海人
海人
小学校低学年の夏
家族で水族館に来ていた
薄暗い水槽に浮かぶ それが美しくて
思わず指を指した
母
海人
母
1・2・3 のリズムで返す母は、 なんだか楽しそうだった
母
海人
母
母
そっと呟く母。
水槽の中で フワフワと動くそれは
確かに海に反射する 満月を連想させた
海人
海人
思わず呟くと、
母
母は薄く笑った
水槽の中で優々と動く海月は、
薄暗い水族館を 照らすみたいだった
月音
月音
高学年になった7月
僕は海月の本を読んでいた
海人
そっけなく返して、反省した
月音
彼女が申し訳なさそうに、そして悲しそうに俯くのが見えたからだ
月音
月音
月音
月音
勢いよく言う月音に、圧巻だ。
『海月みたい』
口の中でその言葉を反響させた
海人
そっと呟くと
月音
月音
パチン、と手が重なった
月音は笑顔で。 僕は驚きを隠せなかった。
月音
月音
夏休み前、君はそう言った
正直、泳げない僕は行きたくない
海人
月音
精一杯の反論も、 月音には効果がない
海人
月音
月音
ニッコリ笑う君。 僕に拒否権なんてないようだ。
海人
海人
海人
月音
彼女が不満そうな声をあげた
海人
海人
月音
海人
二人で笑った
そんな時間が、 何より愛しいと思って
そんな月音が好きだと思った
月音
はしゃぐ君が波の前に見える
海人
月音
ちょっと呟いただけなのに
月音は地獄耳だ……
僕も波の近くまで行くと
月音
月音
月音
急に月音が語りだした
まぁ、話題がなかったから 丁度良いんだけど。
海人
そっけない返事をしてみると
月音
月音
波の向こうで 地平線が揺れる
ゆったりした時間が流れていた
月音
月音
海人
月音
いたずらっぽく聞く月音は いつもの無邪気さが戻っていて
なんだかホッとした
海人
──ズキッ
少し心が痛んだのは気のせい? 月音のこと、僕はどう思ってるんだろ
月音
もう一度波を見つめる月音
その横顔が綺麗で
海人
呟いた
いつの間にか口がカラカラで、
声にならなかった
月音
月音
月音が戸惑ったような声をあげた
海人
さっきの言葉は、届いてほしくない。
でも、僕の想いに気づいてほしい。
届いて欲しいのに、 届いてほしくない。
………どっちか分かんないね。
海人
海人
月音
月音が僕を見た
真っ直ぐ見つめる瞳が綺麗で
吸い込まれそうになる
海人
海人
少し躊躇ってしまった
月音
その先を聞くのが怖くて
耳を塞いでしまいそうになる
月音
月音
海人
海人
僕から聞いたくせに
何故だか胸が痛い
これが、俗に言う『恋』 なのだろうか?
海人
月音
いつの間にか、 貝殻を手に取っていた月音。
海人
「好きな人って、誰なの?」
なんて。
聞けるはずないじゃん。
月音
月音
渦巻きみたいな貝殻を 僕の耳に当てた
ザー、と波のような音がする
月音
月音
海人
海人
月音
感心したように、君が言う
今度は彼女が貝殻を 耳に当てていた
月音
夢見る乙女のように目をうっとりさせる月音を見て、悟った
“僕じゃなかったんだ”
月音
笑いながら話す彼女に、 僕は泣きたくなった
海人
月音
もう一度貝殻を探そうと、 砂浜にしゃがみこむ君
幸い、僕の方は見ていない
海人
“好き”だったのに…なぁ。
揺れる水平線が、滲んでゆく
頬を水滴が伝って、海に溶けた
海月みたいだ……
水滴は留まることを 知らないそうで
あふれでてくる
海人
小さく、君に聞こえないように呟いた
終わっちゃった、僕の初恋。
海月のように、溶けて消えてった
僕の初恋は、きっと──
海月のような、初恋でした。
コメント
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そうなの…両思いでは無くてね…笑
両想いじゃないんだ…。
夏が……暑い……汗…ヤバい……ぅうわぁぁぁ!