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夏姫
放課後の教室 何気ない顔で聞いたつもりだった 窓の外は、薄く曇った空
黒板を消していた盧笙先生が、手を止めた
躑躅森盧笙
夏姫
軽く笑って誤魔化した ──嘘。 ほんとは、ずっと考えてた 私は人前で話すことができない それでも否定なんてせずに優しく私を受け入れてくれた人 優しくて、近くて、でも──遠い人
躑躅森盧笙
夏姫
躑躅森盧笙
黒板消しを置く音が、 私と盧笙先生しかいない教室に小さく響く
躑躅森盧笙
その言葉に、胸が跳ねた ──ああ、やっぱり この人だ そう、思ってしまった
夏姫
それだけ返して、視線を逸らす 言えない 言ってしまえば今の関係ではいられなくなってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい でも....
夏姫
呼んでしまった
躑躅森盧笙
夏姫
喉が、詰まった それでも、絞り出す
夏姫
少しだけの沈黙 多分、ほんの数秒しか経っていないのに私には数分に感じられた
躑躅森盧笙
その答えは、あまりにもあっさりしていて私は驚いた
夏姫
思わず聞き返してしまった
躑躅森盧笙
躑躅森盧笙
躑躅森盧笙
軽く言ったはずのその言葉が、まっすぐ私の胸に深く突き刺さった
夏姫
わかってた そんなの、最初から それでも、どこかで期待していた 違う答えを
躑躅森盧笙
そう言って、また黒板に向き直る その背中が、やけに遠い ──ああ これで、はっきりした この人は、私の“運命の人”かもしれない でも── 私は、この人の“運命の人”じゃない それだけのことだったのだ
夏姫
悲しさを誤魔化すために小さく笑った ちゃんと、いつも通りに
夏姫
躑躅森盧笙
いつもと同じ声でいつもと同じ距離 変わらない、はずなのに 教室を出た瞬間、息が白くなった 冬の空気が、やけに冷たい 見上げた空には、まだ満月にはなっていない月が浮かんでいた ──満ちない どれだけ願っても、どれだけ想っても あの人の中で、私は“そこ”には一生届かない
夏姫
ぽつりとこぼれた声は、すぐに掻き消された それでも足は止まらない 止まったら、戻りたくなるから 好きなままでもいい、忘れなくてもいい ただ── この想いだけは、ちゃんと終わらせる 満ちないままの月のように 静かに、欠けていけばいいと静かに思ってしまった
コメント
1件
うわあ……胸にくるなあ。 「運命の人」だと確信したけど、「運命の人じゃない」って自分で宣言するしかなかった夏姫ちゃんの心情が切なくて、痛いくらい伝わってきました。 先生の「どうもできへん」のあっさりした返しが逆に優しさでもあり、距離でもあって——その後の満ちない月の比喩、すごく好きです。 作者さんの繊細な言葉選びが、恋の終わり方の静かさにぴったり合ってた。続きもじっくり味わいたくなります🌷
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