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愛おしき、記憶

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愛おしき、記憶

1 - 愛おしき、記憶

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2019年05月26日

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愛おしき、記憶

*-*-*-*-*

何があったのか、憶えていない。

何も、憶えていない。

憶えているのは、自分の名前と 25歳までの記憶、だけ。

それ以外は 何もかも憶えていない。

気が付いた時には 綺麗な白のベッドに横になって居た。

よく分からないチューブや機械が 自分の身体に繋がれている。

ただ、怖いと思った。

私が私じゃないみたいな。 そんな錯覚が脳みそを乱した。

私は、私の辺りを見渡す。

何か、思い出すキッカケは無いか。 私のカケラが落ちていないか。

必死に探そうと思った。

それは直ぐに見つかった。

ベッドのそばに、女の子が居た。

4歳くらいの女の子。

その女の子の首には お守りの様な巾着が掛けられていて その女の子は、不思議な雰囲気を漂わせて その場に立ち尽くして居た。

女の子

ママ……。

ママ……。

私のことを、言っているのだろうか。 全く、身に覚えがない。

まみ

ごめんね。

まみ

ママって、私のこと?

女の子は黙って、下を向く。

もしかして、迷子、だろうか。

広い病院でママとパパを探して 彷徨っているのだろうか。

まみ

パパは?

女の子

……。

女の子は下を向きながら 首を横に振る。

途端に、女の子は泣き出してしまった。

どうしよう

子どもの扱いに慣れていない私は困った。

迷子の世界は、子どもにとって 哀しい世界に感じるだろう。

私と、同じだ。

記憶のしがらみに ただ一人ぽっちに、泣くだけ。

ただ、孤独に放り込まれた身は 寂しさにきゅっと 押しつぶされてしまいそうになる。

助けてあげたい。

そう思った私は、手元にあった ナースコールのボタンを押した。

私は、動けないから。

最後まで見届けたかったけれど。

今は、私は私のコトで 精一杯だった。

*-*-*-*-*

程なくして、医師と看護師が 私の元に駆けつけた。

医師

目を覚ましましたか?

医師

気分はどうです?

医師

もう暫く安静にしていてくださいね。

医師は私の身体の心配だけをして そそくさと、忙しそうに 部屋から出て行ってしまった。

看護師は私の体調を看るために なにやら採血等の準備をしているようだ。

まみ

すみません…。

私は、看護師におずおずと訊ねる。

まみ

女の子

まみ

迷子みたいで…。

その言葉を聞いて 看護師は驚いたように私に顔を向けた。

看護師

もしかして…

看護師

記憶喪失ですか?

一言。私に、言う。

*-*-*-*-*

看護師

この子は

看護師

まみさんのお子さんですよ

まみ

えっ!?

私の心に、衝撃が走った。

私は結婚していて、 子どもも、居たんだ。

同時に、その心がカラカラに 渇いていることにも気が付いた。

大切にしていただろう夫と その子どもの記憶が 私の大脳皮質に存在していない事実が

その、虚無感が耐えられなかった。

女の子

ママ……。

女の子は、呟く。

女の子

死なないで……。

その言葉は、私のカラカラの心を ズタボロになるまで切り裂いた。

痛くて、痛くて、たまらない。

小さな女の子に心配させてしまった。

母親、失格だ。

まみ

死なないよ…。

まみ

大丈夫、だよ。

記憶は既にないけれど。

私は、この女の子を守ろうと。 そう、決心した。

*-*-*-*-*

看護師

それではまた

看護師

夕方ごろに伺いますね

看護師は、そう告げて。 私と女の子の、二人きりの空間を作った。

少し気まずいと、感じてしまう。

そんな自分が、情けないと思った。

まみ

ママね、記憶なくなっちゃって

まみ

ママにお名前、教えてくれないかな?

できるだけ、優しく。

ママの愛を、自分ながらに考えて。

泣き出しそうな女の子に尋ねる。

女の子

バカ……。

まみ

えっ…。

想定外の返答だった。

私がきょとんとしている間にも 女の子の、心の叫びが続く。

女の子

バカっ!

女の子

ママの、バカ!

女の子

ママなんて嫌いっ!

女の子

バカっ!バカっ!

泣きながら、私をグーで叩きながら 女の子は叫ぶ。

その叫び声は、私の耳に 痛いくらいに反響した。

女の子は自分の首に掛かる 可愛らしい巾着袋を取って 私に投げつけてきた。

女の子

もうママなんて

女の子

私のママなんかじゃない!!!

