――深夜、校舎裏のベンチにて。
制服姿のないこが、体育館から流れる音楽をぼんやりと聞いている。そこへ、いふがジュース片手に現れる。
いふ
……おった。やっぱりここやな
ないこ
……なんでわかったの
いふ
おまえが逃げたそうな顔しとったからや。あのパーティ、よう耐えられたな
ないこ
王子様の仮面、重かった
いふ
仮面舞踏会いうても、おまえほんまに王子役やったな。女子から花束もらって、男子にまで告られて……はは、どないやねん
ないこ
笑えないって
いふ
そやけど、おまえは綺麗やった。まるで……シンデレラやな
ないこ
俺は男だよ
いふ
せやな。でも、“夢”みたいな時間やったんやろ?
ないこ
……ちょっとだけ、ね。現実じゃないってわかってたから、逆に笑えてきた
いふ
ほな、なんで逃げてきたん?
ないこ
十二時の鐘が鳴る前に、元の俺に戻りたかっただけ
いふ
ガラスの靴、置いてへんかったか?
ないこ
……俺の靴、地味なスニーカーだから
いふ
それでもええやん。おまえが、誰かの“憧れ”になったんは事実やで
ないこ
そんなの……怖いだけだよ
いふ
ほな、怖ない相手やったら……どうする?
ないこ
……例えば?
いふ
例えば……俺とか
沈黙。ないこはジュースを受け取って、ちびちびと飲む。少しだけ、顔を赤らめながら。
ないこ
……また冗談でしょ
いふ
冗談やったら、こんな夜に探しに来へんわ
ないこ
いふは……ほんと、ずるいよ
いふ
ほな、ずるい男に惚れられたシンデレラボーイは、どうすんの?
ないこ
……ちゃんと、靴渡してあげるよ。俺のじゃなくて、心の方
いふ
ほんまに……ええんか?
ないこ
うん。現実でも、ちゃんと好きでいてくれるなら……それでいい
――遠くで、パーティの終わりを告げる音楽が止む。
ないこが立ち上がり、いふの方に小さく微笑む。
ないこ
ねえ、いふ
いふ
ん?
ないこ
おとぎ話の続き、ふたりで書こうよ
『シンデレラボーイ』