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第1話 - あ

2023年06月22日

#恋愛

結城真矢

ナカ

ヨシ、なんだこの弁当は？味の友使ってるじゃねーか。

ヨシ

え？

ナカ

だから、ほうれん草のおひたしに味の友使ってるだろ？

ヨシ

うん。使ってるよ。

ナカ

お前なあ、俺を不健康や馬鹿舌にする気か？

ナカ

それでも主婦かよ？

ヨシ

確かに味の友を使っているけど、ほんのりわかる程度よ。

ヨシ

それに、味の友は化学調味料って批判を浴びているけど、

ヨシ

昆布から抽出したうまみ成分で、化学調味料じゃないんだよ。

ナカ

はあ？

ナカ

お前、本当に無知で馬鹿舌なんだな。

ナカ

味の友は経済を優先して日本人の舌と健康を害する毒なんだよ。

ナカ

俺もおふくろからそう言い聞かされて育ってきたんだ。

ナカ

だからおふくろは昔からの方法で出汁を取り、味付けも

ナカ

素材の風味を生かしたものだったんだ。

ヨシ

確かにお義母さんの料理はとても美味しいけれども、

ヨシ

そんな昔ながらの方法で出汁を取ったり料理する時間はないのよ。

ヨシ

あなたと同じくらい働いているでしょ。

ヨシ

繁忙期は残業だってあるのよ。

ナカ

おふくろは毎日きちんと出汁を取っていたぞ。

ヨシ

は？いきなりお義母さんの話？

ナカ

おふくろはなあ、去年いっぱいで定年退職したんだが

ナカ

若い頃からついこの間まで会社の第一線で働いていたんだ。

ナカ

いわばキャリアウーマンの走りの存在なんだよ。

ヨシ

それは知っているわよ。

ナカ

そんなおふくろは、仕事で多忙でも家事は一切手を抜かなかった。

ナカ

さらには俺達兄弟の子育てに、ばあちゃんの介護もしてたんだ。

ヨシ

それも聞いてるよ。本当に凄い人よね。

ナカ

だろ？そんなおふくろを見習おうとは思わないのか？

ナカ

食事はもちろんだが、俺が学校から帰ってきたら

ナカ

いつも上手い手作りおやつが用意してあったんだ。

ナカ

家だっていつもピカピカで綺麗だったんだぞ。

ナカ

それに引き換え、お前はどうだ？手作りおやつ作った事あるのか？

ヨシ

家事も私なりに一生懸命やっているのよ。

ナカ

どこがだ？家は常に散らかってるじゃないか。

ヨシ

それはあなたが服を脱ぎっぱなしにしているし、

ヨシ

趣味の道具も使ったまま片付けていないからでしょ。

ヨシ

そもそもお義母さんは確かに凄かったけど、時代は違うの。

ヨシ

男のあなただって家事は分担するべきよ。稼ぎも同じだし。

ナカ

はあ？

ナカ

おふくろはな、親父が家事をしなくても一切愚痴なんて

ナカ

言わなかったぞ。

ナカ

むしろ家事は男はやるべきじゃないとも言ってたし。

ヨシ

だから時代や価値観が違うんだって。

ヨシ

今は男も女も同じように外で働いて、家の事をやるべきよ。

ナカ

何度も言わせんな。俺はおふくろを見習えって言ってんだ。

ナカ

だから家の事も、子どもが生まれたら子育ても全部

ナカ

お前が完璧にやるんだよ。同居しないだけありがたく思え。

ナカ

それが我が家の家風だ。納得いかなかったら出ていくんだな。

ヨシ

そこまで言う？

〜1週間後〜

ナカ

おいヨシ。

ヨシ

あら、今飲み会終わったの？

ナカ

いや、これから2次会に行くんだ。

ヨシ

そう。あまり飲み過ぎないようにね。

ナカ

今度同僚の子ども預かる約束したんだよ。2歳の男の子。

ヨシ

は？

ナカ

俺もそろそろ子どもが欲しいって言ったらさ、

ナカ

子どもがいる同僚と話が盛り上がってさ。

ナカ

だから今度預けさせてくれないかって頼んだんだ。

ヨシ

いきなり何を言ってるの？

ヨシ

私達、子どもがいないからもちろん子育てした事ないし。

ヨシ

甥姪だって預かった事ないでしょ？

ヨシ

いきなり2歳の子の面倒見切れるの？

ナカ

何言ってんだよ。お前が同僚の子の面倒を見るんだよ。

ヨシ

えっ？どういう事？

ナカ

俺たちも今後は子どもを持つ予定だろ？

ナカ

だから、お前に子育ての練習をさせてやろうと思ってさ。

ヨシ

