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結婚して二年、俺たちの間に子供ができた。 室内に産声が響いた時、俺は思わず泣いてしまった。
優菜
優介
鼻水を啜りながら生まれたばかりの優を抱いた。
二年が経ち、優菜は看護の仕事に復帰した。 俺が育休をとり、優の世話をすることになった。
優介
優
最近こんなことばかりだ。 多分これは『イヤイヤ期』というものに突入している。
優介
優
そんな怒涛な日々を過ごすこと一年。 優は三歳になり、物心というものがついてきたように思う。
優菜
優介
彼女と俺、どっちに優が来るか、一度はやりたくなる夫婦恒例の真剣勝負だ。
優
優菜
現実は時に残酷だ。勝負は一瞬で決着がついた。
優菜
優
優介
もうお互い仕事にも復帰し、優は保育園へと通わせていた。
先生
保育園の先生に連れられてやってくる優は、毎回俺の手を無言で握る。 だけど今日は、なんだか表情が暗い。
優介
優
優は強く手を引っ張って帰ろうとする。 それを見た先生が俺に声をかけた。
先生
先生は深く頭を下げた。優は俯いたままだ。
優介
俺は軽く会釈して、優と保育園を後にした。
優介
優
優介
優
嫌、と言うだけでそれ以上は何も話してくれなかった。 俺は心の中で落ち込みながら、優と手を繋いで帰った。
優介
優菜
優を寝かしつけた後、俺は彼女に相談していた。
優介
彼女はくすっと笑い、俺の手を握る。
優菜
優介
優菜
今日の出来事の真実を、俺は彼女から聞く。
優菜
優介
優菜
優介
優菜
優介
どうやら本音を話すのはママである優菜にだけのようだった。 そこから数年、優は小学生になった。
優介
優
優は絵本を読みながら、俺の質問に適当に答える。
優介
優
優介
相変わらず、俺だけには甘えてこない。 またまた数年経ち、優は中学生になった。
優
優菜
彼女と優の会話を盗み聞きしていた俺は、聞かなかればよかったと後悔した。 そんな年の、バレンタイン一週間前。
毎年バレンタインは優菜と優が手作りチョコをくれるが、 作っている姿を見るのは禁止、と優に釘を刺されている。 待ちに待ったバレンタイン当日。
優
優はそう言ったが、俺は待ち続けた。 でも、優が俺に話しかけてくることはなかった。
優菜
優介
優菜
なんだか不公平だ。やっぱり俺は嫌われているのだろうか。
優
顔を上げると、優菜の隣に優が立っていた。
優菜
優が俺を見下げている。
優介
優
恥ずかしそうに渡してきたのは、きちんと包装された手作りチョコだった。
優介
優
優介
優は自分の部屋へと、階段を駆け上がって行ってしまった。
優菜
洗い物を終えた優菜が戻ってきた。
優介
優菜
そういえば昔にも似たようなことがあった。 俺たちが高校の時、まだただのクラスメイトだった時だ。
優菜
優介
突如後ろから声をかけてきた当時の優菜は、 恥ずかしそうに何かを差し出した。
優菜
それは綺麗に包装されたチョコだった。 見た感じ手作りのようだ。
優介
優菜
長いツインテールを派手に揺らしながら、彼女は走って行ってしまった。
優介
俺は思い出し笑いをしながら、優菜を見つめる。
優菜
優介
優菜
優菜は、俺が高校の話題を出すと、すぐに赤面する。 三年後、優は高校生になり、卒業の日がやってきた。
優介
優菜
優
優はまた俺に冷たい言葉を吐く。でも、その言葉には続きがあった。
優
ますますあの頃の優菜に似ている気がする。
卒業式、彼女は優から見える位置に堂々と座り、 俺は後ろの方の席で目立たないように座っていた。
優が入場してくる。俺は手を振るが、当然気づかない。 卒業証書を代表者が受け取るのを待っている間、 優は背筋を伸ばし、姿勢良く座っていた。
卒業式が終わり、生徒は教室へ、保護者は多目的室へと案内された。 そこには生徒一人一人の保護者に向けた手紙が置いてあった。
優
もうこの文章だけで泣いてしまいそうだ。
優
優菜はもうすでに泣いていた。
優
俺の時だけなんか違う。
優
なんか俺の思い出少なくないか?
優
手紙の中でも俺はなぜか雑な扱いだ。 でも最後の文で、優は本当に優しい子に育ったんだと確信した。
優
もう俺たちは文章が見えないほど泣いていた。
優菜
彼女は鼻を啜りながら手紙の文面を読み返していた。 そうだ、思い出した。
優介
まさか、俺の娘がツンデレなんて、ありえないと思っていたのにな。