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嘘つきの存在証明 粗忽長屋編

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嘘つきの存在証明 粗忽長屋編

1 - 嘘つきの存在証明 粗忽長屋編

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2018年04月30日

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有馬和真

唐突だがオバケという存在を信じるか?

刀夜一平

なんだ唐突に?
オバケってあの化けて出てくる怨めしそうにこの世をさまようあのオバケか?

有馬和真

そうだ

刀夜一平

だったら俺は信じていない
そんな非科学的なものの存在を認めるなんて俺の性に合わないよ

刀夜一平

死んだらそこまで
何も残ってはいけないよ

有馬和真

そうか

有馬和真

そうだよな
死んだはずの人間がこの世に生きる者に存在を認知されるなんてこと普通は無いよな

有馬和真

でもさ俺の感覚が正しいならやっぱりオバケは存在するんだよ

刀夜一平

何が言いたいんだ?

有馬和真

俺はオバケなんじゃないだろうか?

一分後

刀夜一平

何を言っているんだ?

有馬和真

実は俺、殺された記憶があるんだよ

有馬和真

深夜森の中で胸を包丁でぐっさりと刺されて
胸からはじんわりとだけど止まらない勢いで血が流れ出していたんだ

有馬和真

俺は死の絶望から解放されたかのようにゆっくりと意識が無くなっていったんだ

有馬和真

それで気が付くとベッドに横たわっていた
体を探っても傷一つ無い

有馬和真

部屋を出るとそこには妻がいて俺の姿を見るなり「おはよう」と言ってきた

有馬和真

不思議な感覚だった
今でも目にこびりついているあの光景が嘘だったかのように
俺はこの世に存在していたんだ

有馬和真

初めは戸惑ったよ
俺は今生きているのか死んでいるのか

有馬和真

もしかしたら長年連れ添った妻だからこそ俺の姿がはっきりと見えるのかもしれないと思って会社に出掛けてみたんだ

有馬和真

何と言うこともなかった
周りは特に俺の事など気にも止めずいつも通り仕事をしていた

有馬和真

俺もそのまま仕事を始めたんだが思わず笑っちゃったよ
俺は死んだ後でさえ仕事をしている仕事しかない男なんだなって

有馬和真

そうして家に戻って頭を一旦整理しようとお前に連絡したわけだ

刀夜一平

そうかそれは興味深い話だな
最近のオバケの世界も資本主義経済に侵されているということか

有馬和真

まあ全く検討違いの言葉ではあるけれどそんなところだ

有馬和真

どうして俺は死んだはずなのにこの世に生きている者に認識されるのか

有馬和真

オバケというものはなんと不憫なものなんだ
有馬和真は死んだとはっきりと認識できるはずなのに周りがそれをやんわりと否定するんだ

有馬和真

俺はいったい何者なんだ?

刀夜一平

そうか
案外お前も大変そうだな

刀夜一平

しかし意外とお前の悩みは簡単に解決できるものかもしれないぞ

有馬和真

どういうことだ?

刀夜一平

つまりお前が殺されたという記憶が間違っているということさ

刀夜一平

ひどく真実味のある夢でも見たんだろう
お前は実際は殺されていない
だからこの世にも実在できるし脳裏に焼き付く光景も嘘じゃない

刀夜一平

やはりオバケなんてものは存在しないんだ

有馬和真

そうだな確かにそれを真っ先に疑った
だからこそお前に連絡しているんだからな

刀夜一平

どういうことだ?

有馬和真

脳裏に焼き付く殺された時の光景
殺されたのは有馬和真
そして殺したのが刀夜一平お前だからな

二分後

有馬和真

俺の記憶に残るのは有馬和真が刀夜一平に胸を包丁で一突きにされるというものだ

有馬和真

だからお前に聞きたい
お前は俺を殺したのか?

刀夜一平

それはない
お前の言うことが正しいとしても俺はお前を殺してなんかいない

有馬和真

そうか

刀夜一平

お前の記憶違いということにはならないか?

有馬和真

残念だけれどそれは無理かな
殺された時のあの光景
包丁が胸を抉るあの感覚
耳をつんざくようなあの悲鳴
どうにも偽物とは思えないんだ

刀夜一平

とはいっても俺はお前を殺してなんかいないんだけどな

有馬和真

そうか困ったな

刀夜一平

どうしてもお前の存在をきちんと証明したいのか?

有馬和真

そうだな
じゃないと不安で死にそうになる

刀夜一平

オバケがか?

