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家族愛/友愛系まとめ

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家族愛/友愛系まとめ

7 - たるさんちのパンダ

♥

575

2021年07月16日

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辛くなった

しんどくなった

それだけ、といえば、それだけ

蒲丞 來愛

…ばかみたい

夜、学生なんていない時間

まだ人通りの多い東京の 混みあった道を

グッと

パーカーのフードを被って

雨の中 傘もささずに歩く

頬に伝うのは

もしかしたら 雨かもしれないし

そうじゃないのかもしれない

周りは私なんて見ずに 足早に通り過ぎていく

蒲丞 來愛

(見られて、ない)

蒲丞 來愛

(…見て、もらえない)

蒲丞 來愛

(きっと、たぶん)

蒲丞 來愛

(どこでも同じ)

授業中、何度手を挙げても 1回も当てられなかったこと

遊びに行こう と話すグループに 私も良い?って言っても

私を含まない人数で 決定したこと

出席確認で、名前を 呼んでもらえなかったこと

ここまでくると

もう辛いを通り越して 笑えてきさえする

蒲丞 來愛

(見てもらえないのが)

蒲丞 來愛

(こんなに辛いと思わなかった)

辛くなったから

家に1人でいるのが 嫌になって

行く宛てもなく 街を彷徨くことにした

発端なんて、そんなもの

意味なんて無い

蒲丞 來愛

(どこだろ、ここ)

歩いているうちに 知らない場所に来ていた

どこか現実離れしたそこは

都会の喧騒とは かけ離れているようで

蒲丞 來愛

(…東京、だよね?)

東京の中でも都心にいた筈

都心から徒歩で、こんな場所に 来られるとは思えない

蒲丞 來愛

(でも、服…
びしょびしょだし)

蒲丞 來愛

(ホテルか何か行かないと
寒さで死にそう…)

初夏とはいえ 夜はまだ風が涼しい

人混みでもないここは 余計に涼しく感じる

蒲丞 來愛

(この辺、ホテルなんて
あるかな)

スマホを起動してみたが

電池残量が 残念なことになっていたので

そっともう一度 電源を切った

ホテルの場所を調べて 電池が切れるなんて

そんなことには なりたくない

蒲丞 來愛

絶望的…

呟いて 辺りを見回す

おかしいって

なんで家が1軒しかないの

アンティーク調の装飾が 施された扉が

橙の灯りに照らされて

優しい印象を与えている

パッと見、私の家より 2倍以上は大きい

蒲丞 來愛

(地主さん…?)

蒲丞 來愛

(1晩くらい…泊めてくれるかな)

流石にあの時間 帰り道を探すのは危険と判断して

ゆっくりと 扉をノックした

扉が開く

???

はーい

顔を出したのは 本を手に持った…

???

蒲丞 來愛

(女…の子?)

蒲丞 來愛

(いや男の…子?)

???

どうしたんですか?

蒲丞 來愛

え?

???

あ!

???

びしょ濡れじゃないですか!

???

中入ってください

???

風邪引きますよ!

蒲丞 來愛

う、うん

蒲丞 來愛

ありがと…

聴き心地のいい声は 男女どちらのものか判らない

ただ

スっと染み込んで 温めてくれるみたいな

そんな感じだった

蒲丞 來愛

わ…

蒲丞 來愛

(本ばっか…)

室内に入ると 出迎えたのは多すぎる本

その量に圧倒されていると

その…少女か少年か 判断がつかない人物が

こちらを振り返った

???

あ、流石に嫌ですよね

???

得体の知れない人のとこに
泊まるの

蒲丞 來愛

蒲丞 來愛

いや、私は

???

ボクはたるさん

蒲丞 來愛

え?

たるさん

たるさん

蒲丞 來愛

それが…名前?

たるさん

本当かどうかはわかりません

たるさん

気付いたら
そう呼ばれてました

蒲丞 來愛

はあ…

たるさん

貴女は?

蒲丞 來愛

え?…あぁ

蒲丞 來愛

  カマタス ライア
私は蒲丞 來愛

たるさん

來愛さんですね!

蒲丞 來愛

う、うん…

たるさん

…あ、ごめんなさい

たるさん

久し振りに人が来てくれたので
なんか嬉しくて

えへへ、とたるさんは 誤魔化すように笑う

…かわいい

たるさん

何見てるんですか?

蒲丞 來愛

ううん、別に

たるさん

……

蒲丞 來愛

……

たるさん

蒲丞 來愛

な、なに?

たるさん

いえ

たるさん

なんか、辛そうだなって

たるさん

何かあったんですか?

蒲丞 來愛

たるさん

…初対面で聞かれても
困りますよね!

たるさん

忘れてくだs

蒲丞 來愛

…見てもらえなかった

たるさん

え?

蒲丞 來愛

誰からも

たるさん

來愛さん…?

