テラーノベル
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目を覚ました瞬間、涙がこぼれていた。
夢の中で、誰かに「助けて」と叫んでいた気がする。
でも、その"誰か"が誰だったのかは思い出せなかった。
ベッドの上で起き上がり、冷たい空気の中に座り込む。
心の中にあるのは、ただ一つ。
_消えてしまえたなら。
それが、最近の私の口癖だった。
口には出さないけど、心の奥では何度も何度も繰り返していた。
「消えたい」んじゃない。 「ここから、いなくなりたい」だけ。
"赤くんがいない世界"で、"何者でもない私"に戻りたい。
だけどそれは、もう叶わない夢だった。
その日も、彼は私の後ろを歩いていた。
一定の距離。一定の沈黙。
まるで私の影のように。
赤 。
橙 。
赤 。
赤 。
橙 。
なにも言えない。
だって私が壊れてるってバレたら、もっと深く閉じ込められてしまう気がして。
でも、もうすでに壊れてる。
心も、思考も、感情も。
昨日見た夢すら、現実と区別がつかない。
赤 。
その言葉に、私は微笑んでしまった。
もう、どうでもよかった。
誰が正しくて、何が間違いで、
自分が何を望んでいたかさえ、もう分からない。
橙 。
赤 。
橙 。
ぽつりと落ちたその言葉は、彼の表情をほんの一瞬だけ曇らせた。
でもすぐに、またいつものように微笑んだ。
赤 。
赤 。
それが、彼なりの"愛の言葉"だった。
私はもう、その言葉を拒めない。
どんなにおかしくても、どんなに狂っていても。
私はもう、彼の世界でしか生きられなくなっていた。
だから、今日も笑う。
誰にも気づかれないように、上手に、綺麗に。
橙 。
消えてしまうより、壊れている方がまだマシだと思ってしまったから。
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