あのさ、子どもはいずれ欲しいって考えているよ？

ヨシ

でも、他人の子どもで子育ての練習したいなんて思ってない。

ヨシ

あなたの同僚にも失礼だよ。断ってよ。

ナカ

はあ？同僚もいいって言ってくれたぞ。

ナカ

むしろどんどん練習してくれってさ。

ヨシ

いやいや、その同僚、本当に人の親なの？

ヨシ

ただの同僚、しかも子どもがいない相手に子どもを預けるなんて。

ヨシ

しかも2歳ってまだまだ目が話せないでしょ？

ナカ

親がいいって言うんだからいいじゃねえか。

ナカ

同僚は可愛い盛りで手もかからないってさ。

ナカ

練習にはちょうどいいじゃねえか。俺も男の子欲しかったし。

ヨシ

何その言い方。物を借りる訳じゃないのよ。

ナカ

お前さあ、本当に子どもが欲しいのかよ。

ヨシ

自分の子と他人の子は違うでしょ？

ナカ

俺の同僚が善意でお前に母親の練習をさせてくれるんだ。

ナカ

ありがたく受けろよ。

ヨシ

自分の都合で、余所のお子さんを預かれないと言いたいの！

ナカ

あのな。おふくろは近所の子も叔父さん叔母さんの子も

ナカ

文句一つ言わず、むしろ進んで面倒みていたぞ。

ヨシ

そう、お義母さんはやっていたの。

ナカ

ああ。家には常にいとこや近所の子がいたもんだ。

ヨシ

おふくろが面倒を見ていたのはもちろんだが、

ナカ

俺も一緒に遊んだりしたもんだ。

ヨシ

ならあなたは手慣れたものなのね。

ヨシ

あなたが同僚の子を見たらいいじゃない。

ナカ

経験のないお前に練習させてやろうって言うんだ。

ヨシ

だから私は無理だって。

ナカ

やらないうちから無理なんて言うな！おふくろはやってたんだ。

ヨシ

何でもかんでもおふくろはやってたばっかり。

ヨシ

確かにお義母さんはできたでしょうよ。

ヨシ

でも私だって、できる事とできない事がある。

ヨシ

子どもだって他人の子で練習以前に、無事に産んで育てられるよう

ヨシ

環境や仕事を調整していかなくちゃいけないの。

ヨシ

貯金も思うようにできていないんだから。

ナカ

お前のそういう何でも言い訳する性格にはうんざりだ。

ヨシ

言い訳って、あなただって私の状況も考えずに

ヨシ

お義母さんを引き合いに出して無茶振りばっかりしてくるでしょ？

ナカ

ああそうかよ。お前がそこまで言うなら俺も考えがある。

ナカ

俺の親と同居する。

ヨシ

はあ？

ナカ

前から考えていたんだ。いい機会だから近日中に同居だ。

ヨシ

ちょっと待ってよ。いきなり同居だなんて。

ナカ

俺の子どもの頃はばあちゃんが家にいたぞ。

ナカ

それも結婚したと同時に同居していたんだ。

ナカ

親父もおふくろもまだ元気だぞ。

ナカ

まだ介護もないんだから楽なもんだろ。

ナカ

むしろおふくろから嫁としての仕事を教えてもらえよ。

ヨシ

そんな事言われたって、同居はないって話だったのに。

ナカ

お前の嫁としての体たらくを見ていたら考えが変わったんだ。

ナカ

文句あるんなら離婚だな。

ヨシ

はあ？

ナカ

今度はお前と違って、男の子を産んで家事も育児も完璧な

ナカ

キャリアウーマンを嫁にもらうわ。

ヨシ

そう。ならお義母さんに相談しなくちゃね。

ナカ

おう。きちんと三つ指ついて、嫁の心得教えてもらえよ。

ナカ

同居はむしろ遅いくらいだったかもなあｗｗｗ

ナカ

おふくろの機嫌を損なわないように

ナカ

しっかりと嫁の努めを果たすんだな。

〜翌日〜

ヨシ

ナカ、返事して。

ナカ

なんだよ、ヨシか。もう少し寝かせてくれよ。

ヨシ

やっと返事を返してくれたわね。電話しても全然でないし。

ナカ

昨夜は同僚と遅くまで飲んでたんだ。

ナカ

今日は会社休みなんだから別にいいだろ。

ナカ

と、言うかお前でかけているのかよ。

ヨシ

ええ。私も会社休みだし。今あなたのお義母さんと一緒にいるの。

ナカ

ああ。昨日言っていた通り、おふくろに三つ指ついたのか？

ヨシ

突くわけないでしょ？

ナカ

はあ？お前ふざけんじゃねえぞ。

ナカ

今からでも遅くない。おふくろに三つ指ついて

ナカ

同居して嫁として教育してくれって願い出るんだな。

ナカ

