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だからといって、もう一度、自殺を計画するだけの気力は残っていなかった。
嫌でも生きるしかない。 少し考えることにした。
いくらでも時間はあるのだ。
死ねないなら
→ 生きるしかない。 → このままというわけにはいかない。 → 日常に戻るために何をする?
そこで、ここまで落ち込むこととなった原因に着目した。
一、家族とのいざこざ。 二、会社で起きた過剰ストレスとその蓄積。 三、当時飼っていた猫との別れ。
大きく分けて三つあった。
この問題に対して、どうしていくべきかを項目ごとに分けて考えていった
一、家族との問題は、割り切るしかない。 これ以上、考え続けても苦しむだけだ。 二、会社で起きた問題も今は休職しているので、 ひとまず保留することにした。 三、同じ猫は難しくとも、 似た猫を探せば気持ちは落ち着くのではないか。
一番と二番は、これ以上考えても時間の無駄になるので、 三番にフォーカスした。
ひとまず心療内科に通うことで、 落ち着きを取り戻していった俺は、 以前飼っていた猫を似ている猫を探し始めた。
雑種だったため、ペットショップにはいなかった。
そこで、猫カフェに行ってみることにした。
ひとくちに雑種の猫といっても、それぞれ個性がある。
似ている子が簡単に見つかるはずもない。
最寄りの駅から行けるところは片っ端から潰した。
猫カフェに行けば行くほど、 言いようのない虚しさだけが積み上がっていった。
仕方なくインターネットを使い、 いろいろ検索するも、なかなか見つからない。
根気のいる作業だ。
でも、諦めることはしなかった。
飼っていた猫を自分で手放しておきながらおかしな話だが、 誘拐された子供を探しているような感覚だった。
暇を見つけては、インターネットでサーチを繰り返し、猫探しに奮闘した。
SNSでのやり取りを含めたら、膨大な時間を費やしたが、 なぜかここで諦めたら、自分は次に行けない気がしていた。
そんななか、あるホームページに辿り着いた。
保護猫を紹介するサイトだった。 たくさんの種類の猫が掲載されていた。
さまざまな事情を抱えた数多くの猫が、そこにはいた。
生まれて間もない子猫から大きく育った 成猫はもちろん、 怪我した猫や目の見えない子まで色々だった。
そこにツキはいた。
当時、ミカンという名前で施設では呼ばれていた。
飼えるか不安だったが、ひとまず会いに行く(お見合いする)ことにした。
ここまでの道のりは、長かった。
ホームページを見つけても、すぐに連絡することができなかったのだ。
うつ病の自分が猫を迎えても育てられるか不安だったし、 ちゃんと面倒を見られる自信などなかったからだ。
しかし、そんなことは関係なく、 ホームページを見るたびに「里親決定」という文字で埋まっていく。
猫に会う前に、まるで別れを宣告されるかのような感覚になった。
この葛藤が何日も続いたが、ある日、耐えきれずに施設に連絡した。
心音
快く受け入れてくれた。
今、思えば、うつ病をわずらい、 酷い身なりをした俺をなんらためらうことなく施設に招き入れ、 猫を託してくれたのは、奇跡としか言いようがない。
それほど、当時の俺は、心も体も見た目もボロボロだった。
施設に足を踏み入れると、たくさんの猫がそこには保護され、 楽しそうに遊んでいた。
その奥を見通すと、一匹だけ、部屋の隅に隠れ、 ブルブル震えている猫がいた。
ツキだ。 名称の由来は、幸運をもたらす「ツキ(運)」から来ている。 そして、「夜空に浮かぶ『月(ツキ)』 のように美しく輝いて欲しい」という思いが込められている。
当時のツキは、保護されるまで、人間の子供にいじめを受け、 砂団子を食べさせられ、石を投げられた経験が、 深い心の傷跡になっていたようだ。
理由を聞くと、3匹の子猫を抱える母猫だったため、 子猫を置き去りにして自分だけ逃げるということができなかったという。
🐾
家族が安心して生活できる環境ではなかった。
だからと言って、子猫三匹を抱えながら、遠くに引っ越すこともできない。
この場所であれば、一年は過ごしてきたし、 悪ガキさえ注意しておけば、子供たちを守っていける。
餌は十分ではなかったけど、子猫の分は確保できる。
最悪、わたしが我慢すればいい。
可愛い子猫たち。
わたしの宝物。
わたしは何をされてもいい。
でも、子供たちだけは………。
しかし今日もイジメっ子は、やってくる。
いつもの五人組だ。
片手には木の棒を持ち、もう片手には大量の砂利。
どんどん近づいてくる。
体の震えが止まらない。
体を盾にし、防御することで精一杯で、逃げることができなかった。
そんな状況のなか、わたしたちは 施設の人に保護された。
しかし、その施設でも馴染むことはできなかった。
🐾
保護されてすぐに、ツキは子猫たちと、仲を引き裂かれることになった。
子猫は、「里親募集」に出すと、すぐに 里親が決まってしまうからだ。
生まれて一歳そこそこのツキは、 体を張って三匹の子猫を守ってきたにもかかわらず、 人間の都合で子猫たちと会えなくなってしまった。
ツキの心情を考えると、胸が引き裂かれる思いだが、 自分にはどうすることもできなかった。
それでもツキは母猫だったということもあり、母性本能が働いたせいか、 ほかの先輩猫より面倒見が良かったことが災いすることになる。
別の子猫たちの面倒を見る光景が先輩猫には許せなかったようで、 ツキは居場所を失った。
結果、自分の寝床から出ることができず、膀胱炎を発症してしまった。
そのような不運がいろいろ重なり、 俺が会いに行ったときも震えが止まらなかったのかもしれない。
それが、ツキとの出会いだった。
#警察官
雨音
121
#BL
コメント
3件
いやあ、この第3話、本当に心に沁みました…。「♡♡♡ないなら生きるしかない」ってところから始まって、猫探しに執念を燃やす主人公の姿に、切実さがひしひしと伝わってきました。「諦めたら次に行けない」っていう感覚、すごくわかります。そしてツキのバックストーリー…子猫を守ろうとして自分が傷つく母猫の姿、読んでて胸が詰まりました。傷ついた者同士が出会うって、こういうことなんですね。続きがすごく気になります!