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第1話 - あ

2023年09月09日

#恋愛

結城　真矢

アケミ

お義母さん！マサキだけ可愛がって、イチカを蔑ろにするのやめてください！

アケミ

マサキにだけおもちゃを買ったり、お菓子をあげたりしてるそうですね

アケミ

そういうの、子供達のどっちにとっても悪影響です！

アサコ

あらぁ、悪影響ってどうして？

アサコ

マサキは男の子で、大事な跡継ぎなのよ。その自覚を持たせるために優遇してるだけ

アケミ

イチカの気持ちは無視ですか？イチカ、泣いてるんですよ

アケミ

おばあちゃんは私のことが嫌いなんだ、って…

アサコ

女は所詮役立たずのごく潰しなんだから、弁えるべきなのよ

アサコ

それをこの歳から教えてあげて、何が悪いの？イチカの為なのよ

アケミ

そんな、酷すぎます…お義母さんだって女じゃないですか！

アサコ

えぇそうよ。だから私はわきまえて生きてきたの

アサコ

それなのに、今の女ときたら権利ばかり主張して、我儘で…

アサコ

私はイチカにそんな女になってほしくないのよ

アケミ

昔と今は違います！お義母さんの考えには賛成できません

アサコ

うるさいわねぇ！大体ね、私は女の孫なんかいらなかったのよ

アサコ

イチカなんて、マサキのおまけとして生まれてきただけの存在よ！

アサコ

面倒見てあげてるだけでも感謝してほしいものだわ

アケミ

…そうですか。そんなこと思ってらしたんですね。それなのに、子供達を預けてすみませんでした

アケミ

今後は二度とそちらには帰省しないし、子供達には会わせません

アサコ

何よ、脅してるの！？私、マサキには会いたいのよ！

アケミ

脅しているのではなく、本当に会わせません。イチカにもマサキにも

アサコ

本気なの！？考え直しなさいよ、双子育児は大変でしょう？

アサコ

私はマサキのためならなんでもしてあげるし、イチカの教育だってしてあげるわよ

アケミ

結構です。それでは、今までありがとうございました

～数日後～

アケミ

お義母さん、イチカをどこにやったんですか！？

アサコ

え？一体何の話よ？知らないわよ～

アサコ

夫の母親に、いわれのない疑いをかけるつもり？

アケミ

庭でイチカとマサキを遊ばせていたら、ちょっと目を離した隙に、

アケミ

イチカだけいなくなってたんです！

アケミ

警察にも通報して、夫と探し回ってました

アサコ

それで私を疑うの？失礼しちゃうわ～

アサコ

私が、可愛いマサキを放ってイチカだけ連れて行くわけないじゃない

アサコ

あんたが目を離してたのが悪いんでしょう

アサコ

あんたの躾が悪いから、イチカが勝手にどっかに行っちゃったんでしょう

アサコ

私のせいにしないでくれるかしら

アサコ

だから、女の子は大人しく躾けてわきまえさせろ、って言ったのに…

アケミ

証言があるんですよ

アケミ

探し回っている私達を見ていたマサキが、

アケミ

『イチカはおばあちゃんが連れてっちゃった』って言ったんです

アケミ

どうして黙ってたのかって聞いたら、

アケミ

『おばあちゃんはイチカにサプライズプレゼントをあげるの。パパとママには内緒ね』

アケミ

って言われたんですって！

アサコ

何よぉ、子供の言うことを信じるの？

アケミ

物証もあります！お義母さん、マサキにお菓子も渡してましたよね

アケミ

お義母さんくらいしか渡しませんよ、羊羹なんて

アサコ

あぁぁもう、そうよ！おばあちゃんが孫を連れて行って何が悪いの？

アサコ

マサキに言った通り、イチカにはサプライズプレゼントをあげるだけよ

アケミ

何が悪いのって…悪いに決まってるじゃないですか！無断で連れ去ったんですよ！

アケミ

大体、あなたがプレゼント渡すだけとは思えません！

アケミ

一体何企んでるんですか！？

アサコ

実はねぇ、町内会長の藤井さんと同居の息子夫婦、子供が生まれないらしいのよ

アサコ

養子を欲しがってるとも聞いたわ

