春は恋の季節
私はそう呼んでいた
それは春になると部内であらゆる カップルが生まれるから
私もこの電車の終点に早くつきたかった
「じゃあ今日は、パート練で」
「それぞれパートごといつもの場所で」
部長からの指示が入り、 パート場所へ向かう
「みんなでここ合わせよっか」
先輩がそう言う
一通り曲を吹き終わり、 先輩からのアドバイスを貰う
その時、他より何十倍も 褒められる生徒がいた
私は彼の楽器のうまさに憧れ、 気づけば憧れは恋へと変わってた
「春のコンクール近いから頑張ろうね」
「取り敢えず個人練に変えよっか」
先輩からの指示でみんな動き出す
椅子の引く音が他パートへ邪魔をする
コンクール一週間前になり、 私は屋上で自主練を始めた
もしかしたら、彼が来るかもしれない
そんな淡い期待は ふっと浮かんでふっと消えていくのだ
どうしても上手くいかない 小節を何度も繰り返し練習する
トランペットの高く綺麗な音が 学校を包み込んだような気がした
コンクールが終わったら 彼に告白をしよう
そんな思いもあって、どこか不安が募る
でも私も、終点に行きたいから
体育館のステージの上には 「春のコンクール」という看板
体育館に広がる楽器たち
そして、部員の保護者から この学校の生徒や一般の方が並ぶ観客席
一息ついてトランペットを構える
指揮者の動きを見ながら演奏をする
苦手だった小節も難なくクリアし、 1曲目が全部終わった時
彼の方を見ると目が合った
口パクで「ナイス」と言われた
何曲か吹き、コンクールが終わった
辺りを見渡すと 桜の花びらが体育館中に落ちていた
恋の季節だ、そう思った
そう思って、終わった
終わった
完全に終わった
私は「恋の季節」という駅を 多分気づかないうちに寝過ごしていた
結局私は告白なんてできる訳もなく
ただ彼を眺めることしか出来なかった
後から聞いたら彼は 同じパートの後輩と付き合ったらしい
彼はちゃんと終点に辿り着けたらしい
でも後悔はしていない
彼と同じ部活で同じパートで コンクールをした
その事実は私の思い出の電車の 駅として刻まれる
恋の電車の終点に辿り着けなかったけど
それもまた思い出の一駅
失恋なんて、何年ぶりだろう
泣くほどの失恋は初めてなんじゃないかと思うくらい久しぶりだった
「今日は個人練だよ〜」
部長になった彼の声が響き渡る
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