テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
――すべては、あの日のキスが始まりだった。
あれ以来、誰も見ていないところで、春とキスをする回数が増えた。
家の外や、学校内ですることはなくて、決まって互いの部屋のみに限定していた。
……ふと、春と目が合った瞬間。
会話が途切れた時にできる、僅かな間。
なんとなく、何気なく隠れてキスを交わす。
桐谷のおじさんとおばさんは家に居ない。
郁兄は夜になれば帰ってくるけど、残業や飲み会で帰りが深夜になる事もあるし、休日に会社へ行くことも多い。
人の不在が多いこの家の中は、都合がよかった。
――私達は何をやっているんだろう。
このキスに、何か意味があるんだろうか。
そんな考えが何度も脳裏にちらついたけど、春と秘密を共有しているようなドキドキ感が心地よくて。
その禁断の行為に、まんまとハマっていた。
失恋の痛みは一日、二日で癒せるようなものじゃない。
部活動が始まれば、体育館を二面に分けたその先に先輩の姿があって、視界に入る度に、ぎゅっと胸が締め付けられた。
けれどもう、泣きたくなるような衝動はない。
だって家に帰れば、春が待っていてくれるから。
思う存分、私を甘やかしてくれるから。 甘いキスをくれるから。
あの日からずっと、春の存在を身近に感じるようになった。意識するようになった。
それでも、恋愛的な感情が湧いたことはなかったけれど。
そんな日々が数ヶ月続いた。
・ ・ ・
もか
――自分の声が緊張で震えた。
いつもと違う春の様子に、私は戸惑いを隠せなくて。
・ ・ ・
その日は1日中、雪がちらついていて。
時間はまだ夕方で、郁兄も仕事から帰ってきてなくて。
暖房の効いた春の部屋で、私達は隣同士に並んでキスを繰り返していた。
いつもなら、それで終わる行為。
でも、今日は違った。
春樹
唇が離れた後も、春の熱は冷めなかった。
吐息がふっと首筋に触れ、背筋がぞくりと震えてしまう。
春の手に引き寄せられ、ぎゅっと強く抱きしめられて思考が停止した。
もか
戸惑いが胸を満たす。
不安になって顔を上げようとした瞬間、ふわりと身体が傾いた。
世界が反転するような浮遊感に襲われ、反射的に目を閉じる。
直後、背中に感じた硬い床の感触に、自分の身体が無理やり押し倒されたことを理解した。
もか
息を呑む音が喉の奥で鳴る。
視界いっぱいに広がるのは天井ではなく、覆い被さる春の姿。
切れ長の瞳が切なげに揺れて、その熱を帯びた視線を受け止めた瞬間、私は悟った。
春が今、何を考えているのか。 何をしようとしているのか。
それが瞬時にわかってしまい、全身の血が逆流するような衝撃に襲われた。
――キスは、まだいい。
いや、良くはないけど。 ないけど、まだ私の中では受け入れられる範疇だった。
でもこれは、この先はもう、全然違う。
キスの時みたいに、ノリとか好奇心でしていい話じゃない気がする。
もか
パニックで声が裏返る。
焦燥感に駆られて声を張り上げるけど、春は黙ったままで何も答えてくれない。
微動だにしない春に恐怖を感じたのは、この時が初めてで。
重い沈黙が怖くて、必死になって言葉を探す。
もか
もか
春樹
もか
春樹
もか
だってこれは、コイビト同士がする行為だ。
私達は家族であって恋人じゃない。
だから、こんな事をするのはおかしい。
……キスしてる時点で既におかしいけれど、これ以上先へ進むのはさすがに抵抗がある。
それに素肌を男の子に晒すのも恥ずかしい。
もか
もか
頭に浮かんだ疑問を言葉にしようとしたけれど、それは最後まで音にならなかった。
春の手が服の隙間から、ゆっくりと滑り込んできたからだ。
もか
反射的に身体が強張る。
やめて、と叫びたいのに声が出ない。
指の腹がゆっくりとお腹を撫でて、その感触にぞわりと肌が粟立つ。
心臓が破裂しそうなほど、激しく脈打ち始めた。
もか
春樹
もか
いやいやをするように首を振る。
溢れた涙で視界が歪んだ。
ぎゅっと目を瞑った時、目尻に浮かんだ涙を春の指先がそっと拭う。
恐る恐る目を開ければ、困ったような顔で微笑んでいる春がいた。
いつもの穏やかな表情にほっとしてしまって、渦巻いていた恐怖心が消えていく。
さっきまでの強烈な拒否感が、不思議と和らいでいく。
もか
春樹
もか
