彼は穏やかな顔つきで眠っている。
突然倒れた時は驚いた。
隆
隆
隆
隆
隆
隆
隆
すぅすぅと子供のような寝息を立てる彼の髪をそっと撫でる。
柔らかかった。
隆
左手の薬指には自分のを、小指に大陽が置いていった指輪をはめていた。
結婚式で会った時、運命だと思った。
偶然のようで必然な運命。
捕らわれたらもう、良くも悪くも逃げることはできない。
隆
隆
隆
隆
隆
この3年で、随分歳をとったように感じた。
感情すら色褪せようとしていた。
3年、たった3年、されど3年。
自身のアパレルショップを開き、歳をとり、変わっていくには3年は十分だった。
しかし、変わってしまった自分が嫌だった。
隆
隆
隆
式場での別れ際、言いかけた彼の言葉が気になった。
都合のいい妄想ばかりしている自分がいた。
隆
隆
隆
隆
ふ、、と記憶の道を戻った。
まだ21の時だった。
彼女がいたが、形だけだった。
告られて付き合って、好きになることは1度もなかった。
そして、振られた日
いつもは絶対に入らない、カップル達で溢れかえるカフェに1人で行った。
何の悲しみもなく、むしろ体が軽かった。
そこだった。俺達の出会いは。
大陽
大陽
隆
大陽
大陽
隆
ほとんど顔も見ずに会話していた。
しかし、顔を上げた時だった。
大陽と目が合った。
もうあの瞬間、いや、もっと前から運命は動き出していたのかもしれない。
その時はただ、美形だな、と思った。
そして、笑顔がキラキラしていたのをはっきりと覚えている。
今思えば、あれは一目惚れだった。
瞬きのひとつひとつが繊細で指が細くて綺麗で、気が付けばずっと彼を見ていた。
大陽
大陽
隆
隆
隆
大陽
隆
会計などを済ませ、席に着く。
そして、気が付いた。
鼓動が初めての感覚で高鳴っていた。
心臓が鼓動を打つ度に体に衝撃が走るような感覚。
隆
隆
それは俗に言う、''恋'' の感覚だった。
隆
隆
男が好きなのか、
しかしそう考えれば、全ての辻褄が合った。
彼女と別れた原因も、そこにあったのか。
女性の体はあまり興奮しなかった。
しかし、それは自分のせいだと思っていた。
自分は不感症なのかと思っていた。
そうでは無いことに気が付いたのがその日だった。
同性愛者なのだ、と思うと今までのことが全て楽になった。
驚くことはなかった。
隆
大陽
大陽
隆
大陽
大陽
隆
その店員がテーブルにコップを置こうとした時、手を滑らせた。
コーヒーは見事に俺の服にかかった。
大陽
隆
大陽
彼は机上のナプキンを手に取り、茶色に染まった俺のシャツを拭く。
大陽
彼は膝立ちをしながらせっせと作業を続ける。
その時、はっとしたようにこちらを見上げた。
大陽
大陽
大陽
隆
その、こちらを見上げる上目遣いと弱々しい声が可愛らしかった。
初めて誰かを愛おしいと思った。
きまり悪そうに目を泳がせる彼は、まるで彷徨う子犬のようだった。
もう、気が付いた時には遅かった。
俺は、シャツを拭く彼の腕を掴んでいた。
隆
隆
隆
大陽
大陽
大陽
隆
大陽
隆
隆
大陽
隆
隆
大陽
隆
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大陽
隆
大陽
大陽
大陽
大陽
隆
隆
隆
大陽
そうして、連絡先を交換した。
周りの客達がざわめき立てる。
傍から見たら、ただの面倒なクレーム客だ。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
彼を前にしては。
つくづく変な人だな、と思った。
注文の時にはじっとこちらを睨んできた。
無愛想で、絶対に関わりたくない人種の人間だと、脳が拒絶反応を起こしていた。
こぼしてしまった時は、最悪だ、と思った。
終始、何を考えているのか分からなかった。
ただクレームをつけたいだけでは無さそうだった。
大陽
大陽
今日の一件で体がだいぶ疲れていた。
しかし休むことなどできない。
ピアノの練習をしなくてはいけない。
大陽
大陽
幼い頃から、みんなが僕を天才ピアニストだと謳った。
その期待に応えるべく、一生懸命取り組んだ。
そして、その成果が出て周りから褒められるのがやりがいだった。
しかし、高校2年生の時、ふとした時、言われた言葉に違和感を覚えた。
''大陽くんは天才だから''
今まで、褒め言葉だと思っていたそれが、突然そうではなくなった。
違う、そうじゃない。
僕は天才じゃない。
自身の努力を貶すような言葉にすら聞こえた。
''天才'' その一言で全てが片付けられ、人々は皆、納得する。
それがどうしようもなく嫌だった。
いつしか、ピアノを弾くことすら、苦痛となっていった。
しかし、それを変えてくれたのは彼だった。
主
主
主
主
主
主
主
主
主
コメント
1件
うん。腐は良き。