辛くなった
しんどくなった
それだけ、といえば、それだけ
蒲丞 來愛
夜、学生なんていない時間
まだ人通りの多い東京の 混みあった道を
グッと
パーカーのフードを被って
雨の中 傘もささずに歩く
頬に伝うのは
もしかしたら 雨かもしれないし
そうじゃないのかもしれない
周りは私なんて見ずに 足早に通り過ぎていく
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
授業中、何度手を挙げても 1回も当てられなかったこと
遊びに行こう と話すグループに 私も良い?って言っても
私を含まない人数で 決定したこと
出席確認で、名前を 呼んでもらえなかったこと
ここまでくると
もう辛いを通り越して 笑えてきさえする
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
辛くなったから
家に1人でいるのが 嫌になって
行く宛てもなく 街を彷徨くことにした
発端なんて、そんなもの
意味なんて無い
蒲丞 來愛
歩いているうちに 知らない場所に来ていた
どこか現実離れしたそこは
都会の喧騒とは かけ離れているようで
蒲丞 來愛
東京の中でも都心にいた筈
都心から徒歩で、こんな場所に 来られるとは思えない
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
初夏とはいえ 夜はまだ風が涼しい
人混みでもないここは 余計に涼しく感じる
蒲丞 來愛
スマホを起動してみたが
電池残量が 残念なことになっていたので
そっともう一度 電源を切った
ホテルの場所を調べて 電池が切れるなんて
そんなことには なりたくない
蒲丞 來愛
呟いて 辺りを見回す
おかしいって
なんで家が1軒しかないの
アンティーク調の装飾が 施された扉が
橙の灯りに照らされて
優しい印象を与えている
パッと見、私の家より 2倍以上は大きい
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
流石にあの時間 帰り道を探すのは危険と判断して
ゆっくりと 扉をノックした
扉が開く
???
顔を出したのは 本を手に持った…
???
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
???
蒲丞 來愛
???
???
???
???
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
聴き心地のいい声は 男女どちらのものか判らない
ただ
スっと染み込んで 温めてくれるみたいな
そんな感じだった
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
室内に入ると 出迎えたのは多すぎる本
その量に圧倒されていると
その…少女か少年か 判断がつかない人物が
こちらを振り返った
???
???
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
???
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
えへへ、とたるさんは 誤魔化すように笑う
…かわいい
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
乾いたはずの目元が じわりと濡れる
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
目の前でたるさんは 半ば困惑、半ば辛そうな表情で
そっと私を見てくれる
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
温かい気持ちと どこか冷めた気持ちが
ごちゃ混ぜになって なんか、気持ち悪い
たるさん
蒲丞 來愛
も
ふ
っ
蒲丞 來愛
唐突に後ろから 身体が何かに包み込まれた
もふもふとした“なにか”は
強すぎず弱すぎず 絶妙な力加減で私を抱き締める
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
その言葉に 身を捻って見上げると
蒲丞 來愛
つぶらな黒い瞳に 白と黒の毛並み
動物園とか写真集とか …ぬいぐるみとか
とにかくそういうところでしか 見たことがない動物が
私を後ろから抱き締めていた
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
たるさん
來愛さん困ってるでしょ!? と言いながら
たるさんは パンダの腕を引っ張る
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
実際、抱き締められてるだけで
あったかいし
心の中に積もった 嫌なこと全てが
溶けていくような そんな心地になる
たるさん
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
自然と顔が綻ぶ
それを見て
たるさんが私の頭を撫でた
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
言われて初めて 笑っていることを自覚する
自然に、笑えた
たるさん
たるさん
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
今まで悩んできたことが 馬鹿らしく思える程
じんわりと 身体の芯から温かくなっていく
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
もふもふの毛並に顔をうずめて 目を閉じる
自分の中で渦巻いていた 嫌なモノ全てが
浄化される、感覚
目を開けた
それから
深く息を吸う
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
頷くと ゆっくりパンダが離れていく
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさんが扉を開く
来た時とは違って 中から見えた外は晴れていた
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
返ってくる「またね」は無い
でも たるさんは そっと微笑んでくれた
暗い道を ただひたすら歩く
たるさんの家の灯は すぐに見えなくなってしまった
蒲丞 來愛
たるさんに、パンダに
充分な程 温かさはもらった
だからきっと、大丈夫
蒲丞 來愛
前方に、僅かな光が見えた
息を吸う
地面を蹴った
來愛が帰った家の中
たるさんは安堵の息を吐いた
たるさん
ポケットから眼鏡を取り出し 慣れた手つきでそれを掛ける
パンダがたるさんを ゆっくりと撫でた
たるさん
たるさん
首を傾げる
たるさん
たるさん
たるさん
たるさん
誤魔化すようにそっぽを向く
たるさん
たるさん
たるさん
咎めるように パンダがたるさんの頭を小突いた
たるさん
たるさん
手に持った本のページを捲り そこをじっと見る
脳裏に『またね』と言った 來愛の表情が浮かんだ
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
目を開ける
白い天井が見えた
瞼が重い
身体も重かった
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
4階の教室の窓から 飛び降りたとこまでは憶えている
蒲丞 來愛
大袈裟とも思える程 包帯を巻かれた腕と足は
ズキンズキンと痛い
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
気付いたら
雫が頬を伝っていた
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
誰かに、優しさと 温かさを貰ったような
そんな曖昧な記憶はある
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
窓から夜空を見上げる
俯いて過ごしていた日々では 絶対に見付けられなかった、
瞬く星が 一面に広がっていた
歩いて辿り着いたのは
どこかで来たことがあるような そんな場所
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
惹き付けられるように
アンティーク調の装飾が 施された扉をノックする
たるさん
顔を出したのは
たるさん
“あの頃”と変わらない 本を手に持ったたるさんと
もふもふの毛並のパンダ
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
たるさん
身長が縮んで たるさんを見上げる私の頭を
たるさんは優しく撫でてくれる
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
たるさん
蒲丞 來愛
渡されたのは 紅に煌めく糸だった
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
たるさん
蒲丞 來愛
蒲丞 來愛
去っていく その後ろ姿を見送る
パンダが不思議そうな顔をした
たるさん
たるさん
不満げな表情が浮かぶ
たるさん
たるさん
たるさん
そう言うと 手に持った本が淡く光り
溶けるように消えていった
おそらくは
あの本棚に入ったのだろう
これは
カクリヨ コンソウシ 幽世で過ごす1人の魂送師と
1匹のパンダの
終わりのない
タマオクリ “魂送”の物語