アサコ

だからね、イチカを養子にあげようと思うの

アサコ

さっき藤井さんにイチカを渡してきたわ

アケミ

はぁ！？何やってるんですか！勝手に娘を養子に出すなんて…

アサコ

別にいいじゃない。あなたは双子育児で大変そうだし、私は女の孫はいらないし、

アサコ

藤井さんは子供を欲しがってるのよ

アサコ

だったらイチカを養子に出せば、winwinじゃない。誰も損をしないわ

アケミ

私達はそんなの望んでません！

アサコ

落ち着いてアケミさん。長い目で見れば、この方がいいのよ

アサコ

マサキだって跡継ぎだというのに、双子の妹のせいで半分しか

アサコ

親の愛情も手間もかけてもらえないなんて、可哀想でしょう

アサコ

イチカを養子に出したら、イチカも大事に育ててもらえるし、

アサコ

あなただって子育ての手間が減るじゃない。いいことづくめよ

アケミ

冗談じゃない。イチカは私達の大事な娘なのに！すぐに取り返しに行きます！

～数時間後～

アケミ

お義母さん、藤井さんに何を吹き込んだんですか！

アケミ

どうにかイチカを取り返してきましたけど、相当渋られましたよ！

アサコ

あらぁ取り返したの？バカねぇ。藤井さん達も喜んでたのに、可哀想に

アケミ

勝手に養子に出して、藤井さんに期待させたのは誰ですか！？

アケミ

私達藤井さんに責められたんですよ

アケミ

『双子のお兄ちゃんばかり可愛がって、イチカちゃんを捨てておいて今更なんだ』って

アケミ

それ全部、お義母さんのことですよね！？

アサコ

そう言ったら、藤井さんも快く引き取ってくれたのよ

アケミ

しかも私達、イチカを虐待したって責められたんですよ

アケミ

否定したら、『イチカちゃんの体に傷があるのにとぼけるのか』って言われて、

アケミ

服をめくってみたら、本当に傷がありました…

アサコ

あら～あなたイチカを虐待してたのねぇ。あれだけ偉そうに言っておきながら

アサコ

優しい藤井さん達に預けて正解だったってことね

アケミ

あんな傷、昨日お風呂に入れた時はありませんでしたよ

アケミ

イチカを誘拐した後、お義母さんが付けたんですよね

アサコ

あなたのした虐待を私に擦り付けないでちょうだいよ

アケミ

私は虐待なんてしてません！それにあれは真新しい傷でした

アサコ

だったらイチカが勝手に転んだのよ

アサコ

あの子、あなたのわきまえさせない躾のせいで、女の子だというのにお転婆だからねぇ…

アサコ

いずれにしろ、私は知らないわ

アケミ

他でもないイチカが言ったんですよ。おばあちゃんにされたって、大泣きしながら…

アケミ

このことを喋ったらママをひどい目にあわすよって、脅したらしいですね！？

アサコ

あ、あの子喋ったの！？口止めしたのに…

アケミ

酷すぎる。イチカ、いきなり誘拐されて、

アケミ

おばあちゃんに痛いことをされて、知らないおうちに預けられて、

アケミ

どれだけ怖かったでしょうね…可哀想に…

アサコ

だから、長い目で見ればその方がいいんだってば！

アサコ

さっさと藤井さんにイチカを返しなさい！

アケミ

藤井さんにはすべて話しました

アサコ

へ？

アケミ

普段からマサキだけ可愛がって、

アケミ

イチカを女の子だからと蔑ろにしていたのはお義母さんだったことも、

アケミ

お義母さんがイチカを誘拐して勝手に養子に出したことも、

アケミ

イチカに傷をつけたのがお義母さんだったこともね！

アサコ

そんなの、あなた達の言うことは信じないように言ってあるわ

アケミ

お義母さんとのLINEのやり取りを見せたら、信じてくれましたよ

アケミ

何なら今、このやり取り見てますからね

アサコ

ひっ！？

アケミ

藤井さん達、子供を虐待する人間は許さないって、激怒してますよ

アケミ

町内会から追い出して、お義母さんの所業を近所中に広めるそうです

アサコ

待って！そんなことされたら、町内を歩けなくなっちゃう！

アケミ

それくらいで済めばいいですけどね

アケミ

私達、警察に被害届を出す予定ですから