泣きながら。しゃくりながら。

女の子はそんな言葉を置き去りにして 部屋の外へ出て行ってしまった。

まみ

何よ……。

まみ

私だって、辛いのに。

強がっているけれど。 何故か、涙が止まらない。

私も、私がバカだと、思ってる。 そりゃ、思ってるよ。

悔しいくらい知ってるよ。

女の子の言葉が、まだ 身体中に、巡り巡る。

私は、ため息を吐いた。

まみ

これからどうしよう

私は、あの女の子のことも 私のことも知らない。

この状態で、何ができるのか。

分からない。

私には、分からなかった。

頭が、カラになる。

そういえば、と。

私の手元に落ちた 女の子の巾着袋の存在を 思い出した。

この中に、何が入っているのだろうか。

その好奇心に後押されて 私は、巾着袋の中を探った。

まみ

私の子だから

まみ

いいよね?

少しの罪悪感に苛まれたが その感情は、巾着袋の中に入っていた一枚の写真によって じんわりと溶けていった。

まみ

…………!!!

写真には、私と男の人。 そして、さっきの女の子が居た。

3人で笑いながら 幸せそうに、楽しげに映っている。

この写真を見た瞬間。

私の中に眠って居た

泣きたい程に、愛おしくて

泣きたい程に、残酷な

そんな記憶が、目を覚ました。

私の目から、涙が溢れた。

止まることのない涙が

ぼたぼたと。

私は、叫んだ。

まみ

咲っ………!!!

私は身体に接続されているチューブを 自分の手で無理やりに引っこ抜き ふらふらになりながら部屋を出た。

まみ

咲っ!!!

まみ

ごめんね、咲っ…!!!

広い病院の中、一歩一歩小さな歩幅で けれど、力強く歩き続ける。

私にはまだ、私の子どもを育てる 義務が残ってるんだ!

死んで、たまるか…!!

途中で医者や看護師に 安静にしててくださいと叱られた。

そんな言葉で諦める親が居るか!

バカな私だけど、 しょうもない私だけど。

そんなにバカじゃねぇよ!!!

バカだけど、バカなりに 子どものことを愛しているんだよ!!!

そう、心の中で叫びながら

私は半狂乱になりながら

咲を探した。

*-*-*-*-*

私がバカだった。

とんでもない、バカだった。

記憶を、思い出した。

夫は取引先に向かう途中 社用車のミニキャブシートで 息を引き取った。

玉突き事故だったらしい。

その事実を受け入れられない私は 自殺しようとした。

咲をこの世界に置いたままにして。

そして、記憶を失ったらしい。

とんでもなく無責任なことをした。

まみ

咲っ……!!

まみ

何処にいるの…!!

無責任な親だけど。 赦されざる大罪を犯した人間だけど。

咲は、許してくれるだろうか。

……いや、もう、いい。

許してくれなくてもいい。

周りに何言われようと構わない。

今は、咲の親として 咲をぎゅっと抱きしめてあげたい。

その感情が 満身創痍の身体を動かし続けた。

*-*-*-*-*

病院のロビーに、咲がいた。

咲は下を向いて 足をぷらぷらさせている。

拗ねているのだろうか。

私は一人ぽっちの咲に向かって

まみ

咲っ!!ごめんねっ!!

と、叫んだ。

咲はビックリした顔をこちらに向け すぐ頬を膨らました。

ママのバカっ

第一声は私への罵りだったけれど その言葉の中に、少しだけ 喜びの感情が混じっていた。

まみ

咲っ…ママが大馬鹿だった!!

まみ

ごめんね、本当にごめん。

まみ

愛してるよ。

私は咲をぎゅっと抱きしめる。

咲は苦しいよ、と言って 手足をバタバタさせる。

それが私の身体に当たって痛い。

痛いけど、幸せの痛みだ。

ずっと、この痛みを感じていたい。

まみ

咲……

まみ

私は咲のママ失格。

まみ

だけどね

まみ

私は咲のママであり続けたい!

私の、ママとしての気持ちを

咲に打ち明けた。

まみ

咲は、私がママでも、いい?

答えを待つのが怖かった。 もし、嫌だと言われたらどうしよう。

心臓がきゅるきゅると 絞られているようで、辛い。

ママ

咲は、言う。

おかえり。

私のママ!

咲はニコッと微笑んで、 泣いている私の頭を撫でた。

よしよし、ママ

泣かないで?

その言葉に 今までの罪が洗い流されていくような そんな錯覚を感じた。

まみ

ありがとう…咲っ

うん!

ママ

大好きっ

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