人は溺れ死ぬ時、何を思うのだろうか。
自責の念? 家族への思い? やっぱやめればよかった、とか?
まァ、これは俺が思っていることの一部だけれど。
この湖がこんなに深かったとは思いもしなかった。
しょうがないな、人の目を掻い潜って辿り着けるのがここしかなかったからさ。
自然はとんでもないものを作ってくれたみたいだね。
あ、そうだ、敬語。 でも、こんな時だから許してくれ、母さん。
せめて、弟にだけはちゃんと別れを伝えた方がよかったかもしれない。
世界中探し回っても見つからない、俺に一人だけの弟。
……でも、これで、いい。
弟はまだ幼い、それ故に気づいていないだろうから。
しまった、懐中時計を渡すのを忘れていたみたいだ。
でも、もう、間に合わない。
溺死なんて嫌だと思ったけれど、高いところから体を打ち付けられて死ぬよりかはいくらかマシ。
弟は、独りで生きていけるだろうか。
いや、きっと大丈夫。 なんたって俺の弟だからな。
最愛の弟が、
これからも、
ずっと、
ずっと、
幸せで