思い出の夏の日Ⅴ

なんていうか、俺と裕香は昔から一緒にいるのが当たり前だった

親同士がもともと幼馴染だったこともあり、俺たちはもはや兄弟のようなものであった

俺と裕香は仲が良かった

しかし、いつからだろうか

俺と裕香の間には分厚い壁がいつのにか作られていた

人間の格差と言えばいいのだろうか

俺は、ただただ裕香の周りが華やかになっていくのを見つめているほかなかった

そして

痛いくらいに現実は、足早に駆け抜けた

高校1年生の夏

そのすぐ後からだっただろうか

裕香が、1人でいるようになったのは

けれど、俺はそれを救うことなんてできなかった

裕香と、つまらない喧嘩をしてしまったあの日

その日から、俺は一度も裕香と会っていなかった

そんな、つまらないプライドなんてすぐに捨ててしまえば良かったものを

俺は、いつまでも握りしめていた

そんな、ある日

ふと、視界の端にある、白い封筒の存在に気がついた

靴を履き替え、その封筒を拾い上げる

裏返すと、そこには裕香の名前が書いてあった

その下には、“お母さんへ”と

急いで封筒を開ける

そこには...

お母さん。私、もう我慢の限界になっちゃった。本当に、ごめんなさい。私ね、学校でいじめられてたんだ。けど、誰も助けてくれなかった。もし、1人だけいたとするなら。それは、昔、ずっと一緒にいた幼馴染かもしれない。大好きです。お母さん。お父さん。それと、私のそばにいてくれた人。

私の分まで、長生きしてください。

声が、出てこなかった

信じられなかった

走り出す足を、波打つ血液を

もう、止めることなんてできない

気がついた時

目の前には、赤い赤い自動車が迫っていた

時が、止まったようだった

強い衝撃とともに

俺の世界は真っ黒に染まった

つづく