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
断言すれば、春は控えめに笑った。
その表情も、声音も口調も、私が知ってるいつもの春だ。
押し倒されている状況は変わってないけれど、それでも、春が元に戻ってくれたように感じて安心してしまった。
春樹
もか
春樹
もか
その言葉に、はっとさせられた。
言われて初めて気付いた。
自分が怖がっていたのは、行為そのものじゃない。
春が、知らない男の子みたいに見えたことが怖かっただけ。
この先の行為に恐怖を感じたのも本当だけど、春が優しくしてくれるなら、受け入れられそうな気がした。
――春が望んでいるなら受け入れたい。
他の男の子は嫌。 春がいい。
もか
もか
思えば、初めてのキスも全然嫌じゃなかった。
初めて失恋をして、悲しくて。 でも春がずっと一緒にいてくれたことが嬉しくて、心強くて。
また明日から頑張ろうって、そう思った矢先にキスされた。
あまりにも突然のことで驚いたけど、なぜか心は舞い上がった。
あの時、私はきっと春のことを「家族」じゃなくて、初めて「男の子」として見たんだ。
その後も、何度も春とキスをした。
嫌だなんて一度も思わなかった。
何やってるんだろうと頭の片隅で思いながらも、やめてほしくなくて、この不誠実な行為を続けた。
もか
私が春の事を大事な家族だと思っているように、春にとっても私は家族のはず。
抵抗感とか、ないのかな。 嫌じゃないのかな。
ふと感じた疑問を投げかけてみれば、春はすぐに否定した。
春樹
もか
春樹
春樹
もか
春樹
いつもの調子を取り戻した会話に笑みが零れる。
先程までの張り詰めた空気感が、一気に霧散していくのがわかった。
緊張が解けてきて、全身から力が抜けていく。
顔を近づけてきた春に応えるように瞼を伏せれば、そっと優しいキスが降ってきた。
唇が触れた場所から、じんわりと熱が広がる。
まるで、この後の展開を予感させるような、甘くて優しい触れ合いだった。
もか
春樹
もか
春樹
春樹
もか
もか
春樹
もか
春樹
さっきと同じ質問を、もう一度繰り返される。
春のまっすぐな瞳が、私の心を探るように見つめてきた。
さっきのような、逃げ出したくなるような拒絶感はない。
目を逸らすことなく、春の視線を受け止める。
もか
声に出したその言葉は、自分でも信じられないくらい素直に響いた。
もか
もか
――私の初めては、春にあげたい。
・ ・ ・
――頭が酷くぼんやりする。
身体中が熱くて溶けそうだった。
春の吐息が耳に触れる度にぞくっとして、頭も身体も蕩けるくらいに、甘く、痺れている。
熱に浮かされるって、こんな状態を言うのかな。
もか
未知の領域に踏み込んだ先は、思いのほか気持ちよくて。
まるで夢を見ているような心地だった。
……これが、キスの先にある世界。
春樹
少し乱れた息遣いのまま春が囁く。
優しい瞳が不安そうに揺れていて、心配させたくなくて、私は小さく頷いた。
春樹
――耳を疑った。
何の前触れもなく、さらりと告げられた一言に目を見開く。
春の告白を受けて、私の鼓動は甘やかに胸を打ち始めた。
もか
家族同然の存在である自分に対して、「好き」と告げる春の真意がわからなかった。
「好き」って、どういう種類の「好き」なんだろう。
この場を盛り上げる為の、一時的な言葉なのかな?
もか
そんな考えが頭をよぎる。
同じ言葉を返せば、春はもっと喜んでくれるだろうか。
……困惑と躊躇が混じり合った頭の中。
けれど、それらは全部、下腹部に襲った痛みで思考を遮断された。
もか
――理性と本能の狭間で悟る。
このまま春を受け入れたら、普通の家族ではいられなくなってしまう事を。
春を、家族として見れなくなる。 もう、戻れなくなる。
そんな確信めいた予感が、一瞬この行為を、受け入れようとした覚悟を忘れさせたけれど。
春樹
もか
春樹
その一言ですべて、霧散した。
リリア💙🤍
94
食パン
48
8
#復讐
すっこ
2,432
コメント
1件
第7話読みました〜っ😭💕 秘密のキスから始まって、ついにここまで来ちゃったか…!ってドキドキが止まらなかった!もかの「嫌じゃないよ」って言葉、すごく素直で響いたし、「初めては春にあげたい」って覚悟を決めたシーンはマジでエモすぎて叫んだ…!春の「好きだよ」、どんな意味の好きなのか気になりすぎる…!続きが待ちきれないです😍💞