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ある小さな村に
1人の男が住んでいた
彼の名はジル
ジルは孤独な男だった
醜い容姿に貧乏な生活
彼は自分を変えたいと願っていたが
理想と現実のあまりの違いに落胆する日々を送っていた
そんな彼にも、唯一の楽しみがあった
同じ村に住むハンナだ
ハンナは、孤独なジルにも優しく接してくれる
それが例え情けであっても
彼にとっては何よりも嬉しいことだった
そしていつしか
欲が芽生え始める
ハンナを自分のものにできるなら…
ハンナはその明るい性格から、村の男からも人気があった
今のジルでは到底ものにできない
そこでジルは、東の森の魔女を訪ねた
願いを叶えてもらうため
東の森の魔女は
願い事1つにつき20年の寿命を差し出す事を条件に
聞き入れてくれた
「お前の持っている寿命は」
「40年と3日」
「さて、どうするかよーく考えな」
ジルの願いは2つあったので、両方叶えるとしたら40年の寿命を差し出すことになる
するとせっかく願いを叶えられても彼には3日しか寿命が残らない
けれどもジルは平気だった
失った寿命を元に戻す術を1つだけ知っていたのだ
幼い頃、祖父がしてくれた話
黄金に輝く架け橋の話
その架け橋に向かって1つ願い事を叫ぶと
どんな願いであっても 必ず叶う
そして話の最後には必ずこう言っていた
黄金に輝く架け橋は
実在すると
彼は考えた ハンナをこの手で幸せにしたい ハンナに見合う男にならなければ…
そこで魔女に40年の寿命を代償として差し出し
誰もが羨む程の「美しい容姿」と「財力」を手に入れた
村に戻ると ジルが住んでいた小屋は無くなっており
代わりに立派な豪邸が建っていた
広い庭には牛や豚が何頭もいて
たくさんの召使いに
馬車まであった
そしてジルが鏡を覗くと
醜かった容姿は見違えるほど美しくなっていた
ジルは満足した
今すぐにでもハンナを迎えに行きたかったが
彼には一刻の猶予もなかった
彼に残った寿命は3日
3日後には死んでしまう
ジルは自分の記憶をたどり
祖父から聞いた黄金に輝く架け橋の話を
ひとつひとつ思い出してみた
その架け橋はカルラの滝に現れる
光輝く虹
それが現れる条件などはない
滝壺にいつも発生している
そこにたどり着き、架け橋に向かって大声で願いを叫ぶと
どんな願いでも叶ってしまうのだ
願いを叶え終えると、その架け橋は姿を消す
いや、正しくは、 一度願い事を叶えてもらった者には
二度と見えなくなってしまう
ジルは急いだ
祖父から聞いたカルラの滝の場所は
ジルの住む村からだと少し遠い
馬車を使い急いだが
途中で険しい山道に入ってしまった為
馬車を捨て、自分の足で進んだ
寿命を差し出してから、1日が経っていた
道はどんどん険しさを増し、 足は傷だらけになったが
ジルは構わず先に進んだ
もはや立ち止まる時間すら勿体なかった
森の中をかなり進んだように思えたが
なかなか滝にたどり着かない
命を差し出してから2日目
ジルはかなり焦っていた
あと1日で
自分は死んでしまう
その時だった
…ザー………
遠くから水が勢いよく流れる音がした
「滝?!」
意識が朦朧としているなかで
確かに聞こえた
ジルは走った
身体中に出来た傷がかなり痛んだが
構わず音のする方へ足を進めた
そしてジルは
ついに見つけた
カルラの滝
そして滝壺には
美しく光輝く黄金の架け橋が
ジルはおぼつかない足取りで
もっと滝壺をよく見下ろせる場所へ近づいていった
なんて美しいんだ…
これで俺の寿命はもとに戻る
俺は
助かるんだ
その時
ジルは足を踏み外してしまい
そのまま転がり落ちてしまった
やっとの思いで枝を掴んだが
すぐ下は滝壺
落ちたら一溜まりもない
先程よりももっとよく黄金の架け橋が見えるようになったが
あんなに美しく思えたはずなのに
今はその姿が恐ろしく見えて仕方がなかった
枝は今にも折れそうだ
くそ、ここで終わりか
せっかくここまで来たのに
彼は力いっぱい叫んだ
「たすけてくれー!!!!!」
バキッ!
「…う…」
「ここは…どこだ?」
「確か、掴んでいた枝が折れて…」
「落ちた…はずなのに」
「ここは…元いた…場所?」
「そうだ、架け橋」
「黄金の架け橋は…!」
彼はフラフラと立ち上がり、 滝に近づき見下ろしてみたが
もうそこには
あの光輝く架け橋は存在しなかった
いや
ジルにはもう
見ることができなかった
ジルはその場に力無く座り込んだ
身体中にできた傷口からとめどなく血が流れる
だがジルは大声で助けを呼ぶことも
出口を探すために動こうともしなかった
無駄なことがわかっていたから
彼は木にもたれかかり
目を閉じた
そしてそのまま
彼がその目を開けることはなかった
寿命を差し出してから
3日後のことだった