そうじゃなきゃ、離婚だぞ。

ナカ

俺たちもいずれ子どもを持つ予定なのに、ヨシがこんな

ヨシ

いいわよ。別に離婚でも。

ナカ

へ？

ナカ

お前、それ本気で言っているのか？

ヨシ

うん。あなたが私を昭和じみた嫁としか見ない限りはね。

ヨシ

あ、専業主婦じゃなくて、仕事もさせるから余計に酷いわね。

ナカ

あのな。おふくろはバリバリ働いて、その上で家事も育児も

ナカ

完璧にこなしていたんだ。

ナカ

お前だって、努力したらできるはずなんだよ。

ヨシ

あなた、それ本当に言ってるの？

ナカ

当たり前だろ？

ナカ

俺は子どもの頃からおふくろの働きを見てきているんだ。

ヨシ

お義母さんから聞いたけど、

ヨシ

料理はおばあさんとお義父さんが作ってたんですって。

ナカ

へ？

ヨシ

ちなみにおばあさん、味の友もよく使ってたみたいよ。

ヨシ

あと、掃除はお義父さんか時々叔母さんがやってたみたい。

ヨシ

だから叔母さんの子ども、つまりあなたのいとこの面倒を

ヨシ

お義母さんが手が空いた時に見ていたそうよ。

ナカ

まさか。

ヨシ

まさかって、お義母さん本人が言ってるんですもの。

ヨシ

後で自分で聞いてみたらどう？

ナカ

そんな。おふくろは仕事も家事も子育ても完璧なんだ。

ヨシ

それなんだけど、お義母さん、家事苦手なんですって。

ナカ

へ？

ヨシ

でもお義父さんとおばあさんが、家事は自分たちがやるから

ヨシ

仕事を第一に考えていいから結婚してくれって言われたから

ヨシ

結婚して子どもも産んだんですって。

ナカ

うう。まさかおふくろが家事苦手だったなんて。

ナカ

俺が食っていた飯はばあちゃんが作っていたのか。

ナカ

じゃあ、なおさら同居した方がいいよな。

ヨシ

は？なんでそんな発想になるの？

ナカ

だから、今度はお前がバリバリ働いて、家事はばあちゃんか

ナカ

親父にやってもらったらいいじゃんか。

ナカ

子どもはおふくろに見てもらえばいい。

ヨシ

お断りします。いいえ、ますます離婚の意志が固まったわ。

ナカ

へ？

ヨシ

家事や育児にあなたはまったく参加せず、

ヨシ

私や自分の親や祖母に任せようなんて人とやって行けません。

ナカ

何言ってんだよ。

ナカ

苦手だったら得意だったりやる気がある人がいる。

ナカ

家はそうやって回ってきたんだから、俺たちもそうすれば

ナカ

いいだけの話じゃないか。

ヨシ

それが結婚前に話し合った結果なら良かったかもしれない。

ヨシ

でもあなたは勝手に良妻賢母を私に押し付け、

ヨシ

自分は一切家事育児に参加しようとする気はない。

ヨシ

それが私には受け入れられないの。

ナカ

それは謝る。すまなかった。

ナカ

今後は俺も家事を手伝うからさ。

ヨシ

手伝う？やっぱりあなた何もわかっていないのね。

ヨシ

お義父さんもお義母さんも怒っているわよ。

ナカ

へ？

ヨシ

今から家に来いってさ。今後の事を話し合いましょうか。

ナカ

そんな。離婚って事はないよな？

ヨシ

さあ。それは話し合い次第って事かしら。

ナカ

すまなかった！

〜後日談〜

ヨシ

その後慌てて義実家へ来たナカは、義両親から絞られました。

ヨシ

ナカは私に頭を床にこすりつけて誤り、家事も子どもが生まれたら

ヨシ

育児もするから離婚はしないでくれと懇願してきました。

ヨシ

ですが私は信用できず、ひとまず別居という形で収まりました。

ヨシ

ナカは義実家で義父と義祖母にビシバシ鍛えられているそうです。

ヨシ

ちなみに同僚の子どもを預かるという話は、

ヨシ

当然ながらナシになりました。

ヨシ

同僚もヨシと同じ思考だったみたいで、同僚の奥さんが激怒。

ヨシ

あちらも離婚問題にまで発展しているそうです。

ヨシ

私はというと、一人暮らしの快適さを再確認している最中です。

ヨシ

義両親からは好きにしていいと言われているので、

ヨシ

例えヨシの家事能力が完璧になったとしても、復縁は

ヨシ

しないかもしれませんｗｗｗ

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