梶原敏夫
身代金の要求に応じたか?
山崎啓太郎
それが変なんだ
梶原敏夫
なにが?
山崎啓太郎
「女房を預かった」
山崎啓太郎
「身代金として三千万用意しろ」って言ったらなんて言ったと思う?
梶原敏夫
なんて言ったんだ?
山崎啓太郎
山崎啓太郎
「どうにでもしてくれ」
山崎啓太郎
そう言いやがった
梶原敏夫
冷たいな(笑)
山崎啓太郎
笑ってる場合じゃないぞ
山崎啓太郎
これじゃあ目的の身代金が手に入らない
梶原敏夫
そんなに夫婦仲が悪いのかな?
山崎啓太郎
山崎啓太郎
人質はあの部屋か?
梶原敏夫
ロッキングチェアに縛り付けてある
梶原敏夫
まだ睡眠薬が効いてる筈だから揺れながら寝てるよ
山崎啓太郎
山崎啓太郎
目覚めたらしいな(笑)
梶原敏夫
じゃじゃ馬め
梶原敏夫
縛り付けたのに随分激しく暴れてるじゃねえか
山崎啓太郎
おしとやかな感じだったが
山崎啓太郎
旦那が見放したのも頷ける気がするよ(笑)
梶原敏夫
身代金が手に入らないとなるとあの女どうする?
山崎啓太郎
しばらく様子見だな
山崎啓太郎
もしかすると旦那の気が変わるかもしれないが
山崎啓太郎
ダメなら始末するまでだ
それから2,3日と経過したが、人質の夫は一向に要求に応じなかった。
相手の態度と人質の暴れる音で山崎たちの苛立ちは増すばかりであった。
山崎啓太郎
さすがに我慢の限界だな
梶原敏夫
俺が黙らせてくるよ
梶原敏夫
木暮建設?
山崎啓太郎
俺たちが人質に取った女の旦那じゃないか
山崎啓太郎
どういうこったこりゃ
梶原敏夫
俺に聞かれても…
山崎啓太郎
山崎啓太郎
お前は睡眠薬で眠らせたんだろ?
梶原敏夫
そうだけど…
山崎啓太郎
そのとき分からなかったのか?
山崎啓太郎
死体だって
梶原敏夫
し、知らないよ
梶原敏夫
だってベッドの上で横になってたんだぜ
梶原敏夫
普通に寝てるように
梶原敏夫
ともかく警察が捜索してるとなると
梶原敏夫
俺たちも危険になってくるかもしれないな
山崎啓太郎
そんなことよりもお前、気にならないのか
梶原敏夫
……なってるさ
梶原敏夫
木暮の女房は以前から死んでた
梶原敏夫
その遺体を俺たちは誘拐し監禁してるんだ
山崎啓太郎
そう
山崎啓太郎
となると今まで聞こえてたあの音は一体…
鍵の掛かった扉の奥からは、今もロッキングチェアの揺れる音が響いていた。