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第1話 - あ

2023年09月09日

#スカッと

田中俊樹

メグミ

タカヒロ、私離婚したいんだけど…

タカヒロ

はぁ？

タカヒロ

いきなり何言ってんだ

タカヒロ

冗談も程々にしろよ

タカヒロ

これから大事なレースがあるんだ

タカヒロ

盛り上がってるとこに余計な水さすんじゃねぇよ

メグミ

お義母さんが亡くなって半年が経ったし

メグミ

ウタも就職して自立してるでしょ

メグミ

だから、私も自由になろうと思って

タカヒロ

は？

タカヒロ

なんだよ

タカヒロ

自由になるって

タカヒロ

今だって好き勝手してるじゃねぇか

タカヒロ

それが自由だろうが

メグミ

本当にそう思ってる？

メグミ

私はあなたから自由になりたいの

メグミ

仕事はろくに続かない、働いてって言ったら体調が悪いとか理由をつけて寝るし

メグミ

それなのに、お金が少しでも入ったらギャンブルやお酒に使って…

メグミ

体調が悪いからって病院に行っても何もなかったじゃ無い

タカヒロ

しるかよ！

タカヒロ

医者がヤブなんだろ

タカヒロ

俺の体調不良は精神的なものなんだよ

タカヒロ

仕方ねぇだろ！

メグミ

今まではお義母さんがとても良くしてくれていたのもあったし

メグミ

ウタのことを考えて離婚に踏み切れなかったけど

メグミ

でも、もういいってなったの

メグミ

あなたへの感情も何もかも無くなった

メグミ

だから離婚してください

タカヒロ

おれを捨てるって言うのか？！

タカヒロ

精神的な病で働けない

タカヒロ

この歳だ

タカヒロ

再就職だってできない

タカヒロ

俺を捨てるっていうことは孤独死させる、野垂れ死させるのと同じだぞ？

タカヒロ

お前のせいで俺は生きれなくなるんだからな

タカヒロ

それを知った上でも離婚するっていうなら

タカヒロ

お前は殺人犯だ！

メグミ

私は今まで頑張ってきた！

メグミ

いつか、あなたが変わるんじゃ無いかって期待してた

メグミ

でも、ずっと裏切ってきたのはあなたでしょ

タカヒロ

知るかよ

タカヒロ

裏切るも何もお前が勝手に期待してただけだろ

タカヒロ

まぁいいさ

タカヒロ

どうせお前はおれを捨て切れないだろうからな

メグミ

本当に決めたって言ったでしょ？

メグミ

離婚してください

メグミ

本気です

タカヒロ

はいはい

タカヒロ

勝手に言ってろ

タカヒロ

じゃあ、レースが始まるから

タカヒロ

またな〜

〜1ヶ月後〜

ウタ

ねぇ、お父さんどこにいるの

ウタ

お母さんが倒れたんだよ

ウタ

病院に運ばれたの

タカヒロ

おお

タカヒロ

ウタか

タカヒロ

久しぶりぃ

ウタ

は？

ウタ

久しぶりとか良いから

ウタ

お母さんが倒れたんだよ？

ウタ

何も思わないの？

タカヒロ

あいつが倒れたって？

タカヒロ

嘘だろ？

タカヒロ

1ヶ月前まで悪態つくほど元気だったぞ？

ウタ

無理してたんだよ

ウタ

お母さん、過労だって言われたよ

ウタ

お父さんのせいだからね！

タカヒロ

何言ってんだよ

タカヒロ

なんでおれのせいになるんだよ

ウタ

なんでって…

ウタ

わからない？

ウタ

全部あんたのせいでしょ！

ウタ

あんたがろくに働かずにフラフラと遊んでたからでしょ

ウタ

お母さんが一生懸命働いて稼いだお金もくすねてギャンブルですぐ使うし

ウタ

金が足りないと文句は言う

ウタ

ろくに家にいないし、家では何もしない

ウタ

おばあちゃんの介護も全部お母さんがしてたじゃない！

ウタ

私も仕事があるから休みの日にしか手伝えないのに…

タカヒロ

はぁ？

タカヒロ

それ全部おれのせいだって言うのか？

タカヒロ

じゃあ、家を出て行ったお前のせいでもあるよな

ウタ

私はあんたと同じ空間に居たくなかったから出て行ったんだよ！

ウタ

それにあんたと違って自分で稼いで、自分のことは自分でやってる

ウタ

あんたは遊びまわって、お母さんに全て押し付けて…

タカヒロ

おれは働けないから仕方ないだろ

タカヒロ

病気のおれに無理しろって言うのか？

ウタ

は？

ウタ

病気なわけないでしょ

ウタ

あんたが働かないのは気分の問題でしょ

ウタ

これから暫く入院することになったから

タカヒロ

は？

タカヒロ

暫くっていつまでだよ

タカヒロ

おれの飯はどうするんだ

ウタ

あんたが心配することはそんなことしかないの！？

ウタ

信じられない

ウタ

クズね

ウタ

そんなクズにもう１つ言っとく

ウタ

お母さん、検査で癌が見つかったの

タカヒロ

癌だと…？

