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絆創膏の張り方と、剥がすタイミングを見極めるのだけが上手くなっていく
でも透明人間の世界に行けたなら私はもう傷を負わずにすむ
……本当に十三怪談なんてものがあったらの話だけど
駐輪場に自転車を止め、深夜二時の空気を静かに吸い込んでから、旧校舎に向かう
手の震えはまだ止まらない――怖いならやめればいいのに
理屈では分かっているのにどうすることもできないから、支離滅裂な日なのだ
かくして旧校舎への潜入は、驚くほどとんとん拍子に進んだ
そもそも入り口に鍵がかかっていなかったのだ
疑問を感じつつも、私の足は止まらない
階段を封鎖する注連縄をまたいで、どんどん進む
千切り捨てられたお札が散らばった踊り場を無視して、どんどん進む
……正直、気味が悪いと思ったけれど、それだけだ
精神的に追い詰められている感触は確かにあるけれど、しょせんはただの演出だ
――今もなお体中でうずく傷の痛みに比べれば、我慢できないほどでもない
しかし、さすがの私も「赤い扉」を目の当たりにした時は、足を止めてしまった
だって問題の扉ときたら"明らかにこの世の色ではなかった"んだもの
不気味というより、ただひたすらに不自然――ペンキみたいなちゃちな赤ではなく、もっと深いところから来たものだと本能的に感じさせる、そんな赤
支離滅裂だった思考も一気に落ち着きを取り戻して、「引き返そう」という現実的な考えが脳裏をよぎる
でもそれはできなかった
第一に、足がすくんでいるから
第二に、何者かの"よくない気配"を背後から感じていたから
前に進む無謀さはあっても、後ろを振り返る勇気などない
そして第三に、戻るという選択肢が、そもそも私にはなかった
ここで戻ってしまったら、またあの日常を繰り返すことになる
やりたいことも、楽しいこともなく、友達もいない、つまらなくて息苦しい日常に
新しく傷を負わされるだけの日常に
ならばこの状況こそ、私が望んだものではないのか――私の人生を根底から覆してくれる、想像を絶する何かが、この先に待ち構えているのではないか
違う世界へと続く扉が手の届くところにありながら、何もせずに逃げようというのか
すくんでいた足は、前へと進んだ
汗で滲んだ掌で、そっと扉に触れる
鈍重で、じっとりした感触は、意外にもあっさりと払拭された
ノブを捻った向こう側、そこで私を待っていたのは――
常軌を逸した赤
明らかにこの世の摂理からかけ離れた色
そんな扉の向こう側だから、きっととんでもない光景が広がっているのだろうと私は覚悟を決めていた
だが現実
だが現実としてそこにあったのは、なんのことはない、想像通りの屋上だった
ただ、致命的に常識と異なっているのは、あらゆる色彩が欠けている、ということだった
深い藍色を湛えているはずの夜空は灰色に染まり、月の光は白んでいる
いや――欠けているのは色彩だけじゃない
虫のさざめきも、夜風の運んでくる心地よさも、どこか現実感がない
何か、どこかが欠けている
それを、上手く言葉にはできないけれど
とにかく、この空間は異常であると、私は本能的に感じ取った
透子
私
振り向くと、そこにはセーラー服の少女が立っていた
赤い扉と、私の間にちょうど挟まる格好で
それだけで、彼女もまた異常な存在であると証明するには、十分すぎるほど十分だった
主
主
主