攻防を続けること、数時間────
日はあっという間に落ちて もう夕方だ
茜色に染める空に いくつか星が輝いて見えた
校庭の真ん中
そこに生徒たち7人が 散り散りに倒れ込んでいた
足…動かねぇ…………
Mr.レッドが 両手を広げて地面に突っ伏し
息も絶え絶えに呟く
もう、動けません……
Mr.ブラックは汗を拭いながら 空を仰いでいた
Mr.ブルーは口を半開きにしたまま 一切喋らなくなって
Mr.赤ちゃんは地べたに 大の字に倒れていて
Mr.銀さんは手で仰ぎながら 「こ…降参です……」と弱音を吐いた
絶対に…………当てる……!
Mr.バナナは悔しそうな顔をして 地面を弱々しく叩いた
Mr.マネーは芝生に寝転び 虚ろな目で、そう呟いた
その中央で、ただ1人……
全く息を乱さず 微笑んで立っているのは
すまない先生だった
君たち、まだまだだね!!
────その姿は
無風の中に立つ 1本の木のように
静かで、堂々としていた
…体力が限界を迎えたんだろう
生徒たちはそのまま 寝息を立て、寝始めてしまった
いい顔をするようになったね
僕はしゃがみ込んで Mr.マネーの額に軽く手を当てた
────酷く熱い
…でもそれは 懸命に駆け抜けた“証”
隣を見れば
Mr.バナナが銃を握ったまま 静かに目を閉じていた
思わず口から零れ落ちた言葉に 自分で、驚く
……こんな風に思える日が、また来るなんて
───僕は一度 全てを失った人間だ
でも、
目の前にいる彼らは 確かに、生きていて────
────僕を、信じてくれている
ぽつり、と呟いた言葉は 風に攫われて消えていった
……誰にも聞かれなくて良かった こういうのは、柄じゃない
でも 心の奥ではずっと、叫び続けてる 『君たちを、守りたい』 これから先に待つ困難も、悲しみも… ────全部 僕が引き受けるから……
────だから、どうか まっすぐに育って欲しい
Mr.銀さんの手には 泥が所々についていた 誰かの転びそうな足を 支えた時についたんだろう
Mr.ブラックは 仮面の奥で目を閉じていたが その表情にはどこか 穏やかな余韻があった
Mr.赤ちゃんは 小さく鼻を鳴らしながら Mr.レッドの隣で寝息を立てている
Mr.ブルーだけが ほんの少し、目を開けて僕を見ていたが その目には、問いがあった
『すまない先生 どうしてそんな、嬉しそうに笑ってるんですか?』 ────と
僕はその問いに 目を細めながら答えた
どんな風に生きていくのかが……
答えは、それで十分だった
風が吹いた 僕の上着の袖をふわりと持ち上げ 空の高みへと誘うように
これから先も きっと、困難や悲劇は訪れる だけど…… 今、この瞬間だけは………… 少しだけ 立ち止まってもいい気がした
そろそろ戻らないとね
もちろん、返事は無い
僕は、ひとりひとり 背に背負って保健室へ運んだ
『この子達の未来が 明るく輝いていますように』 ────と、願いながら
『過去編』を、ほんの少し お見せすることが出来ました
────彼は…… とても、幸せそうでしたね
…………でも これは、「過去」の出来事……
儚い“幸せ”の記憶────────
この後に起きた“悲劇”をお見せするのは
もう少し、先にしましょうか