タカヒロ

過労に癌ってなんかすごいな

タカヒロ

ドラマみたいだ

ウタ

なんで他人事なの？！

タカヒロ

そういうことか

ウタ

何よ

タカヒロ

そういう設定でおれとあいつを離婚させようっていう魂胆だろ

ウタ

はぁ？

ウタ

お母さんの病気と離婚は今関係ないでしょ？

タカヒロ

ダイジョーブ、ダイジョーブ

タカヒロ

すまんなウタ

タカヒロ

母さんのわがままに付き合わせて

タカヒロ

構ってほしくて駄々こねてるだけなんだよ

タカヒロ

あいつはな、一生誰かに構ってもらえなきゃ生きていけないんだよ

タカヒロ

だから、おれが居なきゃいけないんだよ

ウタ

ありえないから

ウタ

もういい

ウタ

クズには頼らない

ウタ

お母さんは私が介護する

ウタ

もう２度とお母さんを利用させない！

タカヒロ

お前より、おれとあいつの方が長い付き合いなんだよ

タカヒロ

あいつのことはおれが一番わかってるからな

タカヒロ

あ、あいつには金だけ振り込んどけって言っとけよ〜

〜2ヶ月後〜

タカヒロ

おい、ウタ

タカヒロ

母さんと連絡が取れないんだけど何か知らないか？

タカヒロ

そろそろ生活費を振り込んでくれって伝えておいてくれ

タカヒロ

もう金がねぇから、飯とかレースとか大変なんだよ

ウタ

明日、葬儀だよ

ウタ

あんたの相手してる暇ないから

タカヒロ

は？

タカヒロ

葬儀？

タカヒロ

誰の？

ウタ

お母さんの

ウタ

この前、お母さんに癌が見つかったって話したでしょ？

ウタ

見つかった時にはすでに手遅れで、対処のしようが無かったんだって

ウタ

だから、麻薬でごまかして一緒に過ごしてたの

タカヒロ

あいつが末期癌…？

タカヒロ

そんな話聞いてないぞ！

ウタ

私は癌だって言ったじゃない

ウタ

信じなかったのはあんたでしょ

ウタ

それにお母さんの過労や病気のことは一度も心配してなかったよね

ウタ

そんな人にお母さんの余生を邪魔されたく無かった

ウタ

だから、あれ以上なにも言わなかった

タカヒロ

意味がわからん…

タカヒロ

残されたおれはどうするんだ？

タカヒロ

どうやって生きていけばいいんだ

ウタ

子供じゃないんだから、自分のことは自分で何とかしなよ

ウタ

こっちはあんたの神経がわからないよ

ウタ

お母さんが亡くなったことを悲しむんじゃなくて、自分のことしか考えられないなんて

ウタ

葬儀があるから一応場所は教えとく

ウタ

あんたに少しでも、お母さんに謝罪の感謝の気持ちがあるなら

ウタ

最後くらい懺悔した方が良いんじゃない？

タカヒロ

本当に死んだのか？

タカヒロ

お前が嘘ついてるんじゃなくて？

ウタ

だから、亡くなったって言ってるでしょ

ウタ

冗談じゃこんなこと言わないわ！

タカヒロ

そうなのか…

タカヒロ

じゃあ、母さんの遺産がおれに入ってくるってことか！

タカヒロ

それっていつ頃入ってくるかわかるか？

ウタ

は？

ウタ

自分のことの次はお金のこと？

ウタ

本当にクズ野郎だわ

タカヒロ

大事なことだろ？

タカヒロ

いやぁ

タカヒロ

良かった良かった

タカヒロ

野垂れ死ぬかと思ったよ

ウタ

その通りになるかもよ

タカヒロ

へ？

タカヒロ

なんで？

ウタ

なんで、お母さんの遺産が自分に入ってくると思ってるの？

ウタ

今まであんたがお母さんや私にしてきたこと

ウタ

無かったことにはできないからね

タカヒロ

おれはあいつの旦那だぞ？

タカヒロ

もらえるに決まってるだろ

ウタ

お母さんの遺産はあんたに一銭も入らない

ウタ

全部私が相続したから

ウタ

嘘だろ？

タカヒロ

なんでお前が…

タカヒロ

全部ってどういうことだ！

ウタ

あんたには遺産を残したく無かったんだろうね

ウタ

確かに相続は半分が配偶者、残りの分は子供達に…ってなってるけど

ウタ

それは何も無かったらの話

ウタ

でもね

ウタ

お母さんは遺言書を遺してたの

タカヒロ

遺言書！？

タカヒロ

そこにはなんて…？

ウタ

わかるでしょ？

ウタ

私の遺産は夫には一銭も渡さず、娘のウタに全額を渡す

ウタ

そう書いてあったのよ

ウタ

お母さん、ありがとう

ウタ

このお金は大切に使うね…

タカヒロ

なんで！

タカヒロ

なんでお前ばっかり！

タカヒロ

卑怯だぞ！

ウタ

なんで？

ウタ

本当にわからない？

ウタ

あんたは、いつも自分のことばっかり

ウタ

お母さんがあんたのことを見捨ててたってわからなかったの？

タカヒロ

ガキの分罪で！

タカヒロ

そんな遺書無効だ！

タカヒロ

お前が捏造したに決まってる！

ウタ

遺書が見つかって、筆跡鑑定したよ

