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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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コメント
1件
「家族に戻ろう」と決意したもかの気持ちが痛いほど伝わってきました。春の告白現場を見て「私も言いたい」と願うのに、言ったら壊れるから言えない。保健室に向かう道すがら「せっかく一緒にいられるんだから」と寄り添う春も、優しすぎてズルい……。心を置き去りにしたまま戻れるはずがないとわかっていても、それしか選べないもかが切なかったです。
友人A
にぎやかな教室の隅で、友人達とお弁当を食べていた時のこと。
何の前触れも無く投げられた質問に、私は箸の動きをぴたりと止めた。
もか
素っ頓狂な声をあげた私の鼻先に、玉子焼きが刺さった箸の先端が突きつけられる。 マイク代わりみたい。
友人A
友人A
もか
友人A
友人Aが私に詰め寄ってくる。
目がギラついててちょっと引く。
もか
もか
友人A
もか
もか
友人A
もか
憮然としながらから揚げを口に運ぶ。
絶妙な塩加減と、仄かに香るレモンの酸味がマッチして、さっぱりとした味付けに仕上がっている。
ああ絶品。 見た目も味も、店頭に並んでもおかしくないほどの素晴らしい出来だ。
まあ私が作ったものだけど。
18歳を迎えたら自立しなければならない桐谷家では、その日が来るまでに、家事や料理を全て習得しなければならない。
家から出ても1人で生活できるように、必要最低限のスキルを身につけなきゃいけないから。
その甲斐あって、私も春も、もちろん郁兄も、料理の腕はかなりものだ。ちょっとした自慢。
友人B
友人Bの問いかけに、内心ドキリとした。
うっかり反応しそうになって、ぐっと堪える。
もか
友人B
友人B
確かに、一緒にいる時間が長い分、大抵のことは知ってるつもりだけど。
プライベートまで踏み込むつもりはない。
もか
友人B
もか
友人A
もか
素知らぬ振りを突き通す私に、友人達は不満そうに眉を寄せている。
もか
春との関係も、春に抱いている想いも、私は友人達はおろか、誰にも打ち明けてはいない。
いとこ同士の恋愛観が世間的にどう思われているのか、私にはわからなかったから。
だから安易に口に出すべきじゃないと思った。
唯一知っていそうな人物は、郁兄だけだ。
もか
もか
自分でも驚くほど、自然に言葉が紡がれた。
春の事を誰よりも知ってる、って自負したかったのかもしれない。
家族とかそういうこと関係なしに、私は春の事を一番理解していると。
友人A
友人A
もか
むっと口を尖らせれば、友人達は面白がって笑っている。
別に怒ってなんかいないし、春に対する信頼感を示しただけなのに。
以降もなお、春と郁兄のことをしつこく訊いてくる悪友から逃げるように席を立った。
そのまま教室を出て階段を降りる。
もか
もか
――もかがいるから、彼女は要らない。
あの日、春に言われた言葉。
あの言葉の意味を、私はいまだに咀嚼しきれずにいる。
あれは一体どういう意味だったんだろう。
ただの好奇心で春と関係を持ってしまった私には、考える資格もないかもしれないけど。
もか
食堂へと続く渡り廊下を歩いていた時、ふと、窓の外に目がいった。
体育館の裏に、見慣れた男の子の姿がある。
もか
何やら神妙な面持ちで佇んでいる。
そんな春と向かい合うように、一人の女生徒が立っていた。
この距離では、彼女がどのクラスの子なのかは判別ができない。
ただ背格好から見て、私が知っている子じゃない。
そして2人の様子から察するに、友好的な雰囲気にも見えなかった。
もか
2人の会話は遠すぎて聞こえない。
それでも、彼らの状況が何なのかは私にもわかる。
咄嗟に身を屈めて、その場に丸く縮こまる。
隠れる必要はなかったかもしれないけど、何となく、気まずくて。
もか
春が女の子から告白を受けている、その場面に出くわすのは今回が初めてじゃない。
今までも、何度か目にした光景。
その度に気持ちが塞ぎ込んでしまう。
息が苦しくなるような圧迫感に苛まれる。
――中学まで、春は今ほどモテてはいなかった。
背は男の子の平均身長より低めで、声もやや高め。そして中性的な可愛い顔立ち。
何より春は、女の子と積極的に話すタイプじゃなかった。
どちらかといえば目立っていたのは郁兄の方で、女の子の視線はいつも、兄の方を向いていたから。
