昔々あるところに旅人の青年がいました。青年が旅をしていると、大きな一本の木がそびえ立つ村を発見しました
青年がその村で休憩をしていると村長がやって来て言いました
村長
君は旅人かい?
ようこそ私たちの村へ!

青年
ここはいい村だね

青年
それにこの村のそばに生えているあの大きな木

青年
なんて立派なんだろう!

村長
あぁ
あの木は「伝説の木」と言われているものじゃ

青年
「伝説の木」?

村長
あの木のてっぺんには極上の美味しさだと言われる

村長
木の実が生っているんだ

村長
しかしあまりにも木が大きすぎるから

村長
誰も上まで辿り着けていないんじゃがな

青年
へー
だったら皆であの木を切り倒してしまえばいいんじゃない?

村長
はっはっはっ!

村長
あんな大きな木
切り倒せるわけないだろう?

村長
誰にも出来っこない

それから青年はその村に住み着き、その木を斧で切っていきました
毎日毎日、雨の日も風の日も一日も休まずに木を切っていきました
村人たちはそんな彼を優しく見守りながら日が経っていきました…
そして一年後、なんとその青年は一人でその大きな木を切り倒してしまったのです!
村長
なんと…!

村長
一人であの大きな木を切り倒してしまうとは

村長
すごいじゃないか!

村の子供
お兄ちゃん!
僕にも木の実を分けてくれる?

村の子供
お兄ちゃん!
私も欲しい!

こうして青年と村の人たちはおなかいっぱい美味しい木の実を食べましたとさ
この話は童話「木こりの話」の元になった実際のお話である…
青年
はぁ…はぁ…っ!

青年
エリザ
もうすぐあの村に
着くからな!

青年
もう少しの辛抱だ
歩けるか?

青年
夜分遅くにすみません

青年
この村の医者はどこですか?

青年
妻が…妻が病気で!

村医者
どうしたんだね
こんな雨の中?

青年
妻が病気で苦しんでいるんです

青年
しかし町の医者からは普通の薬では治せない

青年
この村で採れる木の実を使った薬でないと治せないと言われて

村医者
ちょっと見せなさい

村医者
…これは熱木菌だね

村医者
確かに今の医療じゃ

村医者
うちの村にある
あの大きな木に生る木の実でないと

村医者
治すことはできないね

青年
どうか
…譲ってくれませんか?

青年
町の医者に話なら聞いています

青年
お高いんでしょう?
お金ならここにあります!

村医者
いや無理だ

村医者
もうあの木の実が落ちてくることは滅多になくなった

村医者
もう一年以上あの木の実が落ちてきたことはない

青年
どうして…?

村医者
あの木に住み着いていた鳥が

村医者
ハンターたちに狩り尽くされてしまったんだよ

村医者
あの実は高く売れる

村医者
だから鳥のお腹をかっさばいて

村医者
消化されていない木の実を取り出して売っていたんだ

村医者
今まであの木の実は鳥たちがついばんで

村医者
うっかり落としたものを
私たちが拾っていたんだが

村医者
もうそんなことはなくなったということだ

村医者
君の奥さんの病気を治すことはできない

村医者
もって後一年といったところだろう…

青年
そんな…そんな…っ!

それから青年はその村に住み着き、木を斧で切り始めました
村長
なんて馬鹿なことを…

村長
あの木を斧で切り倒すだと?無茶だ!

村長
百メートル以上の太さがある木だぞ?

村長
一生かかっても切り倒せるはずがない

村医者
はっはっはっ
まったくだ!

毎日毎日、雨の日も風の日も一日も休まずに木を切っていきました
そんな彼を村人たちは馬鹿だ無謀だと嘲笑っていました
村長の奥さん

村長の奥さん
ねぇあなた!

村長
なんなんだ?
こんな朝早くに…?

村長の奥さん
木が…木が…

村長
なんと…!

村にあった大きな木はその幹を根本から切られ、倒れていました
村長
…おい!君!
君が倒したのか?!

青年
…はい

村長
すごい!
これであの木の実が沢山手に入るじゃないか!

村長
本当にこれだけのことを一人でやってしまうとは…

村長
君、体のほうは大丈夫なのか?

村長
凄くやつれているじゃないか

村長
安心しなさい
木の実は私たちが集めておいてあげるから

村長
君はゆっくり横になりなさい

青年
しかし妻が…!

村長
大丈夫だ!

村長
これだけの木の実があればあの薬はいくつもできる

村長
安心しなさい

青年
…それでは横になってきます

青年
…!

青年
薬、薬を作ってもらわないと

青年
…エリザ
病気のほうは大丈夫か?
今治してやるぞ

青年
もうお前の命は助かるんだ!

青年
あの木の実があれば…助かるんだ

青年
あの…
薬を貰いに来ました

青年
木の実があれば妻を助ける薬が作れるんですよね?

村医者
ん?どうした?
何を言っているんだ?

青年
何って
木の実が手に入ったんですよね?

青年
だったら薬を…!

村医者
確かに木の実は手に入った

村医者
私たち村の者があの木を切り倒してね

青年
は?
何を言っているんだ

青年
あの木は俺が一年かけて切り倒したんだ!

村医者
馬鹿なことを言うんじゃない

村医者
あんな大きな木を一人で切り倒せるわけがないだろう?

村医者
見たところ体調が優れていないようだし

村医者
何か長い夢でも見たんじゃないか?

青年
そんなわけ…

青年
いや何だっていい!

青年
木の実は手に入ったんだろう?

青年
だったら薬を…
妻の命を助けてくれないか?!

村医者
金はあるのか?

青年
それは…
この村で家を借りるのと

青年
生活費でもう残りはほとんど…

村医者
だったらやれんな

村医者
医者だって生活をしているんだ
タダじゃない

村医者
金がないなら薬はやれん

青年
頼む!
妻を助けてくれ!

村医者
うるさい
出ていけ!

青年

青年
くそぉぉぉおおお!!

青年が自宅に着くと、そこにはぐったりと横になって倒れている妻の姿がありました
青年
…呪ってやる!

青年
あの木は確かに俺が切り倒したんだ!

青年
なのに村の連中はそれを根こそぎ奪っていった!

青年
この村の連中…全員呪い殺してやる!!

村長
しかしあの男
本当にあの木を切り倒してしまうとはな

村長
まったく妻を思う夫の執念とはすごいものだな

村長の奥さん
おかげであの木の実が沢山手に入ったんだし

村長の奥さん
この村は随分潤うわね

村長
本当に…
馬鹿な男だよ

村長
元々あの木はこの村にあるものだ

村長
余所者にそうやすやすと渡すわけがないだろう

村長
木の実は全部村の者が拾っておいた

村長
全て村の…
私たちのものだ!

村長の奥さん

村長の奥さん
ウゥッ…!

村長
どうした?!

村長
おいお前
急に倒れ込んでどうし…

村長

村長
アゥッ…!

その日、二人を除いた村の者全員が、急に胸を押さえつけ苦しみながら死んでいきました
残りの二人の内、一人は熱木菌という病気に侵され、死に…
もう一人は胸に何度もナイフで突き刺したような跡があり、自らナイフを握って死んでいました