蒲丞 來愛

クラスメイトも、先生も

蒲丞 來愛

私が何しても
誰もこっち見てくれなくて

たるさん

……

蒲丞 來愛

そしたら

蒲丞 來愛

なんか、えっと

蒲丞 來愛

上手く言えないけど

たるさん

うん…

蒲丞 來愛

もう笑うしかないなって…

乾いたはずの目元が じわりと濡れる

蒲丞 來愛

どうしてかなんて
わからない

蒲丞 來愛

聞いたって
応えてくれない

蒲丞 來愛

しんどくなって

蒲丞 來愛

…こう、なった

目の前でたるさんは 半ば困惑、半ば辛そうな表情で

そっと私を見てくれる

蒲丞 來愛

……ごめん

蒲丞 來愛

初対面で話すことじゃ

たるさん

辛かったんですね

たるさん

悲しかったんですよね

蒲丞 來愛

っ…?

たるさん

何で抱え込もうとするんですか

たるさん

……

たるさん

――ボクは、來愛さんのこと
ちゃんと見えました

蒲丞 來愛

(見て、くれた?)

蒲丞 來愛

(でも、そんなの口だけじゃ…)

温かい気持ちと どこか冷めた気持ちが

ごちゃ混ぜになって なんか、気持ち悪い

たるさん

來愛さん?

蒲丞 來愛

…わたし

  ふ

    っ

蒲丞 來愛

……?

唐突に後ろから 身体が何かに包み込まれた

もふもふとした“なにか”は

強すぎず弱すぎず 絶妙な力加減で私を抱き締める

蒲丞 來愛

(なに)

たるさん

あ、わ、

蒲丞 來愛

たるさん…?

たるさん

何してんのパンダ!

蒲丞 來愛

パ…え?

たるさん

うわぁごめんなさい!

たるさん

うちのパンダです…

その言葉に 身を捻って見上げると

蒲丞 來愛

(ほんとだ…パンダだ)

つぶらな黒い瞳に 白と黒の毛並み

動物園とか写真集とか …ぬいぐるみとか

とにかくそういうところでしか 見たことがない動物が

私を後ろから抱き締めていた

蒲丞 來愛

(どういうこと)

たるさん

っあーもう!

たるさん

取り敢えずパンダ!

たるさん

離れてください!

來愛さん困ってるでしょ!? と言いながら

たるさんは パンダの腕を引っ張る

蒲丞 來愛

……気持ち良いから

蒲丞 來愛

このままでも、良い

たるさん

ええ!?

実際、抱き締められてるだけで

あったかいし

心の中に積もった 嫌なこと全てが

溶けていくような そんな心地になる

たるさん

あー、そしたら

たるさん

満足するまで

たるさん

そうしてて大丈夫です

蒲丞 來愛

いいの?

たるさん

はい

蒲丞 來愛

ありがと…

自然と顔が綻ぶ

それを見て

たるさんが私の頭を撫でた

蒲丞 來愛

ん…なに?

たるさん

…笑顔

蒲丞 來愛

笑顔?

たるさん

やっと、笑顔になったなって
思いました

蒲丞 來愛

あ…

言われて初めて 笑っていることを自覚する

自然に、笑えた

たるさん

辛いことがあれば、
吐き出せば良いんです

たるさん

泣きたいなら
泣いてください

たるさん

ボクはいつでも
話聞きます

たるさん

ボクは來愛さんのこと
ちゃんと見ます

蒲丞 來愛

たるさん…

今まで悩んできたことが 馬鹿らしく思える程

じんわりと 身体の芯から温かくなっていく

蒲丞 來愛

(なんでだろ)

蒲丞 來愛

(あんなに、苦しかったのに)

蒲丞 來愛

(もう、大丈夫…みたい)

もふもふの毛並に顔をうずめて 目を閉じる

自分の中で渦巻いていた 嫌なモノ全てが

浄化される、感覚

目を開けた

それから

深く息を吸う

蒲丞 來愛

…私、帰るね

たるさん

…はい

蒲丞 來愛

帰らなきゃいけない、気がした

たるさん

そうですか

たるさん

…どちらに?

蒲丞 來愛

え?

たるさん

来た道を戻るのか

たるさん

それともここの…

たるさん

この世界の出口に向かうのか

蒲丞 來愛

私は……

蒲丞 來愛

もう1回、頑張ってみる

たるさん

そっか

たるさん

戻ってみるんですね

蒲丞 來愛

うん

頷くと ゆっくりパンダが離れていく

蒲丞 來愛

(あ…)

蒲丞 來愛

(あったか、かった…な)

たるさん

行けますか?