でも、高校に進学してから成長期に入った春は、急に背がぐんと伸び始めた。
私と同じ背丈だったのに、今では頭1つ分くらい違う。 顔立ちも声も、男らしいものに変わった。
もともと真面目で温厚な性格だから、後輩達からは特に慕われていて、容姿の良さも相まって、加速度的に人気が出た。
春の魅力が周りに伝わってくれたことが、とても嬉しく思ったこともある。
微笑ましく感じていたはずなのに、今はただ、苦しい。
もか
羨ましいと思った。
あの子は春に、「好き」って言える権利があるんだ。
私にはそれがない。
もか
もか
たとえフラれても構わない。
その方が、スッパリ諦められるような気がするから。
でもそれ以前に、引かれたらどうしよう。
いとこ同士なのに何言ってるの? って思われたらどうしよう。そっちの方が最悪だ。
――触れ合ってる時、春はいつも私に「好き」って言ってくれる。
いつしか私も、春に同じ言葉を返すようになっていた。
でも春は、最中の時以外は「好き」って言ってくれない。
私は恋愛対象外だから、当然ではあるけれど。
春が言わないから、私も言わない。
だから、あの「好き」は場を盛り上がらせる為に用意した台詞なんだって、そう捉えるようになっていた。
それでも、あのたった2文字の単語を囁かれる度に、私の胸は甘く疼いた。 自惚れていたかったんだ。
なのにあの言葉を「本気にしたの?」なんて春に言われたら、ショックすぎて立ち直れない。
もか
もか
――18歳になったら、私達は自立する。
来年の3月には離れなきゃいけない。
春は医大でも友達がたくさん出来て、恋人と呼べる人も出来て、その子を一生大事にして生きていくんだ。
私だって、新しい職場で初めての彼氏ができるかもしれないし。
……初めての彼氏も春がいい、なんて、思っちゃいけないんだ。
春樹
もか
びっくりして肩が跳ねた。
見上げれば、開いた窓から春が顔を覗かせている。
女の子の姿は既にない。
不思議そうな顔で私を見下ろしている春に、私は慌てて立ちあがった。
誤魔化すように、スカートの汚れを手で払う。
春樹
もか
罪悪感に苛まれて眉を下げる。
どことなく気まずい雰囲気が、私の気持ちを更に暗くさせた。
もか
春樹
春樹
もか
春樹
窓枠に手足を置いて、春はヒョイと身軽に飛び越えてきた。
私の前に立って、顔色を窺うように覗き込んでくる。
反射的に目を逸らしてしまった。
春樹
もか
もか
春樹
もか
春樹
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
春樹
春樹
話題を変えようとしたつもりが逆効果だった。
結局、春と保健室へ行く流れになってしまって、上靴に履き替えた春は、私を支えるようにして肩を貸してくれた。
その距離があまりにも近すぎて、思わず息が詰まりそうになる。
春樹
もか
もか
春樹
春樹
……ズルい。 そんな風に言われたら、断れない。
もか
春の肩に寄りかかるようにして、ゆっくりと歩き出す。
肩から伝わる温もりと、髪の隙間から漂ってくる爽やかなシャンプーの香りが、私を夢見心地にさせる。
もか
――春の心は誰に向いてるんだろう。
一瞬そんな疑問が頭をよぎったけれど、即座に頭を振った。
もか
もか
春には幸せになってほしい。
それ以上の事は望まない。望むべきじゃない。
彼女として春の隣に立てなくても、家族に戻れば春と一緒にいられるんだ。
あやふやな関係を遮断して、2年前の、普通の日常を送っていたあの頃に戻ればいいだけ。
そう思うのに、もうひとりの私がその願いを拒絶する。
春が触れてくる度に、優しくしてくれる度に、家族以上の存在になれるんじゃないかと期待してしまう。
どうしても、心が願ってしまうんだ。
2年もの間、春と過ごしてきた中で肌を重ねてきたあの時間が、何の意味もなかったなんて思いたくなくて。
もか
もし春に本当の想いを告げたら、このぬるま湯みたいな関係はすぐに終わる。
私の想いを春が知ってしまったら、気まずさから私を避けるかもしれない。
そうなったら、家族にも戻れなくなる。
特別な関係も、家族としての存在も、同時に失ってしまうなんて耐えられない。
もか
もか
――普通の家族に戻ろう。
そして来年の3月に、自立する形で離れよう。
辛い気持ちは、離れている間に流れる日々が、きっと忘れさせてくれるだろうから。
もか
もか
――心を置き去りにしたまま関係を修繕するなんて、絶対うまくいくはずがない。
それでも、今の私にはもう、それしか考えられなかった。