いつの日かの迎え

僕の趣味は街巡りだ

俗に言う地方や裏路地なんかを歩き回って、素敵なお店を発見する

アンティークなものが好きだから、そういうところにはそういうお店が多いのだ

今日もお気に入りの帽子を被って、お財布や飲み水なんかを鞄に入れて、玄関へ

ガチャリと扉を開き、明るい外へと飛び出した

るんるんでアスファルトを歩き、いつもとは違う道を行く

電柱の根元に咲くお花に癒されたり

仲良く歌う小鳥たちを眺めたり

僕は街の喧騒を避けるように、落ち着いた路地裏へと足を進めた

木でできた暗くとも穏やかな印象を受けるアンティークショップ

何か素敵なものがあるような気がして、吸い込まれるように店へ入る

リンリンリン

扉を開けると、小さくベルの音が鳴った

そこにいたのは、ものすごく可愛い女の子…

ではなくて、人間でもなかった

猫耳みたいなものが生えたその子の関節は球体で繋がっていて、動くたびにキリキリと音が鳴る

裸足なのに足音は革靴のような音で、なんだか硬い動き方だ

キリキリ、カツカツ、色々な音を立てながら、東京は僕に近づいてくる

確かに、普通なら動く人形なんてホラー映画の題材にもなるくらい怖いことなんだろう

でも、実際目の前にいる東京は違った

細くてすらっとした手足に、少し機械っぽい声

シャツ一枚だけだから露出が多くて、少し…

その、センシティブというか…

少なくとも、売れ残っていることが勿体無いくらい可愛いと思った

東京はキョトンとして、キリキリ言いながら動く尻尾のようなものを揺らしている

目線を逸らし、東京は胸の前で手をぎゅっと握る

相当ひどいことを言われ続けていたのか、全く自信がないみたいだ

肯定するのはこの子の価値を低く見ることと同じだ

でも、僕はすごく安心してしまった

店主さんは優しそうなおじいさんだった

東京の頭を撫でて、僕に向き直る

そう言って東京の手を握る

冷たくて硬いけど、小さくて守りたくなる手だった

東京は心底嬉しそうに笑って、僕の手をぎゅっと握り返してくれる

12万円…

大体自転車と同じくらいでこの子が買えるなら、安いものだと思う

むしろ、そんなに安くて大丈夫なのか気になる

人形だから涙は流れないのかもしれない

だけど、東京が泣きそうな顔をしているのはよくわかった

キリキリ、カツカツと音が鳴る

ぎゅっとレジン製の腕で抱きしめられ、大阪と同じくらい小さな東京を抱きしめ返した

それからの僕は、バイトに明け暮れた

休日にもシフトを組んで、ずっと働いた

あの子を買うのを待ってもらっているのだから、適正価格で買ってあげたかった

人工知能が搭載された、動く球体関節人形

ただでさえ手のひらサイズのお人形だって一万円以上するのに

人と同じくらいのサイズで、尚且つ人と同じくらい賢い人工知能

12万円なわけがない

あの子を待たせてしまうのは胸が痛い

これは気持ちよくお迎えしてあげたいという、僕のわがままだ