テラーノベル
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赤くんの"優しさ"は、どこまでも丁寧だった。
朝は私の靴箱をさり気なく整えてくれて、
昼休みは教室の隅で私をそっと見守り、
帰り道は、何も言わずに後ろを歩いて着いてくる。
誰から見ても、それは「優しい人」だった。
でも、私には分かっていた。
その"優しさ"が、どれだけ私を追い詰めているか。
_逃げられないように、 _拒めないように、 _私の「正常」を奪い取るように
彼は、私を「壊さないまま壊す」方法を知っていた。
放課後。
赤くんが差し出したチョコレート。
赤 。
赤 。
そう言って、私の手にそっと触る。
橙 。
私の声は、感情のない鉄のようだった。
でも、笑ってしまった。
だって、これが私の日常になっていたから。
喜ぶべきなんだよね? 誰かが気にかけてくれるって、嬉しいことだよね?
でも……
なんで、胸の奥がずっと冷たいままなの?
赤 。
赤 。
彼の言葉は甘くて、静かで、私の心の奥まで届いてくる。
苦しいのに、悲しいのに。
その言葉を否定する力はもう残っていなかった。
夜。
自分の部屋の天井を見ながら、私はぼんやり考えた。
_いつから、こんなになったんだろう。
愛されたいと思っただけだった。
優しくされたいと、望んだだけだった。
でも気づけば、その優しさに絡め取られて、
私は、自分の輪郭さえ思い出せなくなっていた。
優しさが、私を殺していく。
ゆっくりと、静かに、誰にも気づかれないように。
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