を見せてくれるだろう…そう思っていたが、先に2号に知られたようだ。
腰巾着くんは鼻息荒く1号に報告していた。
流石は馬鹿達。 子供部屋にバリアでも張られていると思っているのか、超ビックニュースを普通の声量で話していた。
聞き耳を立てると、「懲らしめてやろうぜ」等が容易に聞き取れた。
___そして半年前。 「お兄ちゃんが話があるって」2号がノックもせずに俺の部屋のドアを開けた。
誘い文句と言い、いつも1号と行動してた2号が1人で乗り込んで来る事と言い、「これから何かしますよ感」がバレバレだ。
2号に連れて行かれた先は案の定取り壊し予定の木造倉庫だった。 左手をポケットに突っ込んだ1号が待っていた。あそこにライターが入っているのだろう。
1号は俺を倉庫内に突き飛ばすと音を立ててドアを閉めた。
「押さえろ押さえろ」 「待って今鍵閉めるから」 馬鹿なやり取りを聞きながら、ドアの対面に設けられている窓に歩み寄る。
本来なら鍵を使わないと窓は1ミリも動かせないのだが、既に拝借済みだ。
馬鹿達は如何にして閉じ込めるかで頭がいっぱいで、脱出される可能性まで思い至らない。 鍵の束が無くなっているとは夢にも思わないのだろう。
堂々と脱出すると、「星夜くんは何も関係ないんだから」とか弱々しい声が聞こえた。どうやら馬鹿なやり取りに3号も加わったようだ。
しかし1号が2言3言かけると3号はすぐに黙り込んだ。 くだらねぇ。
燃える倉庫にビビる馬鹿達を置いて、俺はくだらない家をあとにした。
母は詐欺師だ。
金を盗る為なら手段は選ばない。 顔も名前も職業も性格も、生い立ちすら偽る。
つまり 何もかも母のでっち上げだ。
2号が確信を抱いた当時の新聞には、容疑者の行方を現在追っている、と記載されていた。 (馬鹿な2号は墓前で手を合わせた光景を連想し母がそうだと錯覚した)
この俺の母親に位置する人だ。2号の尾行に気づかないわけが無い。 演技も完璧だった。
だから俺も1号達の馬鹿な計画に気づかないふりをし、慰謝料と言う名目で藤村家の財産を掠め取るお手伝いをしてやったのに
唯一の、「馬鹿」のレッテルを与えるに値しない人間だと思っていたのに、母は俺を道具としてしか見ていなかった。
くだらない家をあとにした半年後。 「仕事に出る」と言ったっきり母は帰って来なくなった。
飲酒も喫煙も許されない年齢の俺は母の「仕事」の枷になる、と判断されたのだろう。
母の中から一人息子の存在は消えた。 生い立ちすら偽る母は、もう「息子がいる」と公言することは無いだろう。
そんな時 小耳に挟んだ。 半年間ずっと不登校だった男子生徒が全身に包帯を巻いて登校して来たと。
噂の高校は3号が受かった高校___。 なるほどこれだ。
馬鹿にしては面白いことを考えるじゃないか。 これを利用して1号と2号の弱みを握る。
3号と元父親はとにかくおめでたい連中だから、お涙頂戴の安っぽいセリフで簡単に同情を買える。
3号に電話してやった時、自分を心配して父が家で仕事するようになった、と言っていた。
3号を心配する気持ちもあるだろうが、恐らく家で「も」仕事するようになった、が真実だろう。
きっと傷心を悟られぬように一層明るく振る舞っていることだろう。
___とにかくあの くだらない家に戻ろう。
そして数年大人しく暮らして、また金を盗ってやろう。
俺なら母の倍以上盗れる自信がある。
とはいえ、
俺が馬鹿達の末子だった時に繰り返された嫌がらせ。
「悲しい」「辛い」とは思わなかったが鬱陶しくはあった。 無視したいのか構って欲しいのかどっちなのだ。
ガス抜きが必要だった。 それが「アイツ」だ。
頭脳明晰 故(ゆえ)俺は家庭教師を任された。 (母の仕事の土台造りだと思うが)
その生徒がまぁ何をするにも どんくさい女だった。 俺と同い年であることが信じられない__
___と言うようなことを口にしたら顔を真っ赤にして金魚みたいに口をパクパクさせて面白かった。
馬鹿達のくだらない憂さ晴らしの憂さ晴らしを2週間に1回 その生徒に行うようになった。 女の名前など覚える気が無いので「愚図」や「ノロマ」と呼んでやった。
__末子だった時はそのようにしてガス抜きをしていたが、今度はどうだろう。
馬鹿達のくだらない憂さ晴らしに……いや大丈夫か。既に俺は「閉じ込めて火を放った」と言う弱みを握ってる。
__ああなんて愉快なのだろう。
全て俺の思い通り。万事上手く事が運ぶ。 これからもずっと そうだ。
それは ひとえに周りが馬鹿すぎるから。 そんな馬鹿達を操る俺が
完璧すぎるから。 全てを飲み込む黒の絵の具。
そのはずだった。
拝啓。 この手紙に貴方は目を通せているでしょうか。
