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主
主
撮影が一段落し、 スタッフが機材を片付け始める。 玲央はタオルで髪を拭きながら、 少し離れた場所に立っていた。 ——そこに、颯が来る。
荻野 颯
思ったより軽い声。
神崎 玲央
荻野 颯
へらっと笑う。 さっきまでの緊張が嘘みたいに。
荻野 颯
神崎 玲央
その理由に、 妙に引っかかる。
荻野 颯
そう言いながらも、 全然気にしていない顔。
神崎 玲央
玲央は短く返す。
神崎 玲央
荻野 颯
即座に明るくなる。
荻野 颯
その“軽さ”が、 逆に胸に残る。
神崎 玲央
颯はもう次の準備に向かっている。 庇ったことを、 特別なことだと思っていない。 それが、 なぜか一番厄介だった。
控室に戻る途中。 廊下で、マネージャーに声をかけられる。
玲央のマネージャー
神崎 玲央
玲央のマネージャー
玲央は歩みを止めない。
神崎 玲央
玲央のマネージャー
マネージャーは、少し間を置いて言う。
玲央のマネージャー
神崎 玲央
思わず、足が止まる
玲央のマネージャー
神崎 玲央
即答。
神崎 玲央
玲央のマネージャー
含みのある声。
玲央のマネージャー
その一言に、胸の奥が小さく鳴る
神崎 玲央
そう言って、 話を切り上げる。 けれど。 (よく、見てる) その言葉だけが、 妙に残った。
その夜。 シャワーを浴びて、 部屋の明かりを落とす。 ベッドに腰を下ろしても、 眠気は来なかった。 ——不意に、 昼間の光景がよみがえる。 水の音。 背中に来た衝撃。 近すぎた距離。
神崎 玲央
自嘲気味に思う。 別に、 ドラマみたいなことじゃない。 ただの事故。 ただの現場判断。 そう、何度も頭の中で整理する。 それなのに。 迷いなく、庇われた感覚だけが、 どうしても消えない。
神崎 玲央
神崎 玲央
思考が、 自分に向かうのが嫌で、 天井を見る。 颯の顔を思い出しそうになって、 無意識に目を閉じる。
神崎 玲央
小さく、呟く。 新人。 年下。 ランキング1位。 どれも、 本来なら気にする必要のない情報。 なのに。
神崎 玲央
その事実に気づいて、 胸の奥が少しだけ、ざわつく。 颯の「大丈夫ですか?」という声が、 やけに真剣だったこと。 あれが演技じゃないことだけは、 なぜか分かってしまった。
神崎 玲央
そう呟いて、 ようやく目を閉じる。 眠る直前。 玲央の頭に浮かんだのは、 役のことでも、台本でもなく—— 自分を庇った、あの一瞬の背中だった。
翌日の撮影現場。 昨日の雨の件が嘘みたいに、 空気はいつも通りに戻っていた。
荻野 颯
一番最初に聞こえた声。 ……嫌でも分かる。
荻野 颯
振り向くと、 颯がいつもの距離感で立っている。 近い。 昨日と変わらない。
神崎 玲央
神崎 玲央
短く返す。 颯はそれで満足したみたいに、 自然に隣に並んだ。
荻野 颯
神崎 玲央
荻野 颯
即答。 その言葉の軽さに、 昨日の“必死さ”との落差を感じる。
神崎 玲央
それなのに。 颯が歩くスピードを、 無意識に玲央に合わせていること。 人が多い場所では、 さりげなく前に出ていること。 ——それ全部を、 玲央は気づいてしまっている。
神崎 玲央
颯は、昨日のことを 一切引きずっていない顔だった。 それが少しだけ、 面白くない。
昼休憩。 セットの端で、 玲央は台本を読み返していた。 ……はずだった。
スタッフ
スタッフの声。 顔を上げるより先に、 視線が動いていた。 ——颯の方へ。 颯はスタッフに囲まれながら、 真剣な顔で話を聞いている。 金髪に、黒のインナー。 耳元のピアスが、照明に反射する。
神崎 玲央
そう思った瞬間。
神崎 玲央
自分の視線に、 はっきり気づいた。 ——追ってる。 意識しなくても、 目が勝手に探している。
神崎 玲央
小さく呟いて、 慌てて台本に視線を戻す。 でも文字が、 頭に入ってこない。 颯が笑った。 それだけで、 一瞬、気が散る。
神崎 玲央
新人。 年下。 共演者。 理由はいくらでもあるはずなのに、 どれもしっくりこない。
神崎 玲央
昨日、自分が思った言葉が、 そのまま返ってくる。 気づいてしまった以上、 もう戻れない。