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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

夜勤の仕事は得意だった。

入社したての頃は、 夜勤形態を推進しているこの会社で 生涯働いていこうと思っていた。

しばらく経って、 この会社は自分に合っていないのかな と、考え始めた。

ようやく業務に慣れてきたかと思えば、 後から入社してきた後輩たちに どんどん仕事で抜かれていき

ついにはそいつらにも

出世競争で負けてしまうようになった。

また**さんのせい?

**さんって使えないよね

時々、悪口も聞こえた。

俺はそういう なんとなく嫌なプレッシャーを 抱えながら

面白味のない仕事をする日々を 過ごすことになった。

仕事に対する情熱とともに、

俺の仕事はだんだんと減っていった。

少しずつではあるが、 確実に「会社のお荷物」と 見做されるまで落ちこぼれていった。

自分のスペックが 足りなかったという訳ではない。

ただただ、運が無かっただけ。

そう考えれば、少しでも気持ちが楽になっていくような気がした。

いつしか自分の後ろ側には、 背後霊のような気味の悪い哀愁が ぐるりとまとわりついていた。

後輩から合コンに誘われた。

先輩にはかなりお世話になったので、 そのお礼に。

とのことらしい。

恐らく数合わせと引き立て役のため、俺をキャスティングしてきたのだろう。

陰気に沈んでしまった俺には そう思うことしか出来なかった。

合コンは最悪だった。

当然のことながら、 若い女の子にチヤホヤされるのは 後輩の彼だけ。

俺はその隣でちびちびと アルコールを啜っているだけだった。

それはそれで。 まぁまぁ美味しいお酒が飲めていたので、俺は文句の一つも無かったのだけれど。

唐突に、ある女の子から

**さんって、ヒラなんですねぇ

と、言われてしまったのだ。

その瞬間、今まで積み上げてきた俺のプライド全てがボロボロ零れ崩れていくような感覚に陥った。

ナイーブな話題を **さんに振っちゃダメだって!

と、俺のことを小馬鹿にするように、後輩はヘラヘラと笑って言った。

俺は、酒に酔いフラフラしている後輩の姿を、泣きそうになるのを堪えながら必死に強く睨みつけた。

同時に、自分はもうこの会社には必要ないのだと、改めて悟ることになった。

辞表を出すつもりで会社に向かうと、今週入社したばかりの女の子が

先日はありがとうございました!

と、感謝を告げてきた。

身に覚えはなかったが、いつの日か俺は仕事で困っている彼女を助けていたらしい。

**さんって お仕事お辞めになるんですか?

彼女は続けて、そう言った。

ああ、もう既に噂になっていたのかと驚き半面呆れてしまった。

俺は彼女の質問に対して、小さく頷く。

どうして **さんみたいに

仕事のデキる方が 辞めちゃうんでしょうか?

彼女は寂しそうな声を出した。

彼女の顔を覗くと、本当に悲しそうな表情を浮かべていた。

それはそれは皮肉めいたセリフだったのだが、その彼女の言葉にはそういう嫌味たらしさをまるで感じなかった。

俺は誰かに 頼られたかったのかもしれない。

彼女に励まされて 俺はもう少し頑張ってみようと思った。

彼女は事務員として働いていた。

事務で分からないことがあれば、俺は積極的に彼女に聞くことにした。

また彼女も、会社の中で分からないことがあると、俺に質問しにきてくれた。

心地いい関係だった。

仕事帰りに、一緒にご飯を食べに行く仲にもなった。

その時は毎回、あれやこれやと会社の愚痴を言い合って、趣味の話で盛り上がって、恋愛話に花を咲かせた。

彼女と話すと、 どこか気持ちが穏やかになった。

俺はそんな彼女のことを。

いつしか好きになっていった。

ついに俺は彼女に告白した。

彼女は驚きながらもぴょんぴょん跳ねながら目一杯に喜んでくれた。

めでたくも俺たちはすぐに結婚し、多くの子どもを授かった。

幸せってこういうことを言うのか。

俺は初めて仕事していて 良かったと思えるようになった。

ただ一つ、不幸があった。

会社の方針で、夫婦共に同じ部署で働くことが赦されていなかったのだ。

そのため、能力の低い俺が、違う部署に飛ばされてしまうことになった。

その部署は 通称『窓際』と呼ばれていた。

俺の苦手な、日勤の職場。

昇進はおろか 昇給もないと言われている所だ。

色々な奴らから

『窓際』だけには近付くな ヤバい奴らがいっぱいいるぞ

と言われていたので、 異動が決まってから覚悟していた。

窓際の連中は 何かにビクビクしているような そんな奴らばかりだったが

特段目立つ様なヤバい奴は いなかった。

ここなら生涯働けそうだ。

俺はそう思った。

昔の俺であれば、この湿っぽい職場の中、希望を持たないまま生きていただろう。

けれど、今は違う。

守るべき家族が居て 明るい未来がある。

『窓際』に飛ばされたとしても 俺は精一杯生きる。

周りの奴らが 何にビクビクしているか分からないが

俺は彼女と共に生きるために 仕事がしたいのだ。

俺は仕事をするために 周りの草を除けようとしたら

黄金色に輝くネット状の繊維が 頭の上からフワリと舞い落ちてきた。

玲奈

ママー!

あら、どうしたの?

玲奈

虫、捕まえた!!

あら、コオロギだわ

夜行性って聞くけど

昼間にでてくるなんて珍しい

玲奈

お母さん詳しい!

ぴょんぴょん跳ねてて

可愛いわね

玲奈

ねー!

どこに居たの?

玲奈

んーっとね

玲奈

ここ!

玲奈

窓際の草むらにいたのー!

TELLER文芸部 お題 「付き合い 秋」

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コメント

4

ユーザー

思わず最初から読み直してしまいました!社会人なら共感できる気持ちと家族のために頑張る男の姿と「窓際」で明かされる正体… 叙述トリック……素晴らしいです…!

ユーザー

「窓際」って、そういう意味だったんですね!! 哀愁漂うお話からの、親子の日常。立場が変わると、物語は大きく変わりますね💦 深いお話でした!!

ユーザー

ひとつひとつの文字を今の自分の感情と重ね合わせて丁寧に指でなぞるようにして自分の中に落とし込むように読み進めて行ったんです、善人ほど仕事が長く続かないのは世の常なのか…とか思いながら………やられました笑まさか最後そうなるとは! 昆虫社会も人間界と同じなんですね! 仕事の事で悩んでいましたが、元気が出ました。ありがとうございます😊

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