ウタ

お母さんの筆跡と一致したから、捏造ではないことが証明されたの

ウタ

これは弁護士も立ち会ったからね

ウタ

正式なものとして認定されたわ

タカヒロ

じゃあ、おれの母親の遺産は？！

タカヒロ

あいつが管理してたんだよな

タカヒロ

おれの大家の遺産なんだから

タカヒロ

それはおれに入ってくるだろ？

ウタ

おばあちゃんの遺産ね

ウタ

おばあちゃんの遺産は全部お母さんに相続されてたの

ウタ

だから、あれはお母さんの財産として認定されてるの

タカヒロ

は？

タカヒロ

どういうことだよ

タカヒロ

おれの親の金は息子であるおれに入ってくるはずだろ？

ウタ

ううん

ウタ

おばあちゃんは全額お母さんに渡してた

ウタ

あんたに入ったお金をお母さんが管理してた訳じゃない

ウタ

お母さんは、おばあちゃんからもらった遺産を自分で管理してたの

ウタ

だから、あんたが介入する余地はないの

タカヒロ

なんで…

ウタ

おばあちゃん、最後までお母さんに謝ってた

ウタ

自分の育て方が悪かった…

ウタ

あなたには苦労をかけたって

ウタ

だから、自分が死んだらお金はあなたに相続するし

ウタ

そのお金はあなたが、あなたの思うように使いなさいって

ウタ

全部、お母さんに相続するように弁護士に頼んでたんだって

タカヒロ

嘘だろ…？

タカヒロ

なんで…

タカヒロ

なんで、みんな寄ってたかっておれに金を残さないんだ！

ウタ

あんたは実の親にも妻にも愛想を尽かされてたってことだよ

ウタ

私だって、あんたのこと実の父親だって思いたくないわ

タカヒロ

なぁ、ウタ

タカヒロ

お前は、母さんからお金を残してもらってるんだろ

タカヒロ

それも、おばあちゃんの分まで…

タカヒロ

おれに分けてくれないか？

タカヒロ

お前は仕事してるだろ？

タカヒロ

分けてくれないと、お父さんは生きていけないんだよ…

ウタ

お母さんが渡したくなかったお金を私があんたにあげるわけないでしょ

ウタ

それに、お母さんが死んでもあんたに渡したくなかったお金を使わせるなんて

ウタ

絶対に嫌だから

タカヒロ

なら…

タカヒロ

そうだ！

タカヒロ

また、お父さんと一緒に暮らそう！

タカヒロ

どうだ？？

タカヒロ

お前も一人で寂しいだろ

タカヒロ

2人で仲良く暮らそう

タカヒロ

お前にとってメリットしかないぞ？

ウタ

デメリットでしかないから

ウタ

そうやって、私のお金を取ったり

ウタ

私に家事をさせて、色んなものを私から搾取するつもりでしょ？

ウタ

もういい

ウタ

お母さんの葬儀にも来なくていい

ウタ

金輪際、私に関わろうとしないで

ウタ

頼ろうとしないで！

タカヒロ

ウタ…

タカヒロ

おれはお前にとってたった一人の家族なんだぞ？

ウタ

私にとってあんたはどうでもいい人の一人なの

ウタ

私に２度と連絡してこないで

ウタ

あんたが、どこでどうなろうと私には関係ない

ウタ

あんたに構ってる暇なんてないから

ウタ

私、忙しいの

タカヒロ

忙しいって

タカヒロ

ただの会社員だろ？

タカヒロ

格別忙しいってこともないだろう…

ウタ

今度、独立しようと考えてるの

ウタ

だから、新規事業に向けて色々とやることがあるのよ

タカヒロ

独立って…

タカヒロ

社長かよ

タカヒロ

すごいじゃないか

タカヒロ

余計に金が入ってくるな

タカヒロ

だったら遺産は要らないだろ？

ウタ

そういうことじゃないわ

ウタ

遺産はただのお金じゃない

ウタ

その人の想いが籠ってるから

ウタ

絶対にあんたには使わせない

ウタ

私が大切にする

ウタ

それと

ウタ

さっき、たった一人の家族って言ってたけど

ウタ

私、今度結婚するから

ウタ

家族が増えるの

ウタ

だから、私は寂しくないし

ウタ

あんたとは関わりたくない

タカヒロ

おい、嘘だろ…

タカヒロ

おれを1人にしないでくれよ！

タカヒロ

頼むよ！

タカヒロ

ウタ！

〜後日談〜

ウタ

光熱費など生活費が払えなくなったのか、実家は無くなり父はどこかへ消えました

ウタ

母は最後に麻薬を服用して、痛みを和らげながら生活していましたが

ウタ

色々旅行したり、美味しいものを一緒に食べてて本当に楽しそうでした

ウタ

こんなことになるなら、もっと早く無理やりにでも連れ出しとけば…と後悔する日々です

ウタ

今後、私も結婚して母のようなお母さんになりたいと思います

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田中俊樹

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