何をやっても完璧な貴方からすれば私達はさぞや滑稽に見えたことでしょう。
そんな馬鹿の1人である私に出し抜かれた現在の心境はどのような物でしょうか。
「包帯少年」が通う高校に私が在籍していたこと、それが貴方の誤算です。
私のことなど覚えていないでしょうから、自己紹介しましょう。
お久しぶりです、辻村美花です。 貴方から「愚図」や「ノロマ」と素敵なニックネームを頂きました。
貴方の家庭教師先の生徒です。2週間に1度お世話になりました。
現在は「包帯少年」こと藤村風人くんと同じ高校に通い、同じ美術部に籍を置いてます。
私のこと、思い出して頂けましたか? では本題に入りましょう。
貴方が自宅の倉庫で火災に遭った為、もう家庭教師に来ることは無い、と聞かされた時は本当に嬉しかったです。
灰色一色の暗いキャンパスを想像してみてください。 そこを更に濃い灰色で塗り潰したら?いったい誰がプラスなイメージを抱くでしょうか。
私にとって貴方はその濃い灰色でした。 そんな貴方からやっと解放される。
元も灰色なのにそれでも輝いて見えました。
美術部のメンバーから爪弾きにされ部室に入ることも許されなくて、仕方なく埃っぽい ほぼ物置の空き教室に画材道具を広げてたんですが
それでも穏やかな心で過ごせました。
そんな私の元に、全身に包帯を巻いた、ずっと不登校だった男子生徒がやって来ました。
彼は私のいる場所が美術部の部室だと勘違いしていましたが、訂正しようとは思いませんでした。 どうせすぐに真実を知り離れていくと思ったから。
しかし彼は面白い話を聞かせてくれました。 資産家の血の繋がらない兄弟、閉じ込められ放火までされた四男…
さも自分のことであるかのように彼は語ってくれましたが、これは貴方のことです。 包帯を巻いた彼は三男の藤村風人…。
三男の意図はすぐに分かりました。 私でも分かったのですから、貴方も当然分かっていたのですね。
だから自分も包帯を巻いて、長男と次男の前に現れて怖い思いをさせる。
やがて三男が「包帯少年」であることが露見。長男と次男はあの時の包帯を巻いた人も三男だったのかと詰め寄るが当然三男には身に覚えのない話。
右往左往する兄達を高みから嘲笑う、それが貴方のシナリオですね。
事実全て貴方の計画通りでした。 そこで私が動くことにしました。
風人くんはこんな私にも優しくしてくれた。機会を与えてくれた。 そんな風人くんが再び学校を休むようになりました。
私は「お見舞いに行きたい」と言って教師から風人くんの家の場所を聞き出しました。
風人くんの家に、兄弟達が帰宅しているだろう夕暮れ過ぎに訪れました。
そして貴方の被害者たちに私が過去に受けた仕打ちのこと、貴方の本性を語って聞かせました。
さて頭のいい貴方はもう察したことでしょう。
そうです。「もう一度ちゃんと話をしたい」と風人くんが貴方に電話したのは私の指示です。
私が指定した場所、私が指定した時間に さてどんな茶番劇が見れるだろうと貴方は悠々とやって来ましたね。
あとは簡単です。
「包帯少年」が生まれた「きっかけ」をもう一度再現すればいい。
ちゃんと窓の無い建物を選びましたし、油も撒いておきました。
紙面の隅に1度載った程度の、 貴方のお母様が嘘に利用した放火事件。
あの事件の犯人はその後ほどなくして捕まりました。
情報社会とは恐ろしいですね。その捕まった男が私の父親だと判明するのに1週間もかかりませんでした。
学校生活は一変しました。 机には毎日「放火魔」と書かれ、「反省しろ」「禊だ」と髪を焼かれました。
そして家では貴方に苦しめられました。 私の人生は灰色一色でした。
高校になっても学校に居場所はなかったけど、それでも貴方を出し抜けた、復讐を果たすことが出来た
その事実は、灰色の中に1点の赤を咲かせてくれました。
貴方が巧みに本性を隠していたように、私もずっと色々なものを押し殺して生きてきました。
全身に包帯を巻いて素顔を覆うように。
3兄弟は過去のあやまちを受け止め、それぞれの道を懸命に進んでいます。
そんな彼らを「馬鹿だ」と、果たして現在の貴方は嗤えるでしょうか。
貴方がこの手紙に目を通せていることを、暗く冷たい留置場より祈ってます。
さあ共にどん底を生きましょう。
貴方はこれからずっと
本物の包帯少年となるのです。 辻村 美花
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予想されるクエス☆☆☆ Q「辻村美花って誰」→A「1話で包帯少年と邂逅した女の子です」 Q「更新遅すぎん?話の内容忘れたんだが?」→A「ごめんなさい!!全ては非リアの筆が遅いせいです!それでもここまで読んでくださりありがとうございます❗」