澪
準備万端だね
樹
……ああ、うん
澪
どうしたの? こうしようって言ったの樹でしょ
樹
そうだけど……本当にやるのか?
澪
……もしかして怖くなったの?
樹
い、いや、そう言うわけじゃない
澪
なら、早く行こう
樹
……ああ
二人は人が滅多に来ない公園へ入る。
入り口からは見えにくい位置の木に縄がかけられ、誰かが触った様子は無い。
樹
なあ、やっぱり辞めないか?
澪
……
樹
本当はまだ死にたく無い
樹
だってよ、俺がお前をこんなことに誘ったのもただヤリたかっただけなんだわ
澪
……そう
樹
なあ、どうせ死ぬなら良いだろ?
澪
死にたくないんだ
樹
……? そう言ってるだろ
澪
これ、持ってきて正解だった
そう言って澪が手提げ鞄から取り出したのは刺身包丁。
樹は慌てて逃げようとするが、運悪く木の根に躓いて転び、
狂気に満ちた笑みを浮かべる澪がゆらりゆらりと近付く。
澪
一緒に死ぬって、約束したもんね
樹
お、おい、こっち来んな!
慌てて立ち上がった樹だったが、急に足に力が入らなくなり、
脚を見れば刺身包丁がザックリと差し込まれていた。
澪
何でそんなに生きたいの?
樹
……
澪
何で両足が無くなっても助けを求めたの?
樹
……
澪
何で両腕が無くなっても許しを願ったの?
樹
……
澪
ねえ、何で?
澪
答えてよ
澪
生きたいんでしょ?
澪
ねえってば
澪
……でもね、感動しちゃった
澪
そんな状態になってまで生きようとするなんてね
澪
だから私、樹の分まで生きようと思うの
澪
樹は私の命の恩人だよ
澪
じゃあね
澪はバラバラになった樹の死体に背を向け立ち去る。
ーー鼻歌を歌いながら