有馬和真

そうだ
最近のオバケはストレスで死にもするんだ

刀夜一平

そうか
お前の話を聞いていると死んだ後の世界の方が大変そうだな

有馬和真

だから助けてくれ
一生のお願いだ

刀夜一平

オバケから言われるとこれほど現実感の伴う言葉は無いな
わかった手伝うよ

刀夜一平

とはいえなんとも面倒臭い話だな

刀夜一平が有馬和真の胸を包丁で刺したということを肯定しつつ
目が覚めたときお前の体には傷は何一つ残っていなくて
しかも有馬和真が周りの人間から認知され特に驚きもされないということを説明しなければいけないのか

有馬和真

そういうことになるな

刀夜一平

しかも俺からすれば当然お前を殺してなどいない

刀夜一平

お前のことだからお前の見たものは夢でした幻覚でしたでは許さないんだろう?

有馬和真

そうだな
あれは絶対に本物だ
それは否定はさせない

刀夜一平

そういうところ昔から頑固だよな
小学生の頃から意地っ張りで負けず嫌いで弱さを隠して強がって
でも人一倍努力家でさ

刀夜一平

いつも二人で一緒にいたよな
顔も体つきも似てるからよく兄弟に間違えられて
どっちが兄貴かって争ったよな

有馬和真

そうだな
あの時は何も考えずただ遊んでるだけで本当に楽しかったよな

有馬和真

ごめんなこんな面倒なことに巻き込んで
でもお前にしか頼めないんだ

刀夜一平

今更だな
わかってるよ
というかこんな面倒な条件にしてるのはお前のせいだろ?
面倒だって自覚があるのならもうちょっと簡単にしてくれ

有馬和真

悪いな

刀夜一平

さてちょっと考えてみようか

3分後

刀夜一平

こういう話はどうだろうか?

刀夜一平

お前は確かに包丁で刺された
しかしその包丁はトリックナイフだったんだよ

有馬和真

トリックナイフって何だ?

刀夜一平

刃の部分が引っ込んで突き刺したように見えるジョークグッズだよ
深夜の森の中にお前を呼んだ俺は驚かせるためにそのトリックナイフでお前の胸を刺した

刀夜一平

あまりの出来事にショックから気絶したお前を俺は介抱し家に送り届けた

刀夜一平

これならお前の見た光景は嘘じゃないし
俺はお前を殺してもいない
体に傷一つ付いていないし当然周りも特に反応は無しって訳だ

有馬和真

確かに筋は通っているな
でも俺の感じた感覚はそんなオモチャで作られたものじゃないんだ

有馬和真

もっと生々しい本当に人が殺されていなければ出せないものだ
だからお前のその話はどうにも腑に落ちない

有馬和真

事実から話を作り出し
その中から最も腑に落ちるものそれが真実だと思うんだ

刀夜一平

そうか
お前が納得できるものが真実だということだな

刀夜一平

それならこれはどうだ?

刀夜一平

人が殺されたというお前の感覚は正しい
けれどお前の記憶している光景は少しズレがあったんだ

刀夜一平

お前は夜中とある二人が森の中に入って行くのを見かけた
気になったお前は後をつけ二人の様子を見ていた
そして殺人が起こったんだ

刀夜一平

あまりの事に気が動転したお前は意識が朦朧としたまま家に戻った
そして次に目が覚めた時にはすっかりと記憶が無くなっていた

刀夜一平

唯一思い出せるのは人殺しが行われたあの光景
しかも朦朧とした記憶は殺した側を刀夜一平に
殺された側を有馬和真と混同したんだ

有馬和真

あまりに都合がよすぎる話じゃないか?

刀夜一平

森羅万象そういったものだろう?

刀夜一平

都合がよすぎるからといって宝くじが誰にも当たらないなんてことは起こり得ないし
生物の住む惑星が誕生する確率がものすごく低くても地球という存在が嘘になる訳じゃない

刀夜一平

どんな物事も数奇な運命の積み重ねの上にできているということさ

有馬和真

そう言われればそれまでだか
とはいえ殺人現場の二人の姿を自分とお前にすり替えてしまった理由がもう少しあれば納得できたんだがな

刀夜一平

そうか
ではこれも真実ではないということか
じゃあ他に話を考えなくてはな

有馬和真

そういえばお前さ
俺を殺していないって言ってるよな

有馬和真

ってことは他の奴は殺したことがあるってことか?

刀夜一平

どういうことだ?

有馬和真

つまり俺が目撃したのはお前の人殺しの現場だったってことだ

有馬和真

深夜森の中にお前と俺たちに関係が深い奴
例えば中学の同級生だった森川が入って行くのを俺は見かけたんだ

刀夜一平

どうして森川なんだ?

有馬和真

親交のある奴ならこの際誰だっていい
とにかく二人の後をつけた俺はお前が森川を殺すところを見てしまった

有馬和真

そして朦朧としたまま家に戻った俺は近しい存在の森川の姿と自分を重ねてしまい記憶違いが起こったんだ

有馬和真

どうだろう?
何かおかしな所はあるか?

刀夜一平

その話が本当なら俺は目撃者のお前をこのまま放っては置かないってことになるな

有馬和真

本当なのか?
これが真実なのか?

刀夜一平

さっきも言ったけれどお前が納得するならそれが真実だということだ

有馬和真

なら俺は納得できない
お前が俺はおろか他の奴を殺せるわけがない

有馬和真

腑に落ちない
だからこの話は真実じゃないんだ

刀夜一平

そうか

有馬和真

そうだ
だから他の話を考え出そう
ちゃんと腑に落ちる真実を見つけよう

刀夜一平

わかった
とはいってもやっぱり自分はオバケだって言うのはなしだぞ

有馬和真

しかしなそれが一番腑に落ちるんだ

刀夜一平

そんな存在はいない
いちゃいけないんだ

有馬和真

そうか
といっても何だかそろそろ疲れてきたしこの話はまた今度にしよう
もう寝るわお休み

刀夜一平

お休み

有馬和真

またな

刀夜一平

じゃあな

4分後

よかったんですか?

刀夜一平

君は誰だ?

あなたと同じだけど違うものです

刀夜一平

そうか
そういうことか

刀夜一平

で何の用だ?

どうしてあの人に真実を教えないのですか?

刀夜一平

教えたってしょうがないよ
言っていただろう?納得できなければ真実とは認められないんだ

ならあなたはそれで納得できるんですか?
有馬和真さん?

刀夜一平

そうだな
あいつは一番大きなところで認識が混濁している
本当は俺が有馬和真であいつが刀夜一平であるのに

あの人の言う有馬和真が刀夜一平に胸を刺された光景と
あなたが殺していないということは実は全く矛盾していない

有馬和真さんあなたは刀夜一平さんに実際に殺された
その後が問題だった

あなたを殺した刀夜さんは意識が朦朧としたままあなたの家の鍵を盗み家に入った

そしてはっきりと目が覚めた時にあなたの家に居たため自分を有馬和真だと思い違いをしてしまった

その上あなたの妻は刀夜さんを見て有馬和真だと認識してしまった

刀夜一平

俺たち二人は昔から兄弟に見間違えられるほどそっくりだからなわからなかったんだろう

刀夜一平

とはいえ輪郭・髪型他にも微妙に異なっている部分はある
しかし俺が絶望したのは俺の事などたいして気にもかけていない妻や仕事場の同僚達だ

刀夜一平

こんなにも人は他人に無関心なものなんだな
顔やステータスで妻を選んだ俺に責任があるということか
いやしかし俺だって他人の機微に気付けていたかというと何とも言えないがな

刀夜さんは最近友人の方に裏切られて会社が倒産したみたいですね

そんな自分と自分にそっくりだが平穏に暮らしている有馬さんを比べて嫉妬していたみたいです

もし自分が有馬和真だったらどんなに幸せだろうとね

刀夜一平

そうか
だからあいつは俺を殺してそのポジションを奪おうとしたんだな

そんなことをしても結局いつかはバレるのですけどね
彼は有馬和真ではなく刀夜一平なのですから

刀夜一平

それもそうだがもう俺には関係の無い話だな
これは生きている人間が関わるべきで死んだ俺は何もできないからな

どうしてあなたは刀夜一平に怨みをはらそうとしないのですか?
あなたはオバケです
種類でいうと怨霊です

それなのになぜその怨みを捨てて成仏することができるのですか?

刀夜一平

君は俺と同じだと言ったよね?
ということは君も怨霊なのかい?

わかりません
私が殺された理由もここに残っている理由も全くわからないんです

だから成仏しようとする霊に直接会ったり
こうやって通信の電波に介入してお聞きしているのです

なぜあなたはこの世を去ることができるのですか?

刀夜一平

簡単さ
俺はオバケの存在を全く信じていないんだ

刀夜一平

だから俺は今の俺の存在も全く信じていない
俺は生きた生物の住むこの世にとって偽物であるし
そんな偽物の感じた怨みや哀しみなんかも全くの嘘なんだ

刀夜一平

だから俺はこの世から素直に消えることができる
そんなところだ

そうですか
私にはあまり真似できそうにありませんね

刀夜一平

そうか参考にならなくてすまない
君はこの世に存在する理由を探し続けるんだね

そのようですね
本当にどうしてこんなにもオバケの世界は厄介なのでしょうか?

刀夜一平

そうだな今日のことでよくわかったよ
死んだ後の世界の方が大変なんだってね

刀夜一平

では一足先に成仏するとするよ
君が自分の存在を思い出せることを祈っているよ

ありがとうございます

では安らかにお眠りください

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