蒲丞 來愛

……うん

たるさんが扉を開く

来た時とは違って 中から見えた外は晴れていた

たるさん

この道を ずっと真っ直ぐ
進んでください

蒲丞 來愛

わかった

蒲丞 來愛

ありがと

たるさん

いえ

蒲丞 來愛

……またね

たるさん

返ってくる「またね」は無い

でも たるさんは そっと微笑んでくれた

暗い道を ただひたすら歩く

たるさんの家の灯は すぐに見えなくなってしまった

蒲丞 來愛

(大丈夫、大丈夫…きっと――)

たるさんに、パンダに

充分な程 温かさはもらった

だからきっと、大丈夫

蒲丞 來愛

(…あ、光)

前方に、僅かな光が見えた

息を吸う

地面を蹴った

來愛が帰った家の中

たるさんは安堵の息を吐いた

たるさん

…うん、ちゃんと
 戻ったみたいだね

ポケットから眼鏡を取り出し 慣れた手つきでそれを掛ける

パンダがたるさんを ゆっくりと撫でた

たるさん

ふふ

たるさん

…パンダ、ちょっと
焦ってましたね

首を傾げる

たるさん

無意識ならそれで良いです

たるさん

でも、ボクかなり驚いたんですよ

たるさん

……

たるさん

…信じてないですね

誤魔化すようにそっぽを向く

たるさん

あの子、“魂の寿命”は
まだまだ先なのに

たるさん

幽世に迷い込んでるし

たるさん

自分がどんな状態か、全然…

咎めるように パンダがたるさんの頭を小突いた

たるさん

……失礼しましたー

たるさん

でも…ちゃんと戻ってくれて
良かったです

手に持った本のページを捲り そこをじっと見る

脳裏に『またね』と言った 來愛の表情が浮かんだ

たるさん

(『またね』はちゃんと)

たるさん

(71年後に頼みますよ、
來愛さん)

蒲丞 來愛

ん……?

目を開ける

白い天井が見えた

瞼が重い

身体も重かった

蒲丞 來愛

(…あぁ、そっか)

蒲丞 來愛

(私、助かったんだ…)

4階の教室の窓から 飛び降りたとこまでは憶えている

蒲丞 來愛

(……痛い)

大袈裟とも思える程 包帯を巻かれた腕と足は

ズキンズキンと痛い

蒲丞 來愛

っ…あはは

蒲丞 來愛

私、わたし

蒲丞 來愛

生き、てるんだ…

気付いたら

雫が頬を伝っていた

蒲丞 來愛

(死ななくて、良かった)

蒲丞 來愛

(……え?)

蒲丞 來愛

(私…どうして)

蒲丞 來愛

(死ななくて良かった、なんて…)

誰かに、優しさと 温かさを貰ったような

そんな曖昧な記憶はある

蒲丞 來愛

(……生きなきゃな)

蒲丞 來愛

(辛かったら、
吐き出せばいい)

蒲丞 來愛

(泣きたいなら
泣いていい…だよね)

窓から夜空を見上げる

俯いて過ごしていた日々では 絶対に見付けられなかった、

瞬く星が 一面に広がっていた

歩いて辿り着いたのは

どこかで来たことがあるような そんな場所

蒲丞 來愛

(そう…私、ここで昔)

蒲丞 來愛

(思い、出してきたわ……)

惹き付けられるように

アンティーク調の装飾が 施された扉をノックする

たるさん

はーい

顔を出したのは

たるさん

……來愛さん

“あの頃”と変わらない 本を手に持ったたるさんと

もふもふの毛並のパンダ

蒲丞 來愛

またね、って

蒲丞 來愛

言ったでしょう?

たるさん

…はい

たるさん

頑張ったんですね

蒲丞 來愛

…どうかしら

たるさん

來愛さんは
頑張ったんです

蒲丞 來愛

たるさん…

たるさん

お疲れ様

身長が縮んで たるさんを見上げる私の頭を

たるさんは優しく撫でてくれる

たるさん

家、入りますか?

蒲丞 來愛

……

蒲丞 來愛

…やめておくわ

蒲丞 來愛

私はもう、ここの出口に
向かうべき存在だもの

たるさん

そうですか

たるさん

…そしたら、これを

蒲丞 來愛

これは?

渡されたのは 紅に煌めく糸だった

たるさん

     エニシ
次もまた、縁が…
繋がるように

蒲丞 來愛

…縁

蒲丞 來愛

ありがとう

たるさん

行ってらっしゃい
來愛さん

蒲丞 來愛

……ええ

蒲丞 來愛

――さよなら、たるさん

去っていく その後ろ姿を見送る

パンダが不思議そうな顔をした

たるさん

…あの人にはもう

たるさん

負の感情の浄化は
必要ないでしょ

不満げな表情が浮かぶ

たるさん

…もふりたかった?

たるさん

遊びじゃないんですよ

たるさん

ボクはこれが
“仕事”なんですから

そう言うと 手に持った本が淡く光り

溶けるように消えていった

おそらくは

あの本棚に入ったのだろう

これは

カクリヨ      コンソウシ   幽世で過ごす1人の魂送師と

1匹のパンダの

終わりのない

タマオクリ    “魂送”の物語

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