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ホラー短編

1 - やればできる子

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35

2023年01月21日

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勉学も、スポーツも、芸術も、慈善活動も

ぼく、今までなんでも中途半端でした

どの分野も競わなきゃいけないじゃないですか

それが、どうにも苦手で……

なるほど。 競争心があまりないということですね

はい。途中までは一生懸命に取り組むんですよ

でも、他の励んでる人を見ると、気力が萎えちゃって……

負けても良いや、好成績なんて残せなくても良いやって思っちゃうんです

悔しくないんですか?

いいえ。
頑張り続けるほうが億劫だから。だから、ぜーんぶ中途半端。最低限をこなせれば良いかなって思ってました

当然、成績や評価は良くなかったです。むしろ、悪かった

でも、気にしませんでした

努力したり、他の人と競争する方がずうっと苦痛だったから

家族からは 何も言われなかったんですか?

うち、母子家庭だったんですけど

優しい母はいつもぼくのこと
「貴方はやればできる子よ」
と微笑んでいました。
「真剣にやれば、誰よりもできる。母さんの誇りよ」と

母はいつもぼくを温かく見守ってくれました

大学試験で落ちた時も

行きたくもない低ランクの大学に入学する時も

その大学もあっさり辞めた時も

詐欺紛いバイトで食い繋いでいた時も

そのバイトすらサボって、家に篭りきり、部屋でパソコンばかりいじっていた時も

「貴方は本気を出せば、誰よりも優秀なの」
と休みなく働き、ぼくを養ってくれました

それで、お母様は……?

ええ。病気になりました

気付いた時にはもう遅くって……。ベッドで寝たきりでしたね

ぼくは、家事ができないので部屋は荒れ放題でしたね

母が片付けないから、汚いし、臭いし、虫も沸くし。
最悪でした

だから、物が散乱した和室で横たわった母は、か細い声でぼくに語りかけました

「貴方はやろうと思えば、できる子よ。母さんの自慢の子。さぁ、片付けてちょうだい」

母は目を細めていました

だから、ぼくは一生懸命頑張りました

両手を母の萎びた首に巻きつけ、力一杯締め付けました

「貴方は母さんの宝物よ」

母は抵抗もせず、満面の笑みを浮かべていました

皮膚越しに伝わってきた母の体温、血脈の流れ、拍動がぼくの両の手に貼り付いて、未だに剥がれません

でも、ぼくは後悔していない。
これまで半端者だったぼくが、ようやく母の言う「やればできる子、自慢の子、誇り」になれたんです

ぼくは誇らしいです

だから、刑事さん。
ぼくは後悔なんか微塵もありませんよ

ぼくは、やればできたんです

この手でようやく成し遂げたんです

君が殺したお母様に 申し訳なさはないんですか?

いいえ。ありません

ぼくはようやくなれたんです。
母の期待通りの「やればできる子」に

むしろ、胸を張って母に会えます

———あの世で

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