アサコ

け、警察…！？夫の親を、警察に売るの！？

アケミ

当然です。むしろ夫が被害届を出すって息巻いてます

アケミ

夫は子供達のことを溺愛してますからね

アサコ

待ちなさいよ！こんなの、ほんの身内間のトラブルでしょう？

アサコ

イチカだって取り戻せたんだからいいじゃない！大事にしない方がいいわよ！

アケミ

児童の誘拐、詐欺、脅迫、傷害…これがお義母さんの罪状です

アケミ

私達は、イチカの心と体を傷つけたお義母さんを、決して許しません

アサコ

大袈裟よこんなの！

アサコ

ねぇ、子供達からおばあちゃんを奪う気？二度とマサキを可愛がってあげないわよ！

アケミ

だから、子供達には会わせないって前に言ったじゃないですか

アケミ

それに、おばあちゃんなら子供達を分け隔てなく可愛がってくれる、私の母がいますので

アサコ

マサキが悲しむわよ！可愛がってくれたおばあちゃんがいなくなったら！

アケミ

マサキはお義母さんがイチカにしたことを知って、

アケミ

『おばあちゃん嫌い！おばあちゃんは悪の手先だったんだ！』って言ってますよ

アサコ

あ、悪の手先…？

アケミ

ぴったりですよね。『おばあちゃんのくれるお菓子まずい』とも言ってました

アケミ

小さい子の口には合わなかったんですかねー

アサコ

な、何よ何よあれだけ可愛がってあげたのに！酷いわよ！！

アサコ

ひっ…今主人からもＬＩＮＥが…

アサコ

『お前には呆れた。離婚しよう』ですって

アケミ

さっきお義父さんにもお義母さんの所業を全て伝えたんですよ

アケミ

証拠付きでね

アサコ

そんな…どうしてくれるのよ！私ずっと専業主婦なのよ！働いたことないのよ！

アサコ

あの人に離婚されたら、生きていけないわ！

アサコ

お願い、あなた達助けて！家に住まわせてよ！

アサコ

私の息子でしょ、嫁でしょ、孫でしょ！！

アケミ

誰が娘に酷いことした人間を助けるものですか！

アケミ

安心してください。お義父さんと離婚して家を追い出されても、刑務所の中に住めますよ

アケミ

国が直々に養ってくれるんです。よかったじゃないですか

アサコ

よくないわ！そんなの嫌！！

アサコ

ごめんなさい！もう二度としないから許して！お願い！！

アサコ

イチカにも謝るわ！今度からは二人とも可愛がってあげる！だから、被害届なんて出さないでよ！

アケミ

ごめんなさいで済めば警察はいらないんですよ

アサコ

これだけ言っても許してくれないの！？反省してるのに！

アケミ

当然です

アケミ

お義母さんは犯罪者なんですよ、わきまえてください

～後日談～

アケミ

その後、お義母さんは逮捕され、塀の向こうに行きました

アケミ

出所後も、お義父さんに離婚されたお義母さんは行く当てがなく、

アケミ

更に近所中にお義母さんの所業が知れ渡ってしまったため、

アケミ

どこに行っても冷たい目で見られ、

アケミ

それに耐えられずに町を去っていったそうです

アケミ

今では安いアパートで独り暮らしをしながら、

アケミ

パートを掛け持ちして若くない体に鞭を打って、必死に働いているのだそうです

アケミ

今まで働いたことがないためにパートもミスだらけで、叱られる毎日

アケミ

お得意の『今の女はわきまえてない』という説教も

アケミ

『無能なくせに偉そうな老害ババァ』と一蹴され、別人のように縮こまるようになったのだとか

アケミ

イチカの傷は癒え、今ではマサキと一緒に毎日元気に遊んでいます

アケミ

マサキは『次に悪の組織が襲ってきたら、今度こそ妹を守るんだ！』と張り切っています

アケミ

ごっこ遊びの内容が一時期、『イチカを狙う悪の組織をヒーローのマサキがやっつける』

アケミ

ばかりだったのはちょっと困りましたけどね（笑）

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結城　真矢

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