零桜

あれ？誰か歌ってる？

凄く、きれいな歌声。

聴いてて心地いい……素敵な歌。

でも、この……こえ……

いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。

視線を上げると、 そこには窓を見つめているこさめがいた。

俺の視線に気づいたこさめが明るく言う。

優しい笑みを向けられて、少し安堵の息を吐く。 こさめは無事だった様だ。

でも何処か、彼は疲れているようにも見える。

あと、なんか。何だろう。この感じ。

凄く、こさめが不安定に見える。

何処かに消えてしまいそうな ……そんな感じ。

そういう彼は、とても不安そうな顔をしていて、 今にも泣きそうな子供のように見えて。

無理矢理笑って、とても苦しそうで。

「俺」を見ているみたいだった。

こさめはこくんと静かに頷くと、 悲しそうにぽつりと言った。

どうしてそんなにバレバレの嘘をつくのだろう。

とても苦しそうで、今にも泣きそうなのに。

でも、俺には何もできない。

事情も分からないし、そもそも、 人と深く関わったことがない。

俺にとってのこさめとの日々を、 こさめは覚えていないというのに。

そんな人間を、こさめが頼れるわけもないじゃんか。

……今、俺はどんな顔をしているのだろう。

……悔しい。過去のであれど、自分の親友に 頼ってすら貰えない。

俺は、自分が思っているより、 あの思い出が、今の関係が、こんなに大切だったのか。

そう言った俺の顔は、 酷く醜い、下手な笑みだった事だろう。

それでも、俺にとってはこれが限界だったんだ。

今は、こさめを此処に留めておかないと。 いつか、いなくなってしまう気さえしたから。