コメント
2件
高野の言う通りだよ若井!今から守ろう!

ノックの音に、若井のかすれた声が返ってくる
若井
扉を開けると、若井がベッドの上で本を閉じたところだった
まだ体調は万全ではない
それでも、彼の目はすぐに二人の表情を読み取った
若井
声は平静を装っていたけど、指先が微かに震えているのを、元貴は見逃さなかった
元貴は喉を鳴らして、ゆっくりと言葉を絞り出した
元貴
その瞬間、若井の瞳が大きく揺れた
若井
息を呑む音が若井の部屋に響いた
髙野
高野が慌てて続ける
元貴
元貴
若井の視線が、ゆっくりと床に落ちた
その影がベッドの上に滲むように伸びていく
若井
掠れた声だった
自分の息が自分を責めているみたいに、重く、震えている
元貴
元貴が即座に声を上げた
元貴
髙野
元貴
元貴
若井の目が一瞬だけ滲んだ
握っていたシーツがしわになる
若井
小さく問う声に、元貴が答える
元貴
髙野
高野の言葉に、若井の喉が詰まる
若井
若井
その一言は、まるで祈りみたいに静かで、 けれど心の奥の震えを隠せない
涼架のいる病棟の廊下
静まり返った空気の中、車椅子のタイヤが床を擦る小さな音だけが響いていた
若井は息を詰めるようにして、目の前の廊下を見つめていた
元貴
押していた元貴が小さく言う
元貴
若井
その声は、掠れていたが、迷いはなかった
高野も無言で頷く
髙野
少しずつ進むたびに、心臓が痛いくらい鳴っていた
若井
小さく呟いた若井の声が震える
今すぐにでも走って行きたかった。けれど身体が言うことを聞かない。
だから代わりに、手のひらに力を込める
病室の前に着くと、高野が静かにドアを開けた
中には、白いシーツの上で眠る涼架の姿
顔色はまだ少し青いけれど、呼吸は落ち着いていた
若井の喉が詰まる
若井
声にならない吐息が漏れ、肩の力が抜ける
元貴がそっと車椅子をベッドの傍に寄せた
若井は手を伸ばし、涼架の指先に触れる
冷たかったその手が、少しだけ温もりを取り戻していて、胸の奥がじんと熱くなった
若井
かすれた声でそう囁くと、涼架の指がほんの少しだけ動いた
その瞬間、若井の目に涙が滲む
高野が優しく微笑んで、そっと病室の照明を落とす
元貴も無言で頷き、静かにドアを閉めた
残された薄暗い部屋の中で、若井は涼架の手を握りしめたまま、小さく微笑んだ
若井
夜の病院の駐車場
雨はいつの間にか本降りになっていた
地面を叩く雨粒の音が、まるで心臓の鼓動みたいに、胸の奥に響く
若井は屋根の下にいたはずなのに、いつの間にか外に出ていた
冷たい雨が肩に落ち、髪を濡らす
車椅子の車輪がぬかるんだアスファルトをわずかに滑るたびに若井の息が震えた
若井
掠れた声が、雨音にかき消される
病室で見た涼架の顔――。
あんなに弱々しく眠っていたのに、自分はただ、見ていることしかできなかった
もし、あのとき元貴たちがいなかったら。 もし、あのまま誰も気づかなかったら。
想像した瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ
若井
絞り出すように言葉が零れる
若井
拳を握る。 それでも震えが止まらない
動かない足を見下ろして、唇を噛んだ。 情けなくて、悔しくて、涙が滲む。
若井
誰に言うでもなく、空に向かって吐き出した声は、雨の中に溶けていく
雨粒が頬を打つたびに、涙なのか雨なのかわからなくなっていった
嗚咽を堪えようとするたび、胸の奥がぐしゃぐしゃに崩れていく
若井
震える指で顔を拭っても、涙は止まらない
その時――病院の入り口から、元貴と高野が駆け寄ってきた。
元貴
髙野
二人が必死に声をかけても、若井はうつむいたまま動けなかった
ただ、ポツリと小さく呟いた
若井
その声に、元貴も高野も言葉を失う
高野が静かに若井の背中に傘を差しかけた
髙野
若井は顔を上げる。 涙に濡れた瞳の奥で、何かが小さく光った。
その誓いを噛みしめるように、